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第28話:1ヶ月の沈黙!溶け落ちる精鋭と、黒曜石に刻まれた召喚状

31日間に及ぶ行政的な沈黙(放置)は、横須賀のシャフトをガラスと灰で満たされた巨大な共同墓地へと変貌させた。


防衛省の「受動的封じ込めプロトコル」は、最も予測可能な形で失敗に終わった。すなわち、物資の枯渇である。地上から投入され続けていたグラファイトとグリコールの乳液は、神奈川県の送電網が電圧降下によって3度目の完全崩壊を起こした瞬間、熱的クッションとしての機能を失った。注入ポンプを駆動する電力が消失したことで、対象『CTA-01(異常体01)』の放つ絶対零度は、もはや一局所の現象ローカル・アノマリーではなくなっていた。


防衛省は地下1階の制御を奪還すべく、習志野の「特殊作戦群」から3つの重処理班リキダトールを相次いで投入した。彼らは通常のNBQ防護服ではなく、独立したリチウムイオンバッテリーを動力源とする、アクティブ熱シールド装甲『11式熱防護服』を着用してシャフトへ降下した。


だが、誰一人としてタラップの第3プラットフォームから先へ進むことはできなかった。


皮肉だったのは、彼らが凍死しなかったことだ。老教師の強迫観念ニューローシスと完全に融合した宇宙的物質フェニックスは、シャフトの底で絶対零度の潜伏状態を維持するために、外部から抽出した細胞熱を「定期的インターミッテント排出パージ」する必要があることを発見していた。3度にわたる軍事侵攻が遭遇したのは、刹那の熱力学的反転現象だった。シャフト内の極寒の空気が真空気圧となって収縮したその1マイクロ秒後、摂氏3000度に達する「潜伏プラズマ」――黄色く、粘質で、音のない流体の波――が、エレベーターのシャフトを突き抜けて一気に急上昇したのだ。


習志野の36名の精鋭たちには、悲鳴を上げる時間すら与えられなかった。彼らのタングステン製装甲は一瞬で肉体の上に融解し、タラップを「溶けた金属と人間の脂肪の濁流」へと変え、それは48時間にわたって地下深くまで滴り続けた。シャフトは、救出を試みた者たち自身の材質によって完全に密閉(溶着)された。もはや地下1階に足を踏み入れる者は存在しなかった。横須賀基地は半径3キロ圏内から人員が完全避難し、三浦半島は鉛色の空の下、死んだコンクリートの荒野として取り残された。


そして、火曜日の午前8時30分。判決(宣告)からちょうど1ヶ月が経過した。


衝撃は、爆発や地震計のスパイク(異常振動)によってもたらされたのではなかった。それは、陸上幕僚長の通信班が地下2階の換気ダクトから辛うじて滑り込ませていた、1本の高耐久ファイバーオプティクス・カメラを通じて届けられた。千代田区の危機管理バンカーのモニターが、数週間に及ぶ砂嵐スタティックの果てに信号を回復した瞬間、海自のアナリストたちは全員が絶句した。


大破した鉛製水密隔壁のすぐ手前、地下2階の踊り場のエポキシ樹脂の床は、もはやグレーではなかった。プラズマ排出の熱によって床はガラスヴィトリフィケーションし、美しく輝く黒い黒曜石オブシディアンのプレートへと変貌を遂げていた。そしてそのプレートの中央には、溶け落ちたタングステン製の銃剣の先端らしきもので、黒板にチョークで文字を書く教師のような、清潔で、等間隔で、硬質な字体タイポグラフィによって、はっきりと読める文字が刻み込まれていた。


4メートルにわたって刻まれたそのメッセージには、こう書かれていた。


『リク知事を、ここへ連れてこい』


この11文字が国家安全保障会議(NSC)に与えた衝撃は、ドックで護衛艦を失ったこと以上に壊滅的だった。山田は自らの権利の回復も、恩赦も、国際赤十字を交えた交渉チャネルも要求していなかった。彼は名指しで「兵庫県知事」を要求したのだ。1ヶ月前、神戸の自然災害に伴う補償書類に署名し、山中高校と2年B組という存在を国家の予算台帳から完全に抹消した、あの男を。


70メートル下の凍結ホウ素の玉座に腰掛け、互助会の段ボール箱を肋骨に溶着させたハゲた神は、いま「質問権(反論のターン)」を行使した。彼はすでにアーカイブされた過去の書類(死に体)ではなかった。彼は今や「試験官(審査会)」そのものであり、リク知事は猶予期間プロロガなしで、今まさに採点机の前へと召喚されたのだ。

【作者より一言】


第28話をお読みいただき、ありがとうございます。


1ヶ月という行政的な「沈黙」の末に、事態は最悪の熱力学的結末を迎えました。

絶対零度の裏返しとして発生する「摂氏3000度の潜伏プラズマ」のパージ。習志野の精鋭たちのタングステン装甲を肉体ごとドロドロに溶かし、シャフト自体を自らの金属で密閉してしまう描写は、この地下4階がどれほど不可侵の領域になったかを示しています。


そして、ガラス化した黒曜石の床に刻まれた、教師特有のあまりにも綺麗な「リク知事を、ここへ連れてこい」というチョーク風の文字。

山田武は、自分の人生を事務的に処理したシステムに対して、同じように冷徹な「採点(監査)」を開始するつもりのようです。


「熱を放出するパージの設定がエグすぎる」「国家を相手に個人の名前を指名手配する山田先生のラスボス感がヤバい」など、皆様からの感想コメントをぜひお待ちしております!

知事がこの絶対零度の教壇へ引きずり出されるのか……次回もよろしくお願いいたします!

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