表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

また、今度。

作者: 迎千鶴

翔太(ショウタ)、こっちだぞ~。」

「ちょっと、待てよ、恵一(ケイイチ)。」


僕の先を歩くのは、幼馴染の翔太。


「恵一って、体力ないのな。」

「あぁ?」

「恵一も翔太もやめろって。」

(ミドリ)も大変だな。」


翠というのは、翔太と僕のもう一人の幼馴染。

そして、他人事のように言っているのは、雅彦(マサヒコ)

中学校の時から、友達である雅彦。


僕らは明日、高校を卒業する。

高校まで、一緒だった僕ら三人の幼馴染と雅彦。

が、しかし、明日から、僕らは違う道を歩み始める。


「しっかし、毎日お前らと会えなくなるのは、なんか寂しいな。」

「雅彦って本当におっさんくさいな。」

「なんだよ、翠、その言い方。」


そうなのだ、一人なのだ。


「まぁ、会えばいいと思うけど、なんか、一区切りと思うと、切ないな。」

「そうだなぁ~。」


翔太の言葉に同意する。


「卒業式なんて、だるいだけだと思ってたんだけどな~。」

「だるいことには変わらないだろ。」


翠が背伸びをしながら、言う。

その言葉に反論するのは、僕だ。


「そうだけど、さ。」


翠は空を見上げる。


「なんかグッとくるみたいな?」

「お前、泣きそうだな。」

「恵一に言われたくないわ。」

「あぁ?なんだ?」

「はいはい、騒ぐな。翔太、あとどれくらいなんだ?」


雅彦は僕らをなだめながら、翔太に聞く。


「…迷ったかもしんね。」

「「「はぁ?!!」」」


僕と雅彦、翠の声は、重なる。


「どーすんだよ。」

「大体、なんで、桜見に行くんだよ。」

「だって、俺らの学校って、桜ないじゃんか。」


翔太は僕らの言葉に反論する。


「第一、思い出作りでいいんじゃねって言ったのは、誰だよ!」

「む…。」

「恵一だと思います。」


翠が手を挙げて言うと、雅彦も同意する。


「っていうか、この時期に桜なんて咲いてんのか?」


現在三月初頭。

僕がそう言って、近くのガードレールに座る。


「たぶん、咲いてないと思うが?」

「九州とか行くしかないんじゃね?」


雅彦と翠は、ぶつぶつ言う。

その2人も僕の隣に腰をおろしてきた。


「じゃあ、梅でいいや。」

「梅だったら、学校にあるじゃんか。」

「…確かにな。」


翔太が納得したようにうなずく。


「どーすんだ?」

「…しらね。」

「タイムマシン作ろうぜ!!」

「は?」


翠の一言にみんなが口をぽかんとあける。


「タイムマシンって、お前。時間を自由自在に扱うのか…。」

「え?違うよ、埋めるやつ。」

「タイムカプセルか…。」

「そう、それ。」


僕の一言に、翠が人差し指をたてる。


「っていうか、タイムカプセルってさ、中三の時にもやんなかったっけ?」

「…あ。」

「どこに埋めたっけ?」


雅彦が真剣に考え始める。


「探すか…。」


翔太の一言に、僕らは、重い腰をあげた。




「この山だよな。たぶん。」

「ここ以外、埋めるとこってあるか?」

「ないと思う。」


こうして、探し始めたのだが、それはやはり大変だった。

高校が午前授業だったことが幸いし、僕らはずっと探し続けた。





「なさそうだな…。」


雅彦がふと声をだす。


「確かに。」


もうすでに、夕日は沈みかかっていた。


「なぁ、あれ。」


翠がうれしそうに指をさしたところには、一本の木があった。

たくさんの蕾が付いた木は、夕日を浴びていた。

その夕日はまるで、紅い花を咲かせているようだった。


「…あの木の下じゃないか?」

「あぁ、たぶんな。」


四人で顔を見合わせ、一斉に走り出す。


「よし、掘るか?」

「…掘らなくていいんじゃないか?」


僕の一言に、驚いたような翠と雅彦。


「せっかく見つけたのに?」

「だって、三年前の僕らの考えることなんて、想像つくだろ。」


その一言に翔太は笑いだす。


「確かにな。」

「だったら、もっと時間が経ってからでいいんじゃね?」

「そうだな、俺らが気持ちを忘れそうになったときにあければいいだろ。」


その一言に、翠も雅彦も納得したようだ。


「…そういえばさ、三年前も同じようなことしてたんだな。」

「あぁ、たぶん。あの紅い夕日を花と見立てたんだろうな。」


僕の脳裏にあの日が思い出される。




『どこにタイムカプセル埋める?』

『あそこなんていいんじゃねぇ?』

『綺麗だね。』

『んじゃあ、あそこに決定!』




「よし、帰るか。」

「あぁ。」


さよなら、僕らはきっとここに戻るから。

その時まで、またな。



「よぉし、明日は泣くなよ、翠。」

「その言葉をそっくりバットで打ち返すよ、恵一。」

「お前らはまた。」

「翠も恵一も泣くに10円。」


翔太が笑う。




結局、僕も翠も泣いてしまった。

過ぎ去ってしまった日があると、改めて思った。

それでも、前を向いて歩くんだ。

僕らは、会えるんだから。




「よし、お前ら、またな。」

「じゃあな、雅彦。」

「またね~。」

「んじゃ、また今度。」




「あっ、じゃあね、恵一、翔太。」

「おぉ、またな。」

「じゃあな。」





雅彦が帰っていって、翠も帰った。

残るは僕と翔太。


「なんか、やっぱ寂しいな。」

「そうかもな。」

「よし、じゃあな、恵一。」

「うん。じゃあ、また今度。」



さよならとは、言わないから。

<また、今度。>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ