愛しのグラビアアイドル
1990年代の地方都市の空気は、いつもより少し濁っていた。
コンビニの雑誌コーナーで僕は彼女を見つけた。
雑誌の名前も忘れた。
週刊か月刊かも覚えていない。
ただ、ページを捲った瞬間、呼吸が止まった。
垂れ目気味の笑顔。
細い、細いウエストから膨らむヒップ。
健康的で力強い太腿。
そして、水色のビキニのトップを圧迫する、
あまりに巨大な胸。グラビアのキャプションには、彼女の名前が小さく印字されていた。
デビューしたばかりのマイナーなアイドルだとすぐにわかった。
情報はほとんどない。
テレビに出ることも稀だ。
それでも彼女は僕の理想の、年上の「お姉さん」そのものだった。
夜、布団の中で彼女のグラビアページを懐中電灯で照らす日々が続いた。
溜息しか出ない。
ドキドキが収まらず、眠れない。知りたいのに知れない。
そのモヤモヤが、僕をある夢へと導いた。
夢の中では、彼女は言葉を発しない。
ただ、雑誌で見たポーズ、そして雑誌には載っていない、僕だけが望むポーズを次々に取って見せた。僕は近づき、震える手で彼女の肩に触れた。
彼女は微笑み、僕を抱き寄せた。
初めてのキス。
柔らかい唇。
そして僕の手は、自然と彼女の胸へと向かった。
水着の上から触れたその感触は、想像を絶していた。
柔らかさというより、それは生きた温もりを持つ流体だった。
掌に収まりきらない膨らみは、押せば弾力で押し返し、手を離せば優雅な重みで元の形へと戻っていく。
先端の硬さが掌の下で転がるたび、僕の腹の底が熱く攣った。
それは、生命そのものの豊穣だった。
彼女は僕をベッドに導き、上から覗き込む。
そして、ゆっくりと腰を下ろした。
結合の瞬間、無数の粘膜が僕を包み込んだ。
それは濡れた絹でも、温かい蜜でもない。
もっと能動的で、貪欲な感触だった。
まるで無数の小さな口が、一斉に僕を吸い、舐め、歓迎しているようだ。
腰から背骨を伝って脳天へと抜ける、蕩けるような快楽。
現実では味わったことのない、官能の渦。
僕はあっという間に爆発し、現実の布団の上で、冷や汗をかきながら目を覚ました。
それからは、毎夜のように夢の中で彼女と会った。
現実は色褪せ、夢こそが僕の真実になった。
そんなある日、学校で噂が流れた。
教育実習の先生が来る、と。
僕は興味なく教室の窓の外を見ていた。
ドアが開き、担任が新しい先生を紹介した。
「みなさん、こちらが教育実習の佐藤先生です」
僕は顔を上げた。
そして、全身の血液が逆流するのを感じた。
彼女だった。
グラビアよりも、夢の中よりも、ずっとずっと美しい。
垂れ目気味の笑顔はそのままで、しかしそこには印刷物にはない生命の輝きがあった。
スーツの下の身体のラインは、僕が知っているそれだった。
「はじめまして」
彼女は言った。
目が一瞬、僕と合った。
「でも…どこかで会ったような気もするわね」
彼女は、ほんの少しだけ、僕だけに見えるような微笑みを浮かべた。
数週間後。
放課後の保健室。
カーテンが閉め切られたベッドの上で、僕は彼女と抱き合っていた。
現実の肌の感触。
現実の吐息の温もり。
現実の彼女の重み。
夢よりも、百倍気持ちよかった。
「どうして…」
僕は喘ぎながら聞いた。
「どうして僕に会いに来てくれたの?」
彼女は僕の上で動きを止め、俯きかけるようにして僕を見下ろした。
その目は、グラビアの笑顔の時とは違い、どこか寂しげだった。
「あのグラビアの中、ずっと孤独だったの。誰も覚えてくれない、マイナーなアイドルだから。でもね、たった一人、熱心に私を見つめてくれる男の子がいるって、夢の中で知ったの。その想いが、とっても心強くて」
彼女の指が、僕の頬を撫でる。
「夢の中だけじゃ、物足りなくなっちゃった。会いたくなっちゃった。だから…つい、飛び出してきちゃった」
僕は言葉を失い、ただ彼女を抱きしめた。
彼女もまた、僕にキスを返した。
僕らは何度も抱き合い、そして、永遠に続くと思えるほど長く、深くキスをし続けた。
現実の保健室のベッドの上で、1990年代の夕焼けが窓を赤く染める中で。




