オーロラカーテン
俺は窓辺をひらひらとそよいでいる。
薄汚いベージュのカーテン。
昼間は夏冬問わず開け放した窓の外から見える景色はいつも変わらない。
灰色の街。
俺の住処の住人は、画家だ。
いつもキャンバスに向かっている。
灰色のシャツを着ている。
部屋は絵が散乱していて、打って変わって色とりどりだ。
風景画が多い。
だが、絵のわからない俺からしてもパッとしない絵だ。
画家は、夜10時になると、家を出ていく。
紙袋に紺色の服を詰めて、出ていく。
道路に立って、赤い棒を振っているらしい。
何のことやら。
それで生計を立てているらしい。
絵ではやはり食っていけないようだ。
画家は朝7時になると帰ってくる。
昼過ぎまで一眠りして、またキャンバスに向かう。
また夜10時まで、ずっと。
画家の悶絶する声がした。
この前コンクールに出した絵が返ってきたらしい。
またダメだったようだ。
やはりパッとしない絵だ。
パッとしないのは俺も同じ。
洗濯などされることのない俺は、日に日に黒ずんでいく。日焼けもして、ベージュだったのか薄い茶色だったのかわからない。
パッとしない空。
晴れるでもなく降るでもない。
そんな日が何日か続いた。
そろそろ晴れて欲しいものだ。
洗濯もしてほしい。
画家も売れるといい。
だが…。
「もうー、絵なんてやめてやる!」
画家が言った。
部屋に散らばった絵をまとめている。
捨てるのだろうか?
パッとしない絵たちは泣いている。湖も、夕暮れ空も、森も、海も。
泣いている。
灰色の街もないている。
一枚だけ、街の絵があった。
それも、画家の手によって、一つところにまとめられた。
そして、何枚かずつ絵は外へ運び出されていった。
湖も、夕暮れ空も、森も、海も、灰色の街も。
残ったのは、画家と、俺だけ。
テーブルや、椅子も外へ運び出されていった。
「田舎へ帰ろう…。」
画家は、そうさみしそうにつぶやくと、俺をカーテンレールから外した。
画家は俺を持ったまま外へ出た。
そこでは、小さな庭で、絵が燃やされていた。俺は知らなかった。この庭の存在を。
窓の外の灰色の街しか知らなかった。
そして、俺は絵たちと共に、火にくべられ、あっという間に炎と化した。だが、その炎は絵の具のせいか、緑や青やオレンジなど、オーロラのような幻想的な色をしていた。
画家の絵が生み出した最も素晴らしい色だった。
俺はその素晴らしい色と共に燃え尽きて消え去った。
一瞬でも、パッとしないベージュのカーテンでなくなれただろうか。
俺は燃やされて後悔していない。
画家は、色鮮やかに燃え盛る炎をいつまでも見ていた。