第十三話 邂逅、金色の麗剣士
昇格試験に訪れた廃鉱、その中で俺達は、謎のフードの男が放った巨大な黒騎士と相対していた。
「どれだけ強そうな相手でも、六対一ならなんとかなるのじゃ」
確かにアイリスの言う通り、このままなら黒騎士を全員で取り囲んで倒せるだろう、だが。
「あいつ……何を!?」
俺達を一瞥した黒騎士が片腕を前方に翳したその瞬間、奴の周りから、先程倒したあの戦闘員達が次々と現れたのだった。
「ぎゃ、逆に囲まれたのじゃ!」
その戦闘員達は一糸乱れぬ動きで、あっという間に俺達を包囲してしまった。
俺たちが戸惑っている間にも、黒騎士から次々と戦闘員が生み出されていく。
「早く止めないと、切りが無いわよ!」
俺達を囲む戦闘員を倒していくが、数が多くて中々黒騎士まで辿り着けない。
「つまりは、あれを倒せば良いのでしょう!」
「カレンさん!?」
痺れを切らしたのか、カレンが黒騎士目掛け突撃を掛けた。
そのカレンに向け、右手の大剣が振り下ろされるが……
「その程度で!」
カレンはそれを軽く身を捻るだけで回避すると、地面に付いた大剣と右腕を一直線に駆け上がり、レイピアを稲妻のように煌めかせ、一瞬でその首を落としたのだった。
「見掛け倒しでしたわね……」
地面にあっけなく転がった黒騎士の兜を一瞥し、一息つくカレン。
「ちょっと待って! こいつ、中身が無い!?」
その首を見たシェリーが驚いたように叫ぶのと、兜の目に当たる部分が赤く光り、禍々しい光がカレンに向け放たれたのは、ほぼ同時だった。
「な……」
「危ない!」
そのカレンを咄嗟に突き飛ばし、射線から対比させたが、代わりに俺が光線の直撃を食らってしまった。
「ヒカルさん!?」
勢い良く吹き飛ばされ、衝撃で変身が解除される。
「こいつ、鎧だけで……!」
「バラバラになったのじゃ!?」
頭から血を流しながら地面に倒れ込む俺の目に、鎧の部位がそれぞれバラバラになって空中を自由自在に飛び回る姿が見えた。
どうやらアイツは中身の無い鎧その物の魔物、ということらしい。
「貴方……どうして」
そんな俺に、困惑した様子で話しかけるカレン。
「どうしてって、体が勝手に動いただけなんだけど……」
「……」
俺が正直に答えると、不思議そうな顔をして黙りこんでしまった。
「ヒカルさん、大丈夫ですか?」
「ああ、それより、あいつを止めない……と!」
差し出されたサクラの手を取り、どうにか立ち上がる。
「変身!」
RIDE ON! RIDE HERO! CRUSH!
「貴方は一体……」
初めて変身を間近で見たカレンの困惑した声を聞きながら、再び変身を完了させる。
「皆、聞いてくれ、あいつを倒す作戦がある!」
俺の頭の中には、黒騎士を倒す手が既に編み出されていた。
ああ言う手合の対処方法なら、何度も見たことがある。
クラッシュの火力ならば……
「シェリーとサクラは、雑魚を倒して退路を開いてくれ!」
「はい!」「分かったわ!」
俺の言葉に戦闘員を倒し始めるシェリーとサクラ。
まずは出口までの道を確保。
「アイリスは奴がもう一回一つに戻ったら、影で奴の動きを止めてくれ!」
「出来るかもしれんが、恐らく……すぐに振りほどかれるのじゃ」「それでも良い!」
「わ、わかったのじゃ」
少し困惑した様子で力を溜め始めるアイリス。
次に敵の動きを止め。
「最後に……ナタリア!」
「ああ!」
「あいつの動きが止まったら、俺を思いっきり空中へ飛ばしてくれ!」
ナタリアの魔法の腕なら、相当の重量を持つクラッシュであろうと、かなりの硬度まで舞い上がれるはず。
「上へ!?」
「空からの方が、狙いが付けやすいからな」
流石のナタリアも一瞬戸惑った様子だったが、直ぐに理解した様子で杖を構え呪文を唱え始めた。
あの数を一斉に撃ち抜くには、水平からより斜め上のほうがやりやすい。
それに、皆を射撃に巻き込まなくて済むからな……
「そして俺が奴を倒したら、皆は全速力で出口へ!」
この廃坑がどれくらい丈夫かは分からないが、恐らくクラッシュの攻撃では…
「カレンさんは、巻き込まれないように……」
俺の隣に立っていたカレンにそう告げると、彼女は憮然とした表情で。
「私を、見くびらないで欲しいものですわね」
レイピアを正面に構えて誇らしげに答えた、どうやら余計な気遣いだったようだ。
「……分かりました、貴方は俺が力を溜め切るまで、俺を守ってくれますか?」
クラッシュの防御力なら多少の損害は無視できるけど、万全を期すなら出来るだけ無傷の方がいい。
「それくらい、容易い事ですわ!」
カレンがそう答え、俺を庇うように戦闘員達の前に立ちはだかった。
「来るぞ!」
その直後、滞空していた黒騎士の各部が、一斉に俺たちに襲い掛かって来た。
「奴が分離している時は防御に徹するんだ、そのうち痺れを切らす!」
恐らく分離している間は手数が増えるが攻撃力が低下するはず。
俺は、第25話「アンブレイカブル・マン」で似たような状況になったことを覚えていた。
「合体するわよ!」
そして俺の予想通り、膠着した状況に痺れを切らした黒騎士のパーツ達が、次第にまた一つの形を取り戻していった。
「アイリス!」「任せるのじゃ!」
「動きが……」
俺の合図とともに地面から一斉に黒い手が這い出し、黒騎士の動きを止める。
「ナタリア!」「ああ!」
「風よ!」
そして俺は、ナタリアの魔法で一瞬の内に洞窟の天井まで飛び上がった。
「も、もう無理じゃ……」
なんとか動きを止めていた影を振り払い、黒騎士が再び自由になろうとしていた、その時。
「全エネルギー、解放!」
空中に浮かんだ俺の全身の結晶が強く碧に光り輝き、体に溜め込んだエネルギーを全武装に供給する。
「クラッシュ・ストライク!」
そのエネルギーが臨界に達し、一斉に全身の武装から光の奔流が放たれ、黒騎士の全パーツ、そして回りにいた戦闘員までも一瞬で消滅させたのだった。
「倒した……の?」
シェリーが呆気に取られたように呟いた次の瞬間。
「廃坑が!?」「崩れるのか!」「逃げろってこういうことだったのじゃ!?」
廃坑内を激しい揺れが襲い、天井から岩の塊が凄まじい勢いで降り注ぎだした。
やはりクラッシュの攻撃に耐え切れず、廃坑が崩壊を始めたようだ。
「ヒカルさんも!」
地面に落ち、そのまま倒れこんでいた俺にサクラが呼びかけるが。
「どうやら、全力出し切ったみたいで……」
俺は変身も解除され、全く体に力が入らなくなってしまっていた。
傷を負った体で無理をし過ぎたか……
「全く、世話が焼けますわね……!」
「カレンさん!?」
そんな俺の両足をカレンが掴み、思い切り担ぎあげた。
「ほら、貴方も見てないで手伝いなさい!」
「は、はい!」
サクラに頭を持たれ、まるで荷物を運ばれるように持たれながら出口へ向け進んでいく俺。
助けてくれるのは嬉しいんだけど、他に持ち方は無かったのかな……
「か、間一髪だったのじゃ……」
そして俺が洞窟から脱出するのと同時に激しい衝撃とともに土煙が上がり、完全に廃坑が土砂に閉ざされた。
「みんな、無事ですか?」
「な、なんとかね」
サクラに肩を貸してもらいながら周囲を見渡すと、全員どうやら無事に脱出できたようであった。
「そういえば、試験ってどうなったんだろう?」
「……すっかり忘れていたな」
そこで俺は、ここに来た元々の目的を思い出していた。
ここまで大事になったのなら、中止扱いでまた後日なのかな。
「それなら、合格ですわよ」
「え?」
そんな俺達に、カレンがあっけなく合格を言い渡した。
「今回の試験、私が試験官でしたもの」
「ええー!?」
戸惑う俺達にカレンが説明した内容を纏めると。
カレンは上級ギルドの一員として洞窟の奥で待ち構え、下級ギルドの戦闘試験を担当することになっていたらしい。
既に上級ギルドであろう黄金同盟のカレンがここにいるのは不思議だと思っていたけど、そういうことだったのか。
「本来なら、私が戦ってその力を見極める所でしたが……」
そう言いながら俺たちを見回すカレン。
「先程の戦いを見る限り、貴方達にはそこそこの実力はあるようですね」
レイピアを仕舞い姿勢を整えると、少しだけ俺たちを認めた様子でそう呟いた。
「偉そうな言い方……」
「シェリーちゃん!」
小声で不満を告げるシェリーとそれを宥めるサクラを一瞥し。
「そうですか、ありがとうございます、カレンさん」
俺はさっきの事も含めて、素直に礼を告げていた。
「べ、別に礼はいりませんわ、それと、敬語も付けなくて構わなくってよ」
何故か少し顔を赤らめながらそう返すカレン。
もしかして、お礼を言われるのに慣れていないとかなんだろうか。
「ええっと、じゃあ、カレン?」
「……」
その言葉に甘えて呼び捨てで名を呼ぶが、彼女は後ろを向いて黙りこんでしまった。
そっちが呼んで良いと言ったのに、どうしたんだろう。
「カレン?」
「貴方達とは、良い好敵手になるかもしれませんわね」
不思議そうにもう一度名前を読んだ俺を振り向くことなく、彼女はそう告げると。
優雅な姿勢を崩さず流麗に去っていったのだった。




