また、今度。
「翔太、こっちだぞ~。」
「ちょっと、待てよ、恵一。」
僕の先を歩くのは、幼馴染の翔太。
「恵一って、体力ないのな。」
「あぁ?」
「恵一も翔太もやめろって。」
「翠も大変だな。」
翠というのは、翔太と僕のもう一人の幼馴染。
そして、他人事のように言っているのは、雅彦。
中学校の時から、友達である雅彦。
僕らは明日、高校を卒業する。
高校まで、一緒だった僕ら三人の幼馴染と雅彦。
が、しかし、明日から、僕らは違う道を歩み始める。
「しっかし、毎日お前らと会えなくなるのは、なんか寂しいな。」
「雅彦って本当におっさんくさいな。」
「なんだよ、翠、その言い方。」
そうなのだ、一人なのだ。
「まぁ、会えばいいと思うけど、なんか、一区切りと思うと、切ないな。」
「そうだなぁ~。」
翔太の言葉に同意する。
「卒業式なんて、だるいだけだと思ってたんだけどな~。」
「だるいことには変わらないだろ。」
翠が背伸びをしながら、言う。
その言葉に反論するのは、僕だ。
「そうだけど、さ。」
翠は空を見上げる。
「なんかグッとくるみたいな?」
「お前、泣きそうだな。」
「恵一に言われたくないわ。」
「あぁ?なんだ?」
「はいはい、騒ぐな。翔太、あとどれくらいなんだ?」
雅彦は僕らをなだめながら、翔太に聞く。
「…迷ったかもしんね。」
「「「はぁ?!!」」」
僕と雅彦、翠の声は、重なる。
「どーすんだよ。」
「大体、なんで、桜見に行くんだよ。」
「だって、俺らの学校って、桜ないじゃんか。」
翔太は僕らの言葉に反論する。
「第一、思い出作りでいいんじゃねって言ったのは、誰だよ!」
「む…。」
「恵一だと思います。」
翠が手を挙げて言うと、雅彦も同意する。
「っていうか、この時期に桜なんて咲いてんのか?」
現在三月初頭。
僕がそう言って、近くのガードレールに座る。
「たぶん、咲いてないと思うが?」
「九州とか行くしかないんじゃね?」
雅彦と翠は、ぶつぶつ言う。
その2人も僕の隣に腰をおろしてきた。
「じゃあ、梅でいいや。」
「梅だったら、学校にあるじゃんか。」
「…確かにな。」
翔太が納得したようにうなずく。
「どーすんだ?」
「…しらね。」
「タイムマシン作ろうぜ!!」
「は?」
翠の一言にみんなが口をぽかんとあける。
「タイムマシンって、お前。時間を自由自在に扱うのか…。」
「え?違うよ、埋めるやつ。」
「タイムカプセルか…。」
「そう、それ。」
僕の一言に、翠が人差し指をたてる。
「っていうか、タイムカプセルってさ、中三の時にもやんなかったっけ?」
「…あ。」
「どこに埋めたっけ?」
雅彦が真剣に考え始める。
「探すか…。」
翔太の一言に、僕らは、重い腰をあげた。
「この山だよな。たぶん。」
「ここ以外、埋めるとこってあるか?」
「ないと思う。」
こうして、探し始めたのだが、それはやはり大変だった。
高校が午前授業だったことが幸いし、僕らはずっと探し続けた。
「なさそうだな…。」
雅彦がふと声をだす。
「確かに。」
もうすでに、夕日は沈みかかっていた。
「なぁ、あれ。」
翠がうれしそうに指をさしたところには、一本の木があった。
たくさんの蕾が付いた木は、夕日を浴びていた。
その夕日はまるで、紅い花を咲かせているようだった。
「…あの木の下じゃないか?」
「あぁ、たぶんな。」
四人で顔を見合わせ、一斉に走り出す。
「よし、掘るか?」
「…掘らなくていいんじゃないか?」
僕の一言に、驚いたような翠と雅彦。
「せっかく見つけたのに?」
「だって、三年前の僕らの考えることなんて、想像つくだろ。」
その一言に翔太は笑いだす。
「確かにな。」
「だったら、もっと時間が経ってからでいいんじゃね?」
「そうだな、俺らが気持ちを忘れそうになったときにあければいいだろ。」
その一言に、翠も雅彦も納得したようだ。
「…そういえばさ、三年前も同じようなことしてたんだな。」
「あぁ、たぶん。あの紅い夕日を花と見立てたんだろうな。」
僕の脳裏にあの日が思い出される。
『どこにタイムカプセル埋める?』
『あそこなんていいんじゃねぇ?』
『綺麗だね。』
『んじゃあ、あそこに決定!』
「よし、帰るか。」
「あぁ。」
さよなら、僕らはきっとここに戻るから。
その時まで、またな。
「よぉし、明日は泣くなよ、翠。」
「その言葉をそっくりバットで打ち返すよ、恵一。」
「お前らはまた。」
「翠も恵一も泣くに10円。」
翔太が笑う。
結局、僕も翠も泣いてしまった。
過ぎ去ってしまった日があると、改めて思った。
それでも、前を向いて歩くんだ。
僕らは、会えるんだから。
「よし、お前ら、またな。」
「じゃあな、雅彦。」
「またね~。」
「んじゃ、また今度。」
「あっ、じゃあね、恵一、翔太。」
「おぉ、またな。」
「じゃあな。」
雅彦が帰っていって、翠も帰った。
残るは僕と翔太。
「なんか、やっぱ寂しいな。」
「そうかもな。」
「よし、じゃあな、恵一。」
「うん。じゃあ、また今度。」
さよならとは、言わないから。
<また、今度。>




