イエナイ〜揺れるルナちゃんと、付箋が繋いだ物語〜
「神様お願いします!」
そう祈ってクラスが書かれた紙を見たら…
「愛莉!私たち一緒のクラスだよ!2ー3だって」
そう言って来たのは、親友のくるみ。
「もう運命だって!」
私たちは、幼稚園からの大親友で、小1から中1まで、ずっと同じクラスなんだ。そして中2も同じクラスだったことが判明した。私は、ルンルン気分で、教室に入った。
キーンコーンカーンコーン
チャイムがなって席に着いた。
「今日からこの2ー3の担任山本です」
そう言ったのは優しそうな女の先生。担任も良さそうな先生で良かった。
「それでは一人一人簡単に自己紹介してもらいます」
私の番が来た。
「姫川愛莉です。好きな食べ物はスイーツです。これからよろしくお願いします」
自己紹介が終わり、他の人の自己紹介をぼーっと聞いていると…
「小林大輝です。好きなアーティストは『Yesterday night』です」
私は耳を疑った。Yesterday nightって私の大好きなバンド!しかも隣の席。そしたら、筆箱にファンクラブ限定のマスコットが着いていた。
「えっ、嘘……!」
思わず声が出そうになって、慌てて口を押さえた。
隣の席の小林くんの筆箱でゆらゆら揺れているのは、間違いなく『Yesterday night』――通称イエナイのファンクラブ限定マスコット「ルナちゃん」。
(これ、超激レアのやつじゃん! 持ってる人、初めて見た……!)
興奮を抑えきれずにチラチラと隣を見ていたら、視線に気づいたのか、小林くんが「ん?」という顔でこっちを向いた。
「……あ、ごめん! そのマスコット、もしかしてイエナイの?」
勇気を出して小声で話しかけると、小林くんは少し驚いたように目を丸くして、それからパッと表情を明るくした。
「そう! よくわかったね。もしかして、姫川さんも好きなの?」
「大好き! 去年のライブも行ったし、ファンクラブも入ってるよ!」
「マジで!? 俺の周り、あんまり詳しい人いなくて……嬉しいな」
小林くんがはにかむように笑う。
その笑顔が、窓から差し込む春の光に照らされて、なんだかドキッとするくらい眩しかった。
「ねえねえ、愛莉何話してるのー?」
後ろの席からくるみが身を乗り出して、ニヤニヤしながら覗き込んでくる。
「くるみ! 聞いてよ、小林くんもイエナイ好きなんだって!」
「へぇー! じゃあ、趣味の合う友達ができて良かったじゃん。……あ、でも、隣の席で盛り上がりすぎて先生に怒られないようにね?」
くるみにからかわれて、私と小林くんは顔を見合わせて笑ってしまった。
大親友と同じクラスになれただけでも「神様ありがとう!」って思ってたのに、隣の席に同じ趣味の男の子がいるなんて。
今年のクラス替え、本当に「運命」かもしれない……!
先生の喋り声が教室に響く。今は私の一番嫌いな数学の時間。居眠りしようと思ったその瞬間、隣から付箋が机に貼られた。その付箋に書いてある文字を読むと、「今日のライブ配信、一緒にリアタイしない?」
驚いて隣を見ると、小林くんは口角を少しだけ上げている。
(えっ、今日の20時からの公式生配信のこと!?)
私も慌ててシャーペンを握り、自分のノートの端っこに小さく返事を書いた。それをそっと切り取って、先生の目を盗みながら彼の机の端に置く。
『もちろん!チャット欄で会おうよ。ユーザー名教えて!』
小林くんは受け取ると、少し考えてからまたサラサラと文字を書き、私の机に戻してきた。
『「ダイキ」でやってる。姫川さんは?』
『私は「アイリ」だよ。見つけたらスタンプ送るね!』
そんなやり取りをしていると、後ろから「コソコソしすぎー!」と、くるみが叩いてくる。振り返ると、くるみが口パクで「楽しそうじゃん?」と茶化してくる。
顔が熱くなるのが自分でもわかった。
大嫌いな数学の公式が、今はなんだか音符みたいに楽しげに見える。
ふと横を見ると、小林くんが大切そうに筆箱のルナちゃんに触れていた。
もう少しで始まる…今は19時55分 ライブ配信も楽しみだけど、小林くんと一緒にリアタイできると思うと心がワクワクする。
いよいよ20時。スマホの画面を見つめる手にも、自然と力が入っちゃう。
通知が届いた瞬間、心臓が跳ねた。
『Yesterday night 緊急生配信!〜新曲発表&重大告知〜』
画面が切り替わり、メンバーの姿が映し出される。それと同時に、ものすごいスピードで流れていくチャット欄。
私は必死に、その中から「ダイキ」という名前を探した。
(いた……!)
『ダイキ:待機!楽しみすぎる!』
見つけた瞬間、思わずニヤけてしまう。
『アイリ:きたー!ダイキくん、ルナちゃんのスタンプ送るね!』
するとすぐに、ダイキくんから返信が来た。
『ダイキ:アイリさん見つけた!ルナちゃんスタンプお揃いだね(笑)』
学校では「姫川さん」「小林くん」って呼び合ってるのに、画面越しだと「アイリさん」「ダイキくん」っていう呼び方になるのが、なんだか特別で、秘密の共有をしているみたいでドキドキする。
配信中、新曲のメロディが流れると、私たちはチャット欄で感想を言い合った。
「ここのギターソロかっこよくない?」
「分かる、ここの歌詞も泣けるよねー」
自分の隣にはいないはずなのに、一緒に音楽を聴いているような不思議な感覚。
「そして…秋に全国ツアー決定しました!」
心の中は絶対行くぞ!と大騒ぎしていた。
配信は無事終わり私はベッドで寝た。
次の日教室に入ると小林くんが「おはよう」っと言ってくれた。私も「小林くん、おはよう」と返すと
「名前で呼んでいいよ」
と言った。
戸惑いながらも
「大輝くん…?」と言ってみると
「呼び捨てでいいって」
と笑っていた。
「私のことも愛莉って呼んでいいよ!」
「わかった!愛莉。」
自分で言ったことなのにドキッとした。
今日も授業中付箋が机に貼られた。
『眠そうだね。』
『だってつまんないじゃん』
『それな笑 あのさ…嫌じゃなければ秋のライブ一緒に行かない?』
「えっ」思わず声を出してしまった。
「姫川どうしたー」
「何でもありません…」
隣を見ると大輝が笑っていた。
休み時間「一緒にライブ行きたい!」と大輝に言ったらめっちゃ喜んでくれた。その後、くるみに
「めっちゃ楽しそうじゃん」
とからかわれた。
「もうっくるみったら…!」
顔が赤いのを隠すようにくるみの方肩を叩いた。
今日は、くるみと、大輝と一緒に帰った。
「そういえば連絡先聞いてなかったね」
大輝がそう言った。たしかにしてなかったと思い、無事連絡先を交換した。
家に帰り、ベッドに飛び込んで、さっき追加されたばかりの『大輝』という名前を何度も見つめる。意味もなくトーク画面を開いては、キーボードを打たずに閉じて。ただの連絡先なのに、世界で一番大切な宝物を手に入れたような気分だった。
「ああ、私、本当に彼のことが好きなんだ…」
通知が鳴った。びっくりしてベットから飛び起きると、よろしくと書いてあるイエナイのスタンプが送られてきた。私もとっさにスタンプを返すと
『愛莉と行けること楽しみにしてるよ』
なんて送ってきた。うれしさとドキドキのあまりベットの上を転がった。
今日はいよいよライブの抽選の日だ。私のスマホで2人分応募することになっていた。私は神様に祈りながら、応募ボタンを押した。
秋の全国ツアー、最終日の東京公演。大輝と二人で約束した、一番行きたいステージ。
抽選結果が表示されるまでの数秒間が、まるで永遠みたいに長く感じる。心臓の音が耳元まで届きそうなくらい、ドクドクと速くなっていった。
(……あ。)
画面に現れたのは、カラフルな背景に躍る文字。
『チケットをご用意いたしました!』
「やった……! やったぁ!!」
自分の部屋なのに、思わず叫んで飛び上がってしまった。
すぐに震える指で大輝にLINEを送る。
『大輝! 当たったよ! ライブ、行ける!!』
送信した瞬間に既読がついた。彼もきっと、スマホを握りしめて待っていたんだ。
『マジで!? 愛莉、すごすぎる!』
『俺、今めちゃくちゃニヤけてる。当日、最高に楽しもうな』
画面越しの言葉なのに、大輝のあの眩しい笑顔がすぐそばにあるみたいに感じられて、胸の奥がじんわりと熱くなった。
次の日の朝。
教室に入ると、席に座っていた大輝と目が合った。
彼は私を見つけると、周りのみんなには内緒だよ、というみたいに人差し指を口に当てて、それから小さくガッツポーズをした。
私も同じようにガッツポーズを返して、自分の席に着く。
すると、後ろから「おはよー!」とくるみの声が響いた。
「なに二人でアイコンタクトしちゃってんの?」
「あ、くるみ! ライブ、当たったんだよ!」
「わかってるって。愛莉の顔見れば、神様が味方してくれたなーってすぐ分かったもん」
くるみはそう言って、私と大輝を交互に見てニヤニヤしている。
「良かったね、愛莉。……でも、ライブの日までに、もっと仲良くなっちゃったりして?」
「もう、くるみったら……!」
いつものセリフを言いながら、私はこっそり隣の大輝を見た。
大輝も少し照れたようにルナちゃんのマスコットをいじっている。
それから私たちは、ライブ当日をもっと特別にするために、二人で相談しておそろいのグッズをたくさん買った。
届いたばかりのロゴTシャツを自分の体に当ててみては、鏡の前でニヤけてしまう。
(これ、大輝とおそろいなんだ……)
そう思うだけで体が熱くなる。
「好き」っていう気持ちを自覚してから、大輝の何気ない言葉ひとつひとつにドキドキしている自分がいる。
連絡先のアイコンに届く「おやすみ」のメッセージ。
授業中に回ってくる、ちょっとした落書きの付箋。
廊下ですれ違う時に、ふっと目が合ってこぼれる笑顔。
今まで当たり前だった学校生活が、彼という存在がいるだけで、まるでイエナイのアップテンポな曲みたいに、キラキラと輝いていた。
「神様、本当にありがとう」
クラス替えの日に祈ったあの願いは、想像もしていなかった最高の形で叶い続けている。
カレンダーに書かれたライブの日の丸印を見つめながら、私はまだ見ぬ秋の景色に、期待と少しの緊張を膨らませていた。
ついに迎えたライブ当日。同じTシャツとタオルをかけた人であふれかえっていた。
「はぐれないようにね」
と差し伸べてくれた手をうんっと頷きながらギュッと握った。
一緒に記念写真も撮ってライブ会場に入った。ライブが始まると、夢のような世界だった。パワフルな歌声に響く楽器の音。ペンライトを振って一緒に歌って最高の時間を過ごした。
最高の時間は、あっという間に過ぎていく。
アンコールが終わり、会場が明るくなっても、まだ魔法が解けないようなふわふわした気持ちのまま、私たちは夜風が吹く外へと出た。
「……本当に、最高だったね」
駅へ向かう並木道。ライブの余韻で少し枯れた声で大輝が言う。
「うん。一生忘れない。神様にお願いして、本当に良かった」
私がそう答えると、大輝が急に立ち止まった。
街灯の光が、彼の少し真剣な表情を照らしている。
「あのさ、愛莉。神様のおかげだけじゃないと思うんだ」
「え……?」
「俺、愛莉が隣の席で、イエナイが好きだってわかった時、すごく嬉しかった。だから勇気出したんだ……ライブに誘ったのも、今日おそろいのグッズを付けたのも、全部……」
大輝が私の目をまっすぐに見つめる。
「愛莉のことが、好きだからだよ」
その言葉が、ライブのどの曲よりも強く、私の胸に響いた。
私の心の中にあった「好き」という気持ちが、今、確信に変わる。
「……私も。私も、大輝のことが大好きだよ」
私は大輝に抱きしめられた。体が離れると、
「愛莉、俺と付き合ってください」
そう、目を見て言った。
「よろしくお願いします」
私たちは、夜の涼しいかぜに吹かれながら、手をつないで歩き出した。
ここまで読んでくれてありがとうございます!まだ中学生なので、下手なところもあったと思いますが、とにかく感謝m(_ _)mです!




