3話
少年――零龍は、ふと何かに気づいたように視線をずらした。
「あー……」
少しだけ残念そうに笑う。
「ほんとはさ、兄さんともっと話していたいんだけど」
肩をすくめた。
「どうやら時間切れみたいだ」
昴龍が眉をひそめる。
「……時間?」
零龍は意味ありげに笑った。
「またそのうち会えるよ」
「逃げられないからさ」
次の瞬間――
すべてが消えた。
鏡には、普段通りの自分が映っている。
同時に、止まっていた世界が動き出した。
昴龍はしばらく鏡を見つめていた。
だが、何も言わない。
やがて蛇口をひねり、顔を洗う。
歯を磨き、髪を整える。
異常をなかったことにするのは、慣れている。
先に外へ出て、玄関先で待つ。
しばらくして扉が開いた。
「身支度、時間かかっちゃって……ごめん」
龍華が少し申し訳なさそうに言う。
「大丈夫。まだ余裕あるから急がなくても間に合うよ」
昴龍は軽く肩をすくめた。
二人は並んで歩き出す。
試験会場までは徒歩圏内。
龍族組合の建物だ。
学園そのものは隠蔽領域に存在する。
だが、その入口に立つ資格を測る場所は、人間界にある。
朝の街を進む。
しばらく歩いたあと、龍華がぽつりと言った。
「……なんか今日、街が違って見えるね」
昴龍は横目で妹を見る。
「試験だから?」
龍華は少し考えて、首を横に振る。
「ううん、そうじゃなくて……」
「なんか、全部ちょっと明るく見える」
昴龍は小さく笑った。
「それは分かるかも」
空を見上げる。
「俺も、こんな形で学園に行く機会があるとは思ってなかった」
龍華が不思議そうに見る。
昴龍は肩をすくめた。
「妹と一緒ってのは、想定外だったな」
龍華は少しだけ照れたように笑う。
二人はそのまま歩き続ける。
やがて――
前方に、龍族組合の建物が見えてきた。




