Q.ギルドを消す方法は?
「と言うわけでソル、お前がギルドを潰せよ?」
「はい?」
こいつバカじゃないですか?というの俺の心の底からの言葉です。いえ前々から思ってましたがね。
失礼、俺はソル。何故かひょんな事から、現代日本からこの世界に来てしまった元人間です。
「適当に暴れてさ、ついでにギルドも潰してくれよ!」
『元』というのは何故か手から火やら水やらという魔法が使えたから。何故かね。魔法使いを人間という枠に宛がうのは現代日本人として癪なので、こう言っています。普通にあのまま現代にいたら、安定志向の公務員で安泰だったのに!!
「ギルドの下民共のくせに、俺を侮辱しやがったんだ!」
ちなみにソルはここの名前であって、本名はちゃんと日本名があります。まあ色々訳あってこの貴族擬きの家に……。拾われて専属の魔術師を担っているのですがね。貴族擬きと言うのは貴族と別の制度なのでそのように呼んでいます。まあまた今度説明しましょう。
「なあ、頼むよ!ソル!!」
非常に不本意だけど。
ともあれ言うことなす事が頓珍漢なこの男、蜂蜜頭のアルヴィス・ダ・ノノフィスはなんと仰られたかな?
「ええっと、……つまりどうしたいのです?」
「だから潰せって!こう建物ごと炎で焼き払うでもいい!」
「なんで、……爆破テロがしたいんです?」
「てろ?よく分からんが理由は話せば長くなるが、黄金の昼下がりをだな俺が……」
意味が全くわからなかったので、俺が適当に話を作ります。
領内の大事な水源である河川上流に魔獣が出たので、水の安全のためギルドに討伐依頼をしました。しかし支払金、ギルド側の要求金がとんでもない額だった、……と言うことにしましょう。彼の頭のために。
「あいつら! 俺がノノフィス家長男だからと欲を出しやがって!!」
「はあ……」
ギルドとは日本流に説明すれば株仲間や、座といわれる商人同士の連携。現代で言うカルテルであり、企業同士が値段や生産量をあらかじめ決め、消費者に買わせるということ。これは独占禁止法のある日本だとアウト。
つまりブラックな連中ですね。
ファンタジックなこの世界では独禁法なんてないけど。
え?ゲームの冒険者ギルドはそんなブラックじゃない?
具体的な説明と社会状況を明確に提示してからブラックじゃないと言える根拠をよろしく。
ともあれギルドで依頼をする場合、低所得者からは低予算で、高所得者からはかなりのぼったくりをするということを『あらかじめ設定されている』らしい。そうしないと首が回らないから。
アルヴィスは美女と遊び呆け、金をばらまいた矢先のぼったくりに腹を立て、自分でなんとかする!と啖呵を切ってしまわれた模様。残念なことに大抵の依頼はギルドを通してでないと、上流層の氏姓付きといえど信頼が無く、依頼は受けてもらいにくいわけで……。
まあ、ノノフィス領内の騎士と私とでなんとかしましたがね。
「ギルドの権力が高くなりすぎているということですね」
「そう!俺からぼったくりをしようということがどれ程愚かなことか思い知らせてやれ!!」
きらきらといい笑顔と長い蜂蜜色の髪を振り回して、簡単に言いやがりますよこのバカは…。
すっと指を振り、乱れた髪を整えて差し上げると、誰もが絶賛する堀の深い顔とのこと。正直西洋人風な顔はわからん。
顔と部下への金回りは良いけども、頭と下関係が残念。クソ野郎が下中心に爆発しろ。そして190はある大柄の体格。正直、同じ男としてはなぜあのように筋肉がつくのか甚だ疑問である。
これが西洋と東洋の違いですか?
まあそれはさておき、問題はそこではない。
「落ち着いてくださいませ、アルヴィス様。問題はそこではありません」
「あ?どういうことだ?」
「ギルドは一国間のみに留まりません。上手く連携をされているので下手をすれば、こちらよりも資金的な物で上位になっているかもしれない危うい均衡です」
これでもし王に逆らって革命なんぞされたら堪ったもんじゃない。もしかしたら国際問題まで発展する事態になるかもしれませんし。
「だーから、小難しい話は苦手だっつの!」
……能筋ですしね。
「しかたありません、私がギルドの調査をして参ります」
「おう!俺に逆らえないようこてんぱんにしてやってこい!」
このアホヴィスめ!絶対分かってないだろう。しかし、街に行くのか……。俺嫌なんですよ、街。
そんなこんなでギルド前です。
現時刻はお昼を過ぎた頃です。
聞いてください。
皆さんが思ってる中世ヨーロッパとは、現代のヨーロッパな綺麗な街並みだと思うんです。俺がここに来て一番始めに後悔したことは糞尿臭い!臭いのなんのって!
なんで誰もが大好きな中世ヨーロッパ雰囲気のあるファンタジーが沢山あるのに、糞尿臭い鼻の曲がる都だって教えてくれなかったのか!
俺もファンタジー好きです。だけど教えてくれても良かったのではないか。そこら中に糞便が落ちてるって!
もう本当に最悪。
心底帰りたいって思ってる!
黄金の水が道のあちらこちらで、キラキラ光って綺麗だなんで誰が言えるか!
とりあえずギルドの表の黄ばんで汚い。
いえ年期の入った説明文によりますと、誰でも入れるというわけでは無いようです。
ですが私たちのような魔術師は頭と精神、想像力が必要なので極端に数が少ないらしい。小さい国に3人居れば多い方らしいです。魔術師=王宮で保護される対象であり、国の戦力であり、王を飾る宝石のような物。
私はめんどくさそうなので拾ってくれた彼の家にひっそり住んでますけどね。魔法で好きに捏造改造して水洗トイレをつけましたよ。ついでに領内にはポケットマネーで下水事業を行いましたよ。
それはさておき一般的にギルド加入条件では魔術師の項目はない。魔術師ならば加入させるのかな?
だが俺はギルドに嬉し恥ずかし赤裸々登録カードを見られたくない。赤裸々というのはジョブや持ってる能力の一部、年齢、本名諸々だ。私の本名がこの世界にない文字になるのもめんどくさいし、ジョブや能力、いわゆるスキルなども知られたくない。ギルドのプライバシー管理も微妙なのに、プライバシーの侵害も甚だしい!
まあこの世界にプライバシー保護法なんてないけどね。
「そして極めつけに初心者お断り…、ねえ?」
初心者を断るということは人が有り余ってるということ。
おそらく国がこの状況に危機を覚えており、討伐系の仕事は騎士団に任してるのでしょう。必然的に収入源が少なくなり、簡単な仕事が減り初心者が一番多いのにも関わらず生計が難しい、ということかな?
「あれ何してるの?」
ふっと前を見ると、若葉色の髪を高い位置でポニーテールにしている10代半ばの気の強そうな少女がいた。
「一般人?」
「いや、登録しようと思ったのだけど……」
「……アンタみたいなひょろいのが?」
目の前のポニーテールの小娘は、俺を上から下まで見てため息をつかれた。何故だ。
一応成人しているし、170はある。力はないが魔法が使える。といっても魔法使いのあのひらひらローブは裾を踏んでしまうので、俺はスラックスとYシャツの上に黒のロング丈のカーディガンだ。一応太ももにナイフを申し訳程度につけているが…。使えるかは分からない。
彼女もまた初心者なのか麻の服と短パンの上には安物の装備と、腰にダガー二本。それで草原に行くの?虫に刺されないの?
「ダメダメ。アタシも朝行ったけど、女ってだけで無理難題押し付けられたわ!」
「どんな?」
そう訪ねたら、彼女はくわっと目を見開き怒りに震えながら叫んだ。
「エーテルの花をとってこいって!フヨクの森の奥地にある崖の所に咲くのにどうとるのよ!」
「おやまあ…」
俺は手を口に当て、彼女の顔芸を嘲笑する。彼女の言うエーテルの花とは錬成の触媒で、上級錬成に使用する、だっけか…。それをギルド加入テストで使うなんてね。運がないね。
「エーテルの花を入手すれば、ギルドに入れるのか…」
「いっときますけど、アタシの場合ね!」
たしかチームだかパーティーだか忘れたが、そんな名前のグループを組んでいたらリーダーのみ赤裸々カードを発行するんだったっけか。まあ最悪付き人といえばいい。
「よければ、…その、一緒に組まないか?」
「パーティ?私、取りに行く気なんてないわよ?」
訝しげな目で見てくる女は、ほぼ諦めている感じだな。
「実は俺、持っているんだ」
「なにを」
「エーテルの花」
「ふーん」
おい、聞け。欠伸するな。
実際は持ってるんじゃなくて空間歪めて、採取するだけだ。簡単な話、何処でもドアの範囲をポケットに突っ込んだ手の回りにして、エーテルの花を思い浮かべるだけ。本当に魔法最強だと思う。
「…え?」
「パーティーにいれてくれたら、差し上げるけど?」
「本当に!?」
「うん。俺もギルドに用があるし」
とりあえず、笑顔を浮かべてそう返すと、うしゃあ!と女らしくない雄叫びが。…聞かなかったことにしよう。
汚い看板同様、中も汚く汗臭い。さすか冒険者というだけはある。日本人代表して一言いうなら、日本の浮浪者より臭く汚いとはこれ如何に。
いや、某女王は月一の風呂で綺麗好きと言われたらしいじゃないか。嗅覚をカットしてここは乗り気ろう。帰ったら速攻風呂に入りたい。
カウンターにこざっぱりした赤茶の髪の冴えない顔の男が事務作業だろうか、何かをしている。
「あのー!」
「はい?ああ今朝の。申し訳ないですが初心者は…」
なんだか謝り慣れてるって感じか。本当にこれがギルドの窓口?
まあギルドというのは公務員よりも、企業に近い。現代日本で例えるなら、チェーン店や多国籍企業、某ハンバーガーショップのようなもの。今は募集もされてなければこんなものか。
「これでどう!」
フフンとドヤ顔まで披露して、俺が渡したエーテルの花束をさも自分の手柄のようにこれ見よがしに持っている。別にいいけど。こんな女は好きじゃないな。
「…嘘、だろ?」
「これでいいわよねえ?」
にやにやと笑いながら、実に楽しそう。ポカーンと見ていた職員も開いた口を塞ぎ、彼女のギルドカードを発行する手続きをするようだ。ちなみにグループやらメンバーは人分発行するのが当たり前だが、メンバーのギルドカードは任意だ。誰か一人持っていたら受けれる。
「失礼ですが、そちらの方は?」
「パーティーメンバーの、……」
「ナハトです」
偽名?何かあったらめんどくさいじゃないですか。
この国では上流層は氏姓付き。下流は名前に村と数名いる場合は職を名乗るのが一般的。俺の本名だと異国の上流に当たるわけで、入国関連の問題にぶち当たらないこともないのだ。
「ナハト様ギルドカードがございましたら提示していただけたら、」
「ああ、いいです。いりません。付き人ですから」
そのことに目敏く食い付いたのがポニーテールだ。
「え? 何いってんのよアンタも発行してもらわなきゃ依頼が…」
「結構ですよ?」
受付ににっこりと日本特有の愛想笑いを披露し次に勧める。
「畏まりました。ではラヴェール様、パーティの名前はいかがなさいますか?」
ここからは俺は不要かな。ポニーテールに男が質問ををぽんぽん出され、四苦八苦してる所だが、俺は早速ギルドの依頼板を見るとしますか。
一階は窓口と酒場と依頼板がメインなのか?昼間っから飲んだくれが騒いでいて随分と賑やかだ。たぶん相当臭そうだ。そそくさと依頼板に向かう。
「これまた随分と……」
ズボラという単語を飲み込み、紙を一枚ずつ見ていく。ランク分けで依頼板があるのだが、適当に貼ってやがるな。最低ランクはスカスカなのは分かっていたが…。
おそらくギルドが傭兵を囲ったはいいが、国が危機感を持ち簡易な依頼はなるべく処理してるのだろう。それでもまだ薬草や素材、簡易な討伐が目立つ。一個上になるとなかなかバラエティー富んだランクと依頼になるらしい。何故きちんと整理して貼らないんだよ。
C以上はかなりの報酬額が貰えるようだが、果たしてその出所が何処か気になるな。
これは憶測の域にしか過ぎないが、国家の魔術研究室や錬金術師、はたまた魔術師達が国の金や上流層の金をチョロ巻かしているのではないか?
国がギルドに危機を覚えていても、お抱えさんには膨大な金を支払っていると言う。もしかしたら自腹で行ってるかもしれないが。はあ、身の丈以上の物って不要じゃないのかな。
「どうしたもんかね…」
ていうかギルドが戦力を囲い込みするから、国が少数で騎士団と対等に戦える魔術師たちを囲うってバランスブレーカーだよね。数ではバランスが狂うかもしれないですが、そんなブラック企業地味た労働とか真っ平ですよ。
「おや?」
真新しい一枚の紙。依頼ではなく目についたのは依頼予定書?
そこには国が大勢のギルドメンバーを募集すると書かれている。
「……。へえ、面白いことしてるんですね」
さてここで本題です。どうやってギルドを潰すか。この答えのヒントは全国に展開する飲食物のチェーン店をどうやって無くすかという問題に似ています。
チェーン店の場合は不安感、食の安全性がなくなることなのはお分かりいただけるかな?
じゃあギルドは?
簡単な話です。こんな情報戦や裏金では解決には弱すぎるんですよ。住民がギルドを不要と思わせる必要がある。歴史を学べばわかる話。
一枚の依頼予定書を板から外し、ポケットに隠す。
それでは答えあわせの時間です。
ナハトという男がギルドへの訪問から、一夜明けた翌日。我が国ユノルヴァの王宮では緊急会議が起こっていた。内容はギルドメンバーへの数枚の依頼書と依頼予定書だ。内容は大陸一大きいザンバルダが島国ユノルヴァを侵略するため、ザンバルダ付近のギルドに募集がかかっているという紙。もう一方はユノルヴァ内ギルドにて、ユノルヴァ王国にて大掛かりなギルドメンバー募集がくるだろうから暫し待てという紙だった。
会議から三ヶ月後、ザンバルダ軍一万五千の兵力、五千のギルド部隊を引き連れユノルヴァ海域に侵入。近隣諸国はザンバルダの圧勝に見えた。
だがしかしザンバルダはユノルヴァ戦で大敗した。
誰もがの勝利を確信した中、海域に待ち受けていたのは、王宮騎士団と例のぐうたら息子アルヴィス騎士団を中心とした各上流の持つ騎士と王宮魔術師のみで編成された軍一万だった。
騎士団は二万の敵対兵力を相手に、史上初の斬新な海上魔術防衛を中心に繰り広げ、ザンバルダ軍とギルド部隊は無惨にも退却を余儀なくされた。
また進軍してきた冒険者ギルド部隊の通った後は、強奪、強姦、焼き払いなどの、多数の死体と街の悲惨な光景になった。各国の諸侯はその復興対応に終われた。
その後、ティナノで行われたユノルヴァ、ザンバルダ終戦会議にて、各国の王が集まった。ユノルヴァの防衛成功の要であった、海上魔術防衛を行った魔術防衛を部下にするアルヴィス卿が戦争法を解き、世界は一変した。
かの街の無惨な姿はギルド、つまり傭兵であった為に起こった悪事。その悪事を断固たる態度で許してはならないと、各国に傭兵の戦争への起用の浅はかさと、その結果をこの戦争で一目瞭然にした。世界は次第に魔術と騎士団の強化へと変化して行った。
この次の戦争は、魔術を鍵に騎士団同士の総力戦へと代わり行くだろうと確信を得ながら。
Q.ギルドを消す方法は?
「テストがなければ勉強なんてしないのと同じ」
ちなみに、ギルドだけが通り道である街を襲ったわけではない。負けた兵も報酬が貰えると思っていた貴族の騎士団もギルドの奴らも襲ったのだ。
しかし名乗るときはギルドと名乗ったのだろう。結局ギルドの地位を下げてしまった。まあ当然の如く全員現地に行くまで全て自腹、しかも負けたら報酬がなし。ギルドはユノルヴァでも、ザンバルダでも依頼が来ると思っていたがザンバルダのみ。ギルドメンバーが相当な痛手に違いない。これに懲りたら真面目に仕事をしましょう!
ギルドなんてフリーターやアルバイトみたいなものなのだからさ。ざまあないね!
「……そういえば、あのギルドに入りたいって言ってた子、どうしたんだろうね?」
騎士団がギルドの魔物討伐をこなし、安全と秩序を守り、ギルドは戦争に一切関与出来ないようにする。この分別、法の整備こそギルドの崩壊へと繋がるだろう。仕事がなければギルドにとどまる人はいない。せいぜいギルドの奴らは草刈りでもしてるがいいよ!
テストがなければ勉強しない派代表です。
他にギルドを消す方法が思い付きませんでした!
この後のギルドは冒険者と言いつつも、草刈り業者や素材集める人になるんじゃないかな!と妄想してました。