第105話 抗争
分身ナンバー1の映像。
街の外の平原に、賢者の塔の会員と、マフィアが対峙している。
ドラマではこういう時に風が吹いて、風音がしたりする。
ついでにトンビの鳴き声とかな。
そういう物はないらしい。
両者ともほとんど音を立てない。
緊張感は映像越しに伝わってくる。
「突撃!」
ワイズベルが突撃の合図を出した。
遅れを取ってはなるものかとマフィア側も突撃する。
そして、戦闘が始まった時に地面が崩れた。
賢者の塔側は、魔法でふわりと着地した。
予定通りなので混乱はない。
マフィア側は想定外。
ほとんどのチンピラは落下の衝撃で死んだ。
ただやはり戦闘能力の高い者は生き残っているようだ。
「毒を撒け。この日のために開発した浸透する毒を食らえ」
味方ごと毒まみれだ。
賢者の塔側は解毒剤を飲んでいるらしい。
毒を食らって体調の悪くなった者はいない。
「卑怯者が!」
幹部が吠える。
「勝てば良いんだよ勝てば」
幹部は毒を食らっても奮戦している。
だが人数の不利はどうしようもないらしい。
ひとり、またひとりと討ち取られて行った。
勝負あったな。
俺ぐらいになれば個人で戦況をひっくり返せるが、しょせん表では生きられない半端な奴ら、この結果は順当だということかな。
「おい、上がって良いぞ」
ワイズベルの言葉で突撃部隊が落とし穴から上がる。
「生き埋めにしろ」
モグラ部隊が、落とし穴を埋めた。
死んだふりしても土魔法の熟練でもない限りは生き残れない。
徹底しているな。
ワイズベルは負傷者の手当を命じると、戦場から立ち去った。
賢者の塔で死んだ奴は数人だ。
ワイズベル的にはそういう人に手を合わせたり祈ったりしないらしい。
こいつは俺と同じサイコパスなのだろうな。
サイコパスなのは血筋か。
嫌な血筋だな。
分身ナンバー2の映像。
戦いが始まるのを今か今かとプリンクと蛇女が待つ。
高みの見物と洒落込むらしい。
「今回は儲けたな」
「私もです。マフィアの幹部の方々は金払いが良くて」
「まさか裏切ったりはしないよな」
「ええ、これでも契約は守ります。裏の世界の住人で契約を守らない者は死んでいきますから」
蛇女は契約を破らないのか。
そんなわけあるか。
プリンクの寿命を吸い取っているのを黙っているだろう。
まあ、契約には含まれてないと言うんだろうな。
「始まったぞ」
「落とし穴ですね。それに毒」
「ふん、弱者の戦術だ。だが俺も強敵には正面からは当たらない」
「それが賢いってことですね」
そうだな。
蛇女の戦術は強い。
きっとプリンクが死んだら、蛇女はプリンクの店と人脈は全て奪い取るのだろうな。
そんな予感がする。
プリンクは自業自得だが、蛇女に殺されたら仇は討ってやろう。
兄弟のよしみだ。
そういう大義名分だな。
分身ナンバー3の映像。
「くそっ、竹が多数が埋められているだだと」
クラフティは出遅れたようだ。
マフィアが伏兵に気がついて太い竹を埋めたようだ。
馬で踏み込むと、馬が足をやられたりする。
落馬する危険もある。
クラフティは今回の戦いには加われないようだ。
「すみません。工作されているの気づきませんでした」
「隊長のせいだぞ。全部任せていたんだからな」
「申し訳ありません」
工作は夜行われたようだ。
クラフティ達は前の日から森に隠れていたからな。
馬がいるとさすがに気づくよな。
伏兵するなら息を殺すぐらいしないと。
馬に息を殺させるのなら魔法だな。
沈黙魔法なら可能だ。
ただ、一日中それを維持するのは大変だろうな。
「くそっ、マフィアの幹部の首を上げたかったぜ」
「今回は被害もなし。このまま帰るしかなさそうね」
「兵士の費用は、クラフティのお父さんが出してくれるんでしょう」
「頭が痛いぜ。戦いになりませんでしたなんて報告に行ったらどやされる」
「手柄ならあるじゃない。土の中に」
「兵士がこれだけいるんだから、掘って懸賞金を貰いましょうよ」
それは墓荒らしとか、死体からはぎ取るような行為じゃないか。
ドン引きだな。
こいつら名誉と金のためなら何でもする
戦場からワイズベル達が立ち去った後に、地面を掘り返し始めた。
武器や高価なアクセサリーが出るたびに歓声を上げた。
死体と手配書を見比べて、賞金が懸かった幹部だと大喜び。
今回の件で助けてやろうと思った奴は一人もいない。
特にワイズベルは駄目だ。
せめて自分のために戦って死んだ人に祈るぐらいしようよ。
慰霊金を払ったり、しないのだろうな。
プリンクは自滅するだろう。
蛇女がいる限りはな。
俺の気に障るようなことをしない限り、積極的には殺しにいったりはしない。
クラフティ達はいずれ王様が処分するだろうな。
ただそれをするのには糞な貴族を黙らせないと。
何かやらかさないかな。
そうしたら処分できるのに。
さて、ワイズベルをどうやって葬ろう。
殺すのは簡単だ。
だが、人の口に戸は立てられない。
目撃者がいた場合もだが、ファントムが殺したなどという噂が立って犯罪者として指名手配されるのは避けたい。
王様は俺がファントムだって知っているからな。
今までの犯罪で、処罰はできるが、もっと決定的な何かがあると楽だ。
そういう誰もが処罰されても仕方ないよねとなるように持って行きたい。
そのチャンスを窺おう。




