プロローグ
プロローグ 無音の呼吸
由美は目を覚ました。朝の光が窓から差し込み、部屋を照らしているが、いつもとは違う冷たさが感じられた。心臓が速く鼓動し、体が少し震えているのに気づいた。何もかもが、少しずつ、何かが違う。それを、由美ははっきりと感じていた。
身体を起こすと、頭が軽くくらくらとした。まるで、このまま倒れてしまうんじゃないかというような感覚。それが一瞬だけ、脳裏をよぎる。由美は深呼吸をしてみたが、息がうまく吸えない。胸のあたりに重いものがのしかかっている。
何だろう、この感じ…。
彼女はゆっくりと目を閉じ、静かな朝の音に耳を傾ける。遠くで犬が鳴く音、車が通り過ぎる音、風の音。しかし、その音すべてが無機質で、冷たく響いているように思えた。
「私、もう長くないのかもしれない」
そんな思いがふっと浮かんだとき、由美は驚いたように自分の心を叱った。そんなことを考えるなんて、まだ早すぎる。でも、なぜかその予感は消えなかった。まるで、死というものが、誰かに告げられるように、彼女の体にしっかりと刻まれているような感覚。
部屋の隅で、浩一が寝ている姿が見える。まるで何も知らずに、穏やかな眠りに沈んでいる。その姿が、由美にはどこか遠くに感じられた。彼が目を覚ますと、またいつも通りの生活が始まる。しかし、この静かな時間は、もう二度と戻ってこないのだろう。
由美はふと、心の中で自分に問いかけた。
「私がいなくなった後、浩一はどうするのだろう?」
その問いに答えることができなかった。何もわからない。ただ、そう感じた。
その時、由美はひとつの決意を固めた。自分が残すもの、それは何だろう。もし本当に死が近いのなら、その前に何かを伝えなければいけない。だが、それが何なのか、まだ彼女はわからなかった。
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