Episode9:自由の国!万歳!
デビーはその日、悪夢をみていたらしい。
いつもまでも大便が終わらない無間地獄に陥る夢のなかに。
「うぉっ!!」
彼は悪夢から目を覚ます。
腹に重みを感じる。そしてトイレに行きたくなった。
あれ? 今さっきトイレに行った筈なのだが……
そう、彼はこの世界に囚われている。
ここから抜けだせない地獄のなかに。
そんなことを喜々として目の前の陰キャ野郎が語ってみせる。
「永遠にトイレから出られない悪夢をみせているのさ」
拳銃を構えるイーサンは確かにそう言った。
「なるほど。分かったよ」
「何を分かったという?」
「お前がジジィたちの言う“恐怖の大魔王”って奴だったのだな」
「ああ、それを分かっていたのか?」
「いやぁそこは分からなかった。ただの童貞インポ野郎だっていうことぐらいしか俺には見抜けなかったわ。それにしても凄いな。お前の力で全米のみんながトイレから出ることが出来ないことにするなんて」
「童貞の怨みが魅せるアメリカン・ドリームさ。最高だろう?」
「ったく、これだからアメリカは嫌いなんだ」
「ここでいっちょやり合おうっていうのか?」
「そうするしかないだろうが。展開的によ?」
「ふ、勝てると思うなよ? 人間風情が」
「俺はお前のことを嫌いではいたが、チョットだけ好きでもあった。あの番組を一緒に作ってきた仲間だ。怨みなんてねぇよ。せめてやり合うなら一旦家で抜いてきてからにしたかったぜ」
「あ?」
「冗談が通じないのか? やっぱり可哀想な奴だな。アンタを殺すのに無駄玉使うくらいなら、もう一杯やってくるんだったぜ」
俺は懐から退魔士の扱う紋章入りの拳銃をとりだす。
「あばよ、地獄で会おうぜ」
そして、トリガーを引く。しかしその途端にソレは爆発するように破裂した。
「なっ!?」
「フフフ、アーハッハッハ! お前は何も分かっちゃないなぁ! 俺はこの世界の人間が生む妬みや憎悪、ネガティブなバクテリアを集めて形にした悪魔だ! 最強のバイキン様だ! 差別発言で定評のある大統領になったお蔭でアメリカの分断は進み俺は強大な悪魔となった! お前如きに止められる物なんかでないぞ! みせてやろう! トイレで満足するしかない人間の醜態を!」
奴が空に向けて発砲すると街中の窓がパリンと割れる。
そしてゾンビ映画宜しくの呻き声が響き渡る。
いや、違うな。呻き声じゃなくて喘ぎ声?
「どうだ!? この国の男も女ももはやトイレで満足するしかない生き者となったのだ! フハハハ! アーハッハッハ!!!」
奴の笑い声が嫌に耳に響く中で俺は妙な違和感に気づいた。
俺の武器は破裂して無くなったが、俺の手自体は無傷で損傷がなかった。
「楽しいか?」
俺は奴に問いかける。しかし奴は高笑いを続けるばかり。しまいには腹を抱えてジタバタする姿をみせる。
余裕があるのだろう。手に持っていた拳銃の存在すらなくなっていた。
そうか。アレで俺を威嚇しているつもりではいたのだな……。
「仕方ねぇな。とっておきのファンサービスって奴をお前にみせてやるよ」
俺の言葉を聞くつもりがないらしい。今ここに相棒はいないけども、でも、俺は仮にこの世界がこのまま終わってしまってもいいぐらいに大きな声でかましてみせた。
「ハイ!! みんな!! 調子はどうだい!! 俺はブリブリ元気さ!! クリスチャンだぜぇ!!!」
「カレンよぉ! 世はレボリューションを求めているぅ!」
「!?」
野郎は大笑いを止めてマジマジと突然現れた彼女をみる。冷や汗までかいているようだ。
俺は止めない。
だってそうだよな? これは俺たちの番組だよな?
「よ~し、カレン、今日紹介する商品をだしてくれ!」
「どんな人でもかっこよく見えるマントよ!」
「何だって!? そりゃあ気になっちゃうよなぁ!!」
「イーサン! 私に体当たりをして見事命中したら○○○してあげる!」
「グッ…………ウ、ウォォォォオオオオォォォオオオオォォォオオッ!」
野郎はカレンのマント芸に引っ掛かって前のめりに倒れた。
「クリスチャン! パス!」
「おうっ!」
カレンはマントを丸めこんで俺に投げ渡した。俺が手に取ったそれはタオルになった。
「私の〇〇〇〇がついているタオルをクリスチャンに渡したわ! それをアンタがクリスチャンから奪ったら、アンタの物にしてもいいわよ?」
今度は俺に向かって野郎が突進してきた。
野郎の手には拳銃なんてない。
この世界で勝者になって自らの欲望を叶えたいだけの男と化したようだ。
俺は野郎の突進をかわす。
野郎の息があがっている。どうやら俺たちに勝機がみえてきたようだ。
こんな俺だけど今、この世界の命運を握っているのかと思うと汗が垂れてきた。
タオルでひと拭き。するとどうだ。俺はこれまでにみせたことのないスッキリとした顏を野郎にみせつけた。気に入っている髭のひとつもサッパリした。この野郎、髭のない俺のほうがいいっていうのか?
「ラストチャンスよ? クリスチャンを体当たりでブラックホールまで突き飛ばしたら、アンタの女になってあげる!!!」
「グッ……護れよ……その約束! ウォォォォオオオオォォォオオオオォォォオオ!!」
俺はタオルをネリネリ丸めてヤルキ・マンマン・グローブをつくる。
野郎が突進してくる。
今度はかわさない。
グローブを嵌めた俺は衝撃に備えて息を深く吸い込んで吐く。
そして最高の一撃を見舞ってやった。
「ア――――――――――――――ン!! パ――――――――――――――ンツ!!」
あれ?
俺のグローブの先に何故かひらひらの女性用パンツが特典でついていた。
でも、それが野郎の動揺を誘ったようだ。
「ヴァギヴァギギ―――――――――――――――ン!!!」
野郎は星空高く消えていった。
街中の割れた窓は何事もなかったかのように修復し、妙なゾンビ声で溢れかえった街も静寂を取り戻した。
『劇場特典! ヤルキ・マンマン・グローブ・スペシャルバージョン! お買い求めはこちらぁ!』
こうして「劇場版! ヘイ! クリスチャン!」は幕を閉じる――
全米の年間映画興行ランキングで断トツの首位。アカデミー賞の複数部門でノミネートまでされた。ノミネートだけだったけどな。通販番組の映画化がここまで社会現象を興すだなんて誰も想像してなんかなかった。発起人のウィルのジジィですら。でも、俺はそれから「ヘイ! クリスチャン!」を潔く引退してアメリカも発った――
劇場版っていうオチでした(笑)
でも、これを機にきっぱりと引退したクリスチャン。
ちなみにこの話で本作も終幕となります。来週エピローグを投稿するので正真正銘の完結となるワケですけども。いやぁ~コメディって笑って貰う割って貰わない以前に僕自身が楽しむことを大事にしているのですね(^o^;)だから皆さんにとっては面白くないかもしれませんが僕は腹を抱えながら書いていました。でも、それでいいのです。笑い話なんてね。笑ってくれた同志の皆さん、まだこのノリは続きますから。最後の最後までお付き合いくださいm(_ _*)m




