【懲役800年】
………死刑当日。
すでに殺された人々の家族や親族など、生きているはずもなく、子孫でさえも、ほとんどの者が誰だか分かっておらず、また、分かっている者でさえも、今となっては800年も昔の先祖など、他人も同然であり、わざわざ、見に来る者など1人も居なかったのだが、それでも取材陣やマスコミ関係者は満員に押し寄せていた…。
…その…押し寄せる取材陣の中、2人の記者が大きな声で話をしていたのだが、周囲はそれ以上に騒がしかった為、特に目立った様子も無かった…。
「おいおい!やっぱりスゲーなー!コノヤロー!」
「そうですねー!」
「まぁ!…坂田重三郎だからな~!」
「ですねー!」
坂田重三郎。
彼が一体何をしたか?―と、いうと、ズバリ、無差別大量殺人である…。
西暦3011年7月24日。テレビが地デジからウデジ(宇宙デジタル放送)に変わったこの日、もう1つの歴史的事件が起こった…。
世界1の電気王国アキハバット天国で無差大量別殺人事件が起こなわれたのだ…。
もちろん犯人はすぐに捕まり、その場で現行犯逮捕された…。
―逮捕後―
「…とにかく…殺したかった…だれでも良かった…」…等と、言ったわりには計6万4千2百7十7名と、とんでもない数の人間を殺していた…。
そして、坂田は、後日、この事について…「…とにかく…数字を…意識しました…」―と、言った。―と、歴史の教科書には載っている。
これにより、2095年に起こった九官鳥心理団体による、地下鉄サウナ事件の死者数3万5千6百6十3人を大きく上回る無差別大量殺人事件として大々的に扱われ、世界中に坂田重三郎の顔と名前が知れ渡った…。
「坂田重三郎ってどんな人なんですかね~」
「知らねーよバカヤロー!歴史の教科書でしか見た事ねーからなー…」
「ですよねー!歴史上ユイツの800年地獄法案死刑囚人ですからね~!楽しみですよねー!どんな人なんだろう?」
「ワハハハハ!興奮しまくりだなオイ!コノヤ……お!」
「あ!」
その時。刑務官の1人がガラス部屋に被せられていた布に手を当てた…。
「…いよいよだな…」
「…いよいよですね…」
報道陣はザワ付き、アナウンスが流れた。
「それでは只今より坂田重三郎被告の死刑を行いたいと思います…」
ガラス部屋に被せてある布を掴む刑務官は、その右手を大きく、そして、一気に下ろした。
取材陣の前に坂田重三郎が姿を現した…。
…取材陣は困惑し、生放送はパニクった。
取材人は固まった。
一斉に沸き上がるはずの大量のフラッシュは全く起きず、みんなが、みんな、ポカンと、唖然と、黙っているだけだった…。
坂田重三郎は800年ぶりに人々の前に姿を現し…話は…その…800年前に遡る………。
―トン!トン!―
―トン!トン!―
―トン!トン!トン!―
『ハイ!判決が出ました!文句なしで!ソッコー!今すぐ!死刑です!』
坂田重三郎は弁解の余地すら与えられず、また、与えられる権利などあるはずもなく、死刑を言いわたされた。
国民のほとんどが賛成し、殺人マニア的なヤツを含めた数人が反対し、殺害された家族や友人の半分はソッコー死刑に納得したが…半分は…納得しなかった…。
警察、政治家、メディアや雑誌を通し、被害者の家族や友人は連日連夜デモ活動に明け暮れた…。
そして、この日も、1人の男がテレビのインタビューで訴え掛けている…。
「おいおい!!国民!!国民共よ!!本当にそれでいいのかよ!!死刑は死刑!ただ死ぬだけの!そんな柔で!優しい考え!!坂田はそれで良いのかよ!!!」
更に…今度は…別のチャンネルで…被害者の子供が国民の前で作文を読み始めた…。
「僕のお父さん。4年3組。塚別コウイチロウ。僕のお父さんはタクシーの運転手です。しかし、先月、坂田重三郎という悪い人に殺されてしまいました。僕はお父さんが大好きでした。お母さんは毎日泣いています。僕も泣いています。悪い人は死刑になればいいと思います。でも、坂田重三郎だけは、それ以上の事があっても良いと思います。殺さないでください。ずっと。ずっと。殺さないで、苦しめて下さい。お願いします。本当にお願いします。助けて下さい。お母さんは頭がおかしくなって毎日家の中でブツブツ何かを言っています。泣いています。涙がずっと止まりません。どうしたら良いですか?僕は子供だし、難しい事は分かりません。でも、やっぱり、坂田をずっとずっと殺さないでほしいと思ってます。痛い事とか、辛い事とか、嫌な事を、いっぱい、いっぱいして下さい。ずっと殺さずに、ずっとずっと苦しめ続けて下さい。そしたら僕は、幸せです。お母さんも笑ってくれると思います。だから絶対、絶対、何があっても、絶対坂田を殺さないで、ずっと、ずっと、苦しめ続けて下さい。出来れば…800年くらい。」
―そして―
―話は―
―戻って―
―今現在―
「おい、おい、おい、おい…なんだ…こりゃ…」
唖然とする記者達の1人がボソッと、こう言った。
「…の…のうみそ?…」
そう…ソレは坂田の脳ミソだった…。
―そして、話は、またもや、戻って、800年前―
「こんばんわ。世界のニュースの時間です。今日遂に…世間の大きな訴えにより、坂田重三郎の最裁判が行われる事が決定しました」
―更に3日後―
―またもや―
―ニュース―
「判決がでました。なんと。被害者子供の作文がテレビで放送された後、それが大きな話題となり、歴史上初!懲役800年刑罰地獄法という法律が作られた後、即採用されたとの事です。なお、その刑罰に関しましての詳細は未だ発表されておりませんが、一部の情報では、今だ、かつて、存在しない程、残酷なものだという事が伝えられており、また、法律名の通り、800年間生かされ続け、苦しめ続けられた後、死刑を受けるという話半分に聞いてもめちゃくちゃブルーになるものの様で、また、その内容も、様々な方法によって、少しずつ体をイジメ抜き、それと共に、精神的なダメージも死ぬ程与え、本当に死にたいと思っても、絶対殺さないというものであり、現代科学の全てを掛け、坂田重三郎を、絶対殺さず800年間生かし続けると発表し……ウェェェェエ!!」
メガネインタビュワーはゲロを吐いた。
「も…申し訳ありません…伝えながら気分が…わるく…うぅ!…なり…つい…つい……う……おヴぇろろロぼロロろロー!」
またもや、メガネは、おゲロちゃんを吐いてしまった。
まぁ…ゲロはさておき…つまり…この様な事が起こった訳である…。
「よし。ここに入れ…」
ギー、ガシャン!―と。
…坂田は西暦3000年代世界最高技術を駆使して作り込まれた拷問部屋に入れられた…。
そこには、注射器的な物から、メス的な物から、指折り機的な物から、目潰し的な物から、ペンチから、フォークから、色んな大きさのハンマーや、なんやら、その他、訳の分からない物から、更に人の種類も様々で、拷問分野はソレゾレのスペシャリストが、ナイフや、フォークや、エンピツみたいな変なヤツを、持ったり、持たなかったりしながらも、全体的には、どこかニヤニヤしている様子…。
それと変わって、やたらと、なんだか、冷静なのは、心臓パレスモニターを、見ている医師や、坂田のファイルを見る看護婦や、坂田の体のアチコチに、個人意識による急激な興奮状態や心理状態などのデータを表示させ、ショック死や、限界の領域を、ソチラのハイパーモニターに、うち出す為の、連動シールを涼しい顔で、ペタペタ貼るのが、スーパー最新医療班。
コチラは命を繋ぎ止める方。
つまり800年間生かし続ける方の、最新医療プロジェクトチームであり、多種多様で色んな職業の人間が集まっていたのだが、どれも、これも、みんながみんな、坂田重三郎を800年間、苦しめながら、生かし続ける為だけに、手を組んだ人間達である。
そして…。
そこからは…。
なんでも無かった…。
世間の頭から坂田重三郎の事が忘れられるまで、さほど時間は掛からなかった。
そりゃそーだ。
一切報道されなかったのだから…。
坂田の拷問は残酷過ぎる事や、まぁ、色々な問題により、世間には一切公開されず、800年が過ぎたのだった…。
記者の1人がこう言った。
「…なんで…脳ミソなんですか…」
隣の記者がこう言った。
「…知らねーよ…全然意味がわからんよ…」
更に隣がこう言った。
「…あの噂は…本当だったって事か…」
「…なんだそれは?…噂ってなんだ?……教えろ!」―と、隣の、隣の、後ろ、くらいの、あんまり関係ないヤツが言った。
つまり話は、こうである。
坂田重三郎は拷問を受けた。800年間、体をイジメ抜くには限界がある。
もう、すでに指は無かった。
1日、少しずつ、切り刻まれ、指はどんどん短くなり、100年掛けて左の腕ごと無くなり、それが400年続いた時、坂田の両手、両足は全て無くなり、それでも、生かす方法、坂田重三郎を殺さず生かし続ける方法は沢山あった…。
「……あ…。ストップでーす。大部苦しんでまーす。死にそうでーす。意識苦痛パターンを他のものに変える為、ココからは拷問方法をコチョコチョにしまーす」
拷問の方法もいくらでもあった…。
無論、時間は沢山あった…。
拷問していた親父が死に、子供が後を受け継いで、ナイフを持って、坂田の肉を、切り刻み、そいつの子供も、ナイフを持って、坂田の肉を切り刻み、定年退職した後も、ずっと、ずーーと、それは続いた…。
ずっと…ずーーーと、ソレは続き、ココに書き留めれない様な内容の拷問も沢山あった…。
もうすでに、目は無かった…。鼻はなかった…。口はパクパク開いていたが、もう…そんなのは…口でもなんでも無かった…。
そして、脳ミソだけとなった…。
しかし、それでも、終わらなかった。
拷問はずっと続いた。
最新医療チームの1番偉い脳科学教授的なヤツが言った。
「…脳ミソだけで…拷問?…ええ。もちろん出来るというより楽勝でしょうねー。そんなものねー。結局痛みや、ツラサ等というものはねー。人間の脳が感じとっているだけの事であり、これは、もう、スタンフォード大学とか、そういう偉い感じの教授も、そういう風に言うと思うので、きっと、そうでしょうねー。それか、ハーバードですかねー」
大学はどうでも良い。
それはともかく、脳ミソだけの拷問が始まった…。
そこには意識しかなかった…。
とってもツライ…。
「ツラサメーターが上がり過ぎでーす。キョウフメーターに切り変えてくださーい」
とってもコワイ…。
「キョウフメーターが上がり過ぎでーす。ビビり過ぎで死んじゃいまーす」
とってもイタイ…。
色んな嫌な感情というものだけを嫌な意識というものだけを、ずっと、ずっと、与えられ続け、自殺するとか、出来るとか、そんな事を思う事への意識の自由も与えられずに、色んなショックよりも、更に、もっと、ずっと、ずっと、ずーと、とっても深い、そして、ドロドロの屈辱、苦痛を与えられ、それでも、それ以上に与え続けられ…遂に……
…800年が経った…。
隣の、隣の、後ろくらいの関係無い記者が言った。
「…その噂は聞いた事があるな…。でも、まさか本当だとわな~。そーすると、あの脳ミソが坂田自信って事か?」
アナウンスが流れた。
「それでは史上最長刑罰を受けました坂田重三郎被告の公開最新死刑のカウントダウンに参りたいと思います!」
「ごー……」
坂田の脳ミソに取り付けられたモニターの鼓動を打つ波が少しだけ揺れた…。
「よん……」
更にそのモニターに映し出されたグラフメーターが揺れた。
「さん……」
更に、揺れ、ピピッと小さく、音もした。
「にー……」
ピッピッピッピッピッと、ひたすら早くなった…。
「いち……」
刑務官は坂田の脳と繋がれ、連動されてある、生命連動装置を坂田の脳ミソから外した。
その瞬間…ピピーーーーっと坂田は死んでいった…。
こうして長い800年の懲役生活から坂田は解放されたのだ…。
坂田に表情や言葉は無かったが、死ぬ間際に青色のグラフがピッと少しだけ上がった…。
このグラフは、嬉しいというような、ホッとしたいうような、そういった感情を表現していた…。
800年は確かに長いが、それをリアルに想像出来、本当の意味での語りが出来る人間等は坂田だけであり、その事をどう解釈したら良いのかは分からなかったが、記者の1人がパシッ…パシッ…と写真を撮りだし、しばらくすると他の記者も写真を撮っていた…。
記者達の心の中は、虚しさの様な気持ち悪さの様なものと同時に、何かは全く分からないが、とにかく、みんな、何かは思っていた…。
(END)