第1の大罪〜“暴食のゴーラ”現る
今朝、俺はいつも通り9:30に起き昼から始まるアルバイトへ行く準備をしていた
毎日起きてからの日課とも言える、コップに眠気覚ましのコーヒーを入れる
いつもの変わらない何気ない朝だ
俺はリビングにある一人分のサイズのソファに腰掛けリモコンでテレビをつけた
P○Nというニュース番組を見ることも俺の日課となっている
ニュースでは昨夜の少年失踪事件についての話題で持ちきりだ
なにやら少年が大勢の人々が行き交う商店街の中で突然姿を消したという
(まぁどうせさほど人気もない商店街だ
誘拐犯か誰かがどっかの路地裏にでも引き込まれたんだろう)
我ながら酷く他人事のように、いや実際他人事なのだが、呆然とそんなことを考えていた
そんな時『プルルルル…』と固定電話が音を立てる
固定電話のあの高い、無機質な音を朝から聞くのは少々イライラする
どこか不機嫌な気持ちを抑えるようにしつつ強引に受話器をとる
『あ、もしもしカズか?お前この前かした昼飯代、そろそろ返せよ〜』
大学の友人の声だ
俺の名前はカヅチ、変な名前というのもあり彼のような大学の友人はみんなもじってカズと呼んでいる
『わかったよ。まったく、俺の朝は忙しいって毎回言ってるだろ、また後でな』
『はいはい。じゃあ今度、ちゃんと返せよ』
なんとか自分のイライラを表に出さずに会話を終えることができた…と一安心する俺に
『プルルルル…』
またしても受話器が鳴り響く
俺はてっきりさっきの友人かと思いその音の発信源をぶんどってやった
『もしもし?だから俺の朝は忙しいんだって!』
『ふっふっ朝から不機嫌そうだねお兄さん♪
そんなお兄さんの機嫌がよくなるとっておきの魔法をかけてあげよう』
そこから聞こえたのは少年ほどの、少し高めの声だった
『…はぁ?』
突然の子供の戯言に俺は脳の理解が追いつかなかった
(…っ!?)
言葉を発した直後、俺の体は突然の眠気に耐えられず地面へと倒れることを余儀無くされた
『お、お前…一体何を…』
それを言い終るまえに俺の意識は遠のき、目の前は真っ暗になっていった
目が覚めた瞬間、そこは真っ暗な世界だった
眼前にはネーム設定画面のような空白の直方体型映像が映るのみだった
俺はわけもわからず辺りをキョロキョロと見回すと目の前の映像からカチカチカチというキーボードを叩く音が聞こえる
音と共に一語一語がアルファベットで刻まれて行く
【You got abilityto handle electricity】
意味のわからない現象に戸惑うほかすることは無いに等しかった
するとその世界はパラパラと砕けていった
砕けることをやめない漆黒の世界は砕けた隙間から青い光をともしつつ、そして消えた
その世界の外側は…そう、察しの通り一面の空だった
上や横は一面真っ青で美しく下は雲で真っ白、底も見えない
推定約3000mと言ったところだろうか
そして今の状況に至る
さっきは唐突だったので混乱していてわからなかったがありとあらゆるアニメを見た俺にはわかる…この日現実的な現象、つまり異世界に召喚されたのだと、そしてもう一つ常識外れの出来事が起きていることを
それはさっき現れた
【You got abilityto handle electricity】
【貴方は電気を操る能力を得た】
アニメ的な流れからすると恐らく俺は電気操作の能力を手にしたのだろう
何と中二病チックな出来事だろう、喜こばしい限りだ………
さて、何故高度3000m(少し時間経過したので今は高度2000m程だろう)の空から落ちているのにも関わらずこう冷静な解説をできているのかというと俺はやはり異世界に連れて来さされたのだ、だからきっと来させたアイツが何処かにいるはず
という推測が元になっている
ここに連れてきたのは能力を与えるようなヤツだ
もしくはそれがアイツの能力かもしれない
我ながら素晴らしく冴え渡る脳だ
まぁ能力というものそのものをあまり理解してないのに思考だけ巡らせるのは時間の無駄だ
俺が地面にぶつかりそうになった時にはきっと魔法とか超能力とか何かを使って助けてくれるのだろう
むしろ呼んでおいてそのまま地面にぶち当てるなんて対応は非人道的だ…というかまず死ぬ
だから絶対大丈夫なはずだ
そう絶対…
きっと…
たぶん…
そう思っている間に高度はどんどんと下がって行き、雲は抜けて砂漠である黄色い地面が見えてきた
流石に少し怖い、いくら助かるとわかっていてもやはりあのような高いところから落ちるのは怖い
だがきっと助かる、助けてもらえる
そう自己暗示して地面が目前に来るのを待ち構えていた
きっとそろそろ止まってくれるだr…
ドーーーーーーーーーーーーーーン
予想は大きく外れた
全く止めようとする、重力に逆らう力も感じずただ地面にぶつかる衝撃だけが体を打った
『痛ってぇぇぇぇ!!!!』
体に走る痛みはしかし不思議と叫ぶほどでもなかった
例えるなら、そう、足を軽く捻った時程度の痛み
我慢したら平然とした顔でもいられるような程度
まぁこんな現象も異世界とあらばあり得なくもないのだろうか
まずいくら助かると思い込んでいたとはいえ上空推定3000mという酸素濃度が薄い状態のところから体感で時速200kmで落ちてる時にあれ程落ち着いて解説を出来ていたのだ
常識が通じないのは明白だ
『なんか微妙な痛みだったな』
俺は特に痛かった頭をさすりながらゆっくりと立ち上がる
ふと落ちて来た上を見てみると上から黒い影が少しずつ大きくなっているのがうかがえた
それは手紙だった
紅のシールで塞がれてる白い便箋を破って中身を見てみると
『どうもこんにちは、僕はこの世界の創造主、まぁ言うなれば神?的な呼ばれてる存在なんだけど〜
まぁ改めておめでとうと言わせてもらうよ!
突然こんな世界に呼び出されてさぞ困惑してるだろうけど早速、君達には僕からの依頼を受けて欲しい。
予め言っておくけどこれお断ることはすなわち元の世界に帰れなるってことだからね
でも〜強制じゃないから能力をもったままこの世界にいつづけるという手段もありだよ
しかしこの依頼をクリアした者には元の世界返しかつ、巨万の富と名声、幸福な未来を約束しよう。
でもね僕はふとこれでも不満と言う者もいるかもしれないと思ったんだよね
だから紳士的な僕はそういう人のためにクリア報酬を2種類用意したんだー
もう1種類の報酬とは願いをなんでも3つ叶える(そのうちに願いをたくさん叶えるようにして欲しいなどの願いは含まない)というものだよ
死んだ人間を蘇らせるも良し、嫌う人間も事故死として殺すも良し、そういったことも叶えてあげよう。
さてその依頼とは
君達には“七つの大罪”を倒して欲しい
これは君たちに課せられた試練だと思ってやってね
またヒントなどは一切無し
じゃあみんなの検討を祈るよ』
めちゃくちゃだ…文章も内容も
主に子供っぽい☆や^ ^が合間に入るような文章である
信用度もかなり欠けるが…それ以上にこのクリア報酬は是非とも欲しい
『金も地位も…ということは女も…グヘヘ』
思わずヨダレが垂れる
この依頼である“七つの大罪”とは一体何なのか情報集めのためにとにかくどこか人のいるところへ向かわなくてはならない
この文章から七つの大罪に関することは全く書かれていないようだ
唯一わかることといえば文章の書かれ方からしてここには同時多数の人間が召喚されたと考えられる
『あぁ〜だが色々とわからないことが多すぎるっ!まずどっちに都市があるんだ!聞き込みをしなければ始まらない』
頭を掻きむしって考えているとふと髪の毛と指の間にバチっと静電気が流れたのを感じた
『あっそうだ、まず本当に俺に能力がついているかを考えよう』
とポンッと手を叩いた
ありガチなやり方としては指先に意識を集中させたりすると出来るというが
『よっ!はぁ!てやっ!』
どう頑張ってもそこに電気らしきものが見えることはなかった
『ちぇ、直ぐに口から電撃ビーム!とかは無いのか?』
つい俺は誰もいない広大な砂漠の中で謎のジェスチャーをしながらそう言ってしまった
やはりまずは同じ能力者、又は一般人から情報を得る必要がある
俺は気合を入れ直しひとまず落ちてた乾燥した木の枝を立て倒れた方向に進むというとてつもなく子供っぽい手段で都市を求めて歩き始めた
30分後…
『はぁ…はぁ…都市は…ど…こ…だ…』
俺は足取りもふらついて微かな意識の中歩いていると
『あっあれは!!』
遠くに都市が見えた
俺は全力で水と食料を求め走った
10分後
『つ…着いた…』
そして俺は都市に着くや否や即座に水を買ってその場で飲みながら倒れこんだ
『はぁ…俺何しに来たんだっけ…』
自分の目的を脳内で捜索し見つけ出した答えを口に出して忘れないようにしておく
『そうだ…七つの大罪と能力について聞きこまなきゃ』
俺は疲れ切った体に鞭打って壁に体重をかけながら起き上がり道ゆく人にまず七つの大罪について聞いて歩いた
『すみません、七つの大罪という者を知っていますか?』
虚ろな目をしていたからかみんな少し引き気味の顔を浮かべつつも何人聞いてもみな返事は違えど内容は一様に
知らない
と答えるばかりだった
しかし、17人目に聞いた爺さんは少し違っていた、悪い方向に
『七つの大罪⁈聞いたことないな〜
どうだ時間潰しに詳しく話してくれねぇか?向こうの喫茶店で詳しく聞かせてくれよ!』
面倒なことになった
こういう知識欲の強い人はなかなか帰してはくれない
他にも召喚されてる人がいてこの手紙をその人たちも貰ってたとすると一刻も早く七つの大罪を倒して報酬を手に入れないと他の奴らに取られてしまう
とにかく手っ取り早く話して帰してもらおう
逃げるという選択肢もあったがさすがに怪しまれるようなことは自粛しようと考え俺は爺さんが指を指した喫茶店に行ってさっきあったことを話した
『いや実はよくわからないとある人から手紙が来て“七つの大罪を倒して欲しい”と書かれていたんです。他の情報はまるっきりなにも…だからその人について知ってる人がいないか聞いて回ってたんです』
異世界から来たこと言うと話がややこしくなりそうなのであえてそこは伏せて置いた
『ほほぉ…七つの大罪という生き物を倒してほしいと頼まれお前さんは報酬目当てのためにそれを実行しようとこう聞き込みをしているというわけじゃな?』
『んっ爺さん、いつ俺が報酬があると言った?』
『ん?そんなわけのわからん依頼を何の報酬も無しにやろうと思う人がいるわけがないだろう』
もう全てを聞いたと思い床に置いてたカバンを拾いがてらフォフォッフォと笑って自慢気に自分の推理を披露する叔父さん
『まぁ何かわかったら連絡をする』
『ところで爺さん名前は?』
爺さんが一瞬眉を潜めたことは気のせいではないだろう
『俺か?俺はゴーラだ』
『へぇ〜ゴーラか。変わった名前だな』
『お、おう。ところでお前さん、みたとこその七つの大罪とやらのために旅してるようじゃな。今晩の宿などはもう決めておるのか?』
何故か表情を一瞬曇らせたものの直ぐに表情をかえ、またフォフォッフォと笑ながら聞く
『あ…そうだった…泊まることなんかすっかり忘れてて何も考えてなかったぜ』
『ならどうじゃ?今晩ワシのうちに泊まらんか?もっと他にも話してみたいしのぉ』
ゴーラは優し気な顔でそう言ってきた
無論俺は速攻でお言葉に甘えるつもりだった…さっきの違和感がなければ
『ん〜いや、わりぃが遠慮しておくよ』
『おぉそうか…残念じゃな。まぁどちらにせよ少しうちで休むと良い』
『…まぁそれぐらいならいいか』
さすがに二度も断るのは失礼だと思い今度はそれに従った
『じゃあまぁ飯を食ってからにするか!ワシの家にはそんなに食べ物は無くての』
そう言ってゴーラはざっと10人前は越すであろう数の料理を注文した
『さて、お前さんはなにを食べる?』
『ご…ゴーラは一体何人前食うんだ?』
苦笑しながらそう問うとゴーラは
『1日で50人前弱といったところかの』
『………』
こんなごく普通の爺さんのどこにそんな胃袋があるのだろうか
驚きのあまり声も出ない
俺は驚きのあまり食欲が失せて結局飲み物を一つ頼んだだけだった
30分後
『ふぅ食った、食った』
(本当に全部食いやがった、この爺さん何者だ)
俺はあえてその言葉を心の中にしまって置いた
『さて、そろそろ行くか!ついてこい、ワシの家はこっちだ』
通りざまに代金ピッタリの金額をレジの前に起きゴーラはセカセカと店を後にした
それを期に会話は途絶えしばらく二人がトボトボ歩くだけの音のみとなった
俺は静かなこの場が落ち着かず目の置き場に困りゴーラを見ていた
この沈黙を破ろうと思ったのは俺がゴーラが自分のポッケに手を突っ込んでモゴモゴしてることに気づいた時だ
『ゴーラ、ポッケの中で何してるんだ?』
『あぁ、これはワシのくせでな。気にするな』
そう、顎からヒゲを撫でるようにしながらゴーラは言った
俺はそのときゴーラのポッケに何か光る銀色の物が見えた
その正体がわかった瞬間俺は今まで感じた違和感、その全てが繋がった
『ところでゴーラ、七つの大罪は本当に知らないのか?』
『ほぇ?』
ゴーラは驚いた顔を見せる
俺はゴーラとの距離を一気に詰めてポッケの中の光る物体…ナイフを握る
さっき光った部分が刃のところだとわかっていたので枝を握るのは容易であった
さらに握ったそのままの勢いで振り抜くとポケットが破れアッサリその銀色の輝きが姿を見せる
『もう一度聞く…本当に知らないのか?ゴーラ?お前7つの大罪の中の一人、最低でも関係者だろ』
俺はナイフをそのままゴーラに向けつつそう聞いた
すると…ゴーラは急に笑だし
『フォフォッフォ何故わかった?…とまぁ聞くまでもないだろうが』
『まぁそうだな一番のきっかけはお前が名前を言う時に眉を潜めてからゴーラと言ったことだな』
ゴーラは不気味な笑みを浮かべている
『七つの大罪、暴食の感情のラテン語、ゴーラをな。あとはさっきの食う量とかも根拠の一つだな』
『やはりそうだったか…失敗だったな』
今度は不気味などではなく面白がるように笑ながらゴーラはそう言う
『そもそも七つの大罪とは人の死に至る罪であり、キリスト教での用語では人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望や感情のことを指すものだ。それは憤怒、嫉妬、傲慢、暴食、色欲、怠惰、強欲という7つの感情だ。そしてゴーラは暴食をラテン語にしたもの』
『そうだ、その通りだ』
胸元にナイフがあるにも関わらずゴーラは冷静にそう答える
『しかし俺は名前を言わなくてもお前を今のように動けないようにするつもりだったぜ?』
『なっなに?!』
ここにきて始めてゴーラが心から驚いた表情を見せる
『最初にお前は“七つの大罪という生き物”と言った。俺は“七つの大罪という人”と言ったのにだ。そしてその次に俺が名前を聞く時、お前は帰るそぶりをしてカバンを手にかけてたな。人は嘘をつくとき人から目をそらしたり、物を触りたくなる。さっきポッケの中になにが入ってるかを聞いたときにヒゲを触ってたのも嘘をつくときの仕草としてよくあることだ。まぁそこらへんからこいつは何か隠してると思ったんだ』
『ホホウ…対した観察力だ…しかし、それだけでは人に刃物を向けるのは少々失礼ではないか?』
『あぁ…そうかもな。だが俺はお前が七つの大罪だと思って刃物を向けたわけじゃないぞ?ただお前のそのポッケにあったもんだ。えめぇが何をするつもりだったかは知らねぇが少なからず危害をくわえないつもりはなかったんだろう?
もともとお前の妙に自分の表情を隠すような薄ら笑いには気になってたから注意はするつもりだったがな』
『ナイフや表情まで見抜かれていたとはな!フォフォッフォ…しかしお前は一つ過ちを犯しておるぞ?』
『なんだと?!』
『それは手っ取り早く俺を殺さなかったことだな』
そこで俺はゴーラの能力を知ることとなる
しかし一人称がワシから俺に変わったことに気づくのはもう少し後になってからだった
『まっ待て!』
俺がそう告げようとしたときには、ゴーラは目の前から消えていた
『お前ならいつかは俺たち七つの大罪を倒せるかもな…それまで楽しみにしておくよ…フォフォッフォ』
微かに空中に漂うその声を残して…
『一体何者だ…クソッタレ』
俺はポツリとそう呟いた