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第一話 大剣の少女と白い英雄  

 『ギルド虹光旅団 団員大大大募集! 

 只今当ギルドでは、新人団員を大募集しております。

 未経験者でも大丈夫! 優しい先輩が、手取り足取り教えます。

 笑顔の絶えない明るい職場です! 

 お問い合わせは、イーレンギルド会館か、直接イーレン西区虹光旅団本部まで!

 虹光旅団団長:サクラ・アークフィールド』

 

「新しい勧誘チラシ、これでどうでしょうか!」


 ついさっき完成した勧誘チラシを見せ、私は満面の笑みで微笑む。


「うーん……まあ、いいんじゃないか」


 曖昧に答えるのは、このギルドの相談役のエイラさん。

 綺麗な黒髪を無造作に伸ばした端正な顔立ちの女性、眼帯に義手義足と見た目は厳つい。

 でも心根は優しい人で、両親を早くに失った私の親代わりとも言える人だ。


「もっと真剣に考えて下さいよぉ!」


 こうやって勧誘チラシの件を聞くのは何度目かになるが、エイラさんはこういうことは苦手なようで、あまり良いアドバイスは貰えていなかった。


「真剣って言われてもねぇ……」


 暫く首を傾げてから、エイラさんは壁に架けてあるカレンダーを見て、思い出したように呟いた。


「……それより、雑貨屋の仕事、今日までじゃなかったかい?」

「えっ……あー!!」


 その言葉に私は、雑貨屋さんから採取の依頼を受けていた事を思い出す。

 しかも期限は今日の夕方までだ。


「行ってきまーす!」


 慌てて準備を整え、扉を開けるが早いか私は大通りへと飛び出した。


「慌てすぎて転ぶんじゃないよ」

「分かってまーす!」


 振り向かずにエイラさんに答え、そのまま私は全速力で走り出した。

 私の背中に担がれているのは、小柄な私には不釣合いなほど大きな銀の宝剣、正直とても重いけど、私がこれを装備しているのには理由があって……


 イーレン西区の大通りは何時もの活気に溢れていて、猛ダッシュする私によく知った町の人達が話しかけてくる。


「おやサクラちゃん、こんにちは」


 ゆっくりとした口調で話しかけてきたのは、花屋のアーデルお婆ちゃん。


「サクラちゃんは今日も元気ねぇ」


 次に話しかけてきたのは買い物途中らしき主婦のドラルさん。 


「おう、サクラ! どうでい、一杯やってかねぇか!」


 最後は魚屋のゲイルさん……って昼間からお酒飲んでるし。


「こんにちは!」 「どうもどうも!」 「私お酒飲めませんよぉ!」


 それに走りながら応対し、十分足らずで町の西門まで辿り着いた。


「こんにちは門番さん!」


 鎧姿の門番さんに挨拶。


「サクラちゃん、今日も仕事かい?」

「はい!」


 もうすっかり習慣になった挨拶を済ませる。


「一応言っておくけど、危険な魔物の居る場所には近付かない事、それと……」

「分かってます! ちゃんと夕方には帰ってきます!」


 聞き飽きた注意に、ちょっと食い気味に応答してしまった。 


「はは、今更だね」


 その私の態度に、門番さんは苦笑していた。

 ちょっと焦りすぎだったかな……


「でも、最近森は物騒らしいから、用心するんだよ」

「はーい!」


 元気良く返事を返してから、町の外の街道へ出る。

 森が物騒って言っても、これから行く場所は何度も行った安全な採取地だし、まだまだお昼だし、大丈夫大丈夫。


 そして、イーレン近郊の森に入ってから一時間も経たないうちに、私は採取を終えていた。


「赤キノコ3つと薬草2つに香草4つ……」


 採取した素材を確認、何度もやってる事だけど、それだけにこういう事って大事だよね。


「よし! 採取完了!」


 頼まれた素材を確認し、後は来た道を戻るだけとなった。


「後は帰るだけ……」


 その時、近くの茂みから、何か大きな音がしたような気がした。


「うん……?」


 思わずそちらを振り向く、目には見えなかったが、何か居るような気配がそこに確かにしていた。


「く、熊か何か……だよね?」


 そう私が呟いたとき、茂みが更に大きく揺れ、そこから何か大きな影が飛び出してきた。


「ひゃぃ!?」


 飛び出して来たのは、今まで見たことも無いようなおぞましい姿の魔物だった。

 私と同じくらいの大きさで、二本の足で一見人型に見えるものの、蜘蛛のような六本の腕、毒々しい極彩色の色、そして複眼と大きな牙の生えた異様な顔面。

 その姿は、私が今まで相手にしてきた下級の魔物とは明らかに違う雰囲気を放っていた。


「に、逃げなきゃ!」


 この相手には勝てない、そう直感的に判断し、一目散に逃げ去ろうとする。


「いゃぁぁ!」


 だがその口から吐き出された白色の糸のような何かに絡め取られ、全く身動きが取れなくなってしまった。


「なん……で……」


 動けない私に、その魔物はゆっくりと近付いてくる、どうしてこんな所にこんな魔物が居るのか、私はもうここで死ぬんだろうか。

 そんな纏まりの無い考えが頭をぐるぐると巡る、そして、その魔物の牙が私に向かって振り下ろされようとした、その時。


「きゃぁっ!?」


 突然魔物が吹き飛ばされ、その衝撃で私に絡み付いていた糸が解ける。

 何者かに抱え起こされた私は、そのままの体勢で少し離れた所に運ばれた。


「大丈夫か?」


 私を抱えたまま話しかけてきたのは、輝く白い鎧の見慣れない騎士だった。


「ひゃ、ひゃい……」


 その騎士は私を抱え降ろすと、そのままあの魔物と戦い始めた。


「凄い……」


 騎士はは全くの徒手空拳ながら明らかに中級以上と思われる魔物を圧倒し、そして私が知るどの職業にも当てはまらないような華麗な技で、一気にあの魔物を葬って見せたのだ。

 私は彼の戦いに見惚れていた、あんな戦い方は全く知らなかった、彼は一体何者なのだろう?


「あの、助けてくれてありが……」


 戦いを終えた彼に駆け寄りながら感謝を述べようとすると。


「えっ!」


 彼が行き成りその場に倒れこんでしまった。


「ちょ、ちょっと、大丈夫ですか!?」


 慌てる私の前で、彼はその姿を鎧から全く別の服装に変化させた。

 その事に更に驚きながらも、私は意識をまるで取り戻さない彼に何度も呼びかけていたのだった。


_______________


 眩しい木漏れ日に照らされて俺が目覚めたのは、まるで見覚えの無いどこかの森であった。


「ここは……」


 確か昨日は何時ものように床に付いたはず、記憶を辿ってみても、こんな森には来た事もなければ 旅行などで森に行く予定なども無かった。


「寝てる間にテレビのドッキリ! ……ってそんな訳無いか」


 あまりに突拍子も無い状況に、誰に聞かせるでもなく冗談を呟いた時。


「ん……?」


 俺の腰に巻かれているベルトに気が付いた、それは俺がヒーローに憧れるきっかけになったある番組の変身ベルトで、傷の付き具合などからして俺の物だと思われるが、寝てる時まで付けてたっけ……?

 そんな事を考えていた俺の意識は、突如響いてきた悲鳴によって一気に覚醒した。


「何だ!?」


 悲鳴のしたほうに走り出すと、そこには蜘蛛のような怪人……? に襲われている女の子の姿があった。

 女の子は怪人が吐き出した糸に絡め取られていて、かなり不味い状況だ。


「でっかい蜘蛛……と、女の子!?」


 そのまさに特撮のような状況に、一瞬思考が停止する。

 だが次の瞬間には、俺は行動を開始していた。


「何だか分からないけど、放って置けない!」


 蜘蛛怪人に向かって思いっきり飛び蹴りを放つ、正直かなり恐かったが、それ以上に襲われている女の子を見捨てて置けなかった。

 俺が憧れたヒーローなら、この場面で絶対に逃げない、そんな気持ちもあった。


「ベルトが……!?」


 俺が飛び蹴りを放った瞬間、腰に装着されたベルトが突然眩しい光を放ち。


 RIDE ON! RIDE HERO DASH!


 俺にとっては聞き慣れた電子音声と共に、俺の視界は真っ白になった。

 そのまま無我夢中で蜘蛛怪人を蹴り飛ばし、倒れていた女の子を抱きかかえる、


「大丈夫か?」

「ひゃ、ひゃい……」


 驚いた様子で答えるその女の子は、鮮やかな薄紅色の髪をセミロングにした俺と同い年くらいの美少女で、背中には不釣合いなほど大きな大剣を背負っていた。

 その中世ヨーロッパ風の格好や剣から、まるでRPGの登場人物みたいだな、と俺は感じていた。


「君は下がってて!」


 女の子を少し離れた所で降ろし、そのまま蜘蛛怪人の方へ向き直る。


「まんま特撮の怪人だな……」


 改めてその怪人をまじまじと観察する、その六本腕や派手な色、醜悪な顔に至るまでテレビや図鑑で何度も見た特撮怪人そのものといった感じだった。

 その怪人は、俺を敵と認識したのか、何度か怒った様に口を開閉すると、白い糸を連続で吐き出し攻撃して来た。


「そんな物!」


 だが体中から力が溢れてくるような感覚の中に居た俺に、その攻撃は全く意味を成さなかった。

 通常では考えられないスピードで次々とその糸を回避し、一気に怪人へ接近する。

 そのままの速度で敵に殴りかかり、右ストレートからの連撃で怪人を怯ませ、回し蹴りを胴体に側面から当てて吹き飛ばした。


「凄い……」


 何メートルも吹き飛んだ怪人を確認しながら、俺は自身の体に起こった出来事に驚愕していた。

 これは只の玩具のベルトのはず、それなのに今の俺は、まさにテレビの中のヒーローのごとき力を手に入れていたのだ。 

 まじまじと水溜りに写った自身の姿を確認すると、そこに居たのは、俺が憧れたあの姿そのものであった。

 下地は黒のシンプルなスーツだが、幾つもの光り輝く白い結晶が全身に幾何学的に配置された神秘的な外見、そして骸骨を思わせる頭部と、真っ赤に光る両眼。

 かつて俺の心を掴んで離さなかったヒーロー、"ライドヒーローダッシュ"の姿が、そこにはあった。



「本当に変身できたんなら!」


 逃げ出そうとする怪人へ向け、俺は何度も目にし、何度も練習した動作そのままに、必殺技を繰り出した。

 まず、ベルト両脇のボタンを同時に押す。


 MAXIMUM CHARGE!


 電子音声と共にベルトが光り輝き準備完了。

 全身に力が漲るのを感じてから、両足でしっかりと大地を踏みしめ、怪人目掛け全力の飛び蹴りを放つ!


「ダッシュインパルス!」


 DASH IMPULSE!


 空中で技名を叫ぶと共に俺の右足の結晶が凄まじく発光し、エネルギーを集中させた飛び蹴りが怪人に命中、反動で一回転しながら着地すると、その背後で怪人が一瞬白い光りに包まれ、内部から溢れるような閃光を放ちながら大爆発した。

 それは俺が何度も夢見た、あの必殺技そのものであった。


「やった! ……ぐっ!?」


 自身の手で憧れの必殺技を放った感動に打ち震えていると、突如俺の視界にノイズが走った。

 抗えない激しい疲労感が体を包み、何も考えられなくなる。 


「あの、助けてくれてありが……」


 感謝を述べる女の子の声を聞きながら、俺は意識を……失っ……


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