EPILOGUE:この国は俺が生まれても死んでも何も変わらないよ
あれから何十年の年月が経ったのだろうか。
かつて全米を熱狂させた通販番組のMCで大スターとなった男は田舎町のバーで好物のウィスキーとドライフルーツをゆっくり味わっていた。髭は顏の大部分を隠すぐらいまでビッシリと生やしている。誰も彼があのクリスチャンだと見抜く者はいない。
いないと思っていたが。
「こっちで過ごす余生は楽しいか?」
彼の隣に杖をついてヨタヨタに歩く老人が座る。
「何だよ? ジジィ、まだ生きてやがったのか?」
「ふっふっふ、もう若い時みたいに戦えないが。力のひとつも持ってないさ」
「俺は引退すると明言した筈だ。今さら仕事なんて承らないぞ?」
「ふっふっふ、年寄りぐらいは労わって欲しいものだ」
「何しに来た?」
「真実を語りに」
時が止まった気がした。
クリスチャンにとってずっとモヤモヤが残る事があった。
彼が退魔士として最後に請け負った仕事。そこで彼が退魔士として魔獣や魔人を倒す事なんて全くなかった。やった事と言えば妙な通販番組のMCを務めたこと。
結果的に大スターにまでなったが、べつに彼が退魔士である必要はなかった。
そう思っていた。
「あの時、アメリカでとんでもないネガティブな人の念が集まっていた。ともすればそれは内戦を生んだのかもしれない。いや、自然災害という形で襲ってきたかもしれない。ただ、我々がみつけたソレはあまりにも巨大で誰の目にも見えなかった……」
「迷信みたいな話だな。俺を慰めに来たのか?」
「話を最後まで聞け。小僧。お前はあの時に戦っていたのさ。悪魔の大魔王と本当にな。あの映画で対峙したようにな。事実、お前はあの映画の撮影の中で戦っていた」
「実感がない」
「無理もない。本物の魔物退治は誰の目にも見えないところで行われる。退魔士本人にだって」
「何だって?」
「ふっふっふ、アメリカに戻ってみろ。ヘイ! クリスチャン! という番組がなかった。そういうことになっているからな」
「どういうことだ?」
「焦っているなぁ。あのときの栄冠をお前は奪われたつもりになっているのか? お前は人知れずに戦っていたのさ。アメリカに蔓延る人間の悪意の集合体と……な」
「すまん……話についてゆけない」
「ふっふっふ、心配するな。大統領が変わって平和を取り戻したようで依然取り戻してなどいない。移民は世界各地から溢れるようにやってきて、あのとき以上の悪魔が生まれようとしている」
「………………」
クリスチャンは底にたまったウィスキーを飲み干してドンッとその瓶を置き、席を立つ。
「私の言葉を信じるならば! またあのスタジオにゆけ! そして戦え! お前の戦いが決して無意味だと思わないならばな!」
「ジジィ。2度と俺の目のまえに来るな」
彼は背中を向けて冷たく老いぼれたウィル・レジェンドに言い放った。
しかして翌週、彼はアメリカのダラスにいた。
アメリカに帰って驚いたことがある。
彼が一大ムーブメントを起こしたあの通販番組がなかったことになっているのだ。
「あれは夢の中だった?」
彼は戸惑いながらも彼が拠点としていたスタジオに向かう。
そこは空き家になっていた。
「何かここに用?」
後ろから声がしたので振り向く。
そこにいるのは大人になったカレンとその親族を名乗っていた……
「ホー・ホーキン」
「ほっほっほ、またお前さんと会おうとは運命のようだな」
ウィルがそうであったように彼も腰を曲げた老いぼれとなっていた。
「私たち、親子でヨウチューブをやっているのよ?」
「そうなのか」
「このアメリカに蔓延るネガティブな悪と戦う為に」
「…………」
「貴方はもう引退したのだっけ?」
「俺は……」
背後に気配がした。そこにパンパンの買い物袋を引っ提げた男がいる。
「おう、久しぶりだな。ブリブリ野郎」
「チビ・チェリーボーイ」
「今は俺がプロデューサーをやっているぜ? 舐めた口を聞くなよ?」
「イーサンも退魔士よ。あのときは見習いだったけど、今は一人前よ」
「そうなのか……」
「もっと言うとデビーも。彼はお腹を壊して今はただの一般人だけど」
「どういうことだよ……」
そして彼らの撮影が始まる。
でも、クリスチャンは確かに見た。
彼らの影が存在しない影と激しく戦っている光景を。
「まさか……」
いや、これは彼が見過ごしていた事実。
そう、彼が気づくべき新時代の退魔士のあるべき姿——
『ハイ! みんな! 調子はどうだい! 俺はブリブリ元気さ! クリスチャンだぜ!』
『カレンよ! 世はレボリューションを求めている!』
『よ~し、カレン、今日紹介する商品をだしてくれ!』
『どんな男でもパンツ一丁になりたくなる女性用パンツよ!」
『何だって!? そりゃもう気になっちゃうよなぁ!?』
『ねぇねぇ! クリスチャン! 今からコレを穿いて!』
今日も彼らはどんなに暗い闇も照らしてみせる。
この世に存在しない伝説の通販番組をこの世に放ちながら。
これがホンモノの退魔士だと。威風堂々と。
最後までの読了ありがとうございました♪♪♪
最後の最後までふざけていたといえばふざけていましたが(笑)だけど、このエピローグについては何となくでもメタ的に読んで欲しいところかなと思います。深く読み解こうと思ったら難しいファンタジー作品かもしれません。でも詰まるところ、これは「笑い話」です。何が真実であっても、それが作者の心です。
クリスチャン・ジョンソンは他の僕の作品にもでてくるのですが(アメリカになろう作品では全作品に登場しているのですが)、僕は彼をアメリカの非日常を映すアイコンだと思って書いていました。本作品もまたそうだと。だからこそ彼って魅力的なんですよねぇ。そんな彼を生んでくれた西木草成さん、大変に大変にありがとうございました!そして弄り過ぎちゃってスイマセンでしたm(^皿^;)m




