Ep5 INVITATION & ENCOUNTER
◇放課後の出会い◇
翌日の昼休み、私は烏間さんとある相談をしていた。
「さて、私たちがバンドをするのは良いんだけど、メンバーはどうしようかねぇ」
私はそう悩ましげに、会話を切り出す。
すると烏間さんも険しい顔をしながら、思考を巡らせる。
「私はバンド経験長いし、ドラムできるから良いけど、他がいないからね。ギターにベースにボーカル、最低でもあとニ、三人はいるね」
「うん。それに私は楽器経験がないから、お金も練習時間も必要だね」
私たちは互いに意見を交換すると、二人して暗い顔になった。
そんな雰囲気に追い打ちをかけるように、烏間さんはさらに口を開く。
「それに、私達がやるのは"ロックバンド"。人気がでやすいジャンルじゃないから、やりたがる人も少ないかも…。」
「うーん…」
話を進めれば進めるほど現状の厳しさが垣間見えてくる。
まあ確かに楽器ができて、ロックバンドにも対応できる人なんてそう簡単にはいないよねぇ。
「まあひとまずは、鳴宮高校内で勧誘していくしかないかもね」
「まあそれが一番手っ取り早いかぁ〜」
私は少し落ち込みつつも、納得の意を示す。
まあそんなすぐにバンドは組めるとも思っていなかったし、気長に待ってみるのも良い選択だろう。
ーー放課後ーー
放課後になると私たちは、早速メンバー勧誘のために、校門前で呼び込みをしていた。
「一緒にロックバンドやりませんかー!」
「や、やりませんかー…」
「ちょっと烏間さん!もっと大きな声を出さないと!」
「無理無理!京田さんが異常すぎるだけで、私くらいがデフォルトだから!」
しかし、始まってから数分もたたぬ内に、少し言い争いになってしまった。
烏間さんは自分の声がデフォルトだと言うが、それは違う。
彼女の声は、近くにいる私ですら聞き取りのできないくらいに小さなものだった。
やっぱり最初に会った頃から思っていたが、烏間さんはもしかすると、あれなのかもしれない。
「あのさ…。もしかして烏間さんって、"陰の部類に入る人"だったりする?」
「誰が陰じゃごら!」
私が憐れみを込めて烏間さんに質問すると、何故かもの凄い勢いで反論されてしまった。
どうやら彼女にとって、"陰"というワードは地雷だったらしい。
悪いことをしてしまったな…。
「そんなことより!早くしないと皆帰っちゃうから!早く勧誘しよ!」
烏間さんは、これまで聞いたことのないような声で、顔を赤らめながらそう言う。
私は申し訳なさもあったため、素直に従って置くことにした。
「ロックバンドやりませんかー!」
「やりませんかー…」
私達はそれから、ただひたすらに通りがかる人に声をかけていった。
しかし、立ち止まってくれる人はそうそうおらず、たとえいたとしても、冷やかしか、私目的のナンパ男だけだった。
ナンパは基本的に断って帰らせたが、その度に隣の烏間さんは不機嫌になっていた。
何でだろうな?
そう思いながらも私たちは、勧誘活動を続けていった。
ーー1時間後ーー
あれからどれくらい時間が経過しただろうか。
どれだけ呼びかけても、やりたい人は現れず、もうほとんどの人が下校してしまった。
「本当に見つからないね…」
隣の烏間さんが、小声でそう呟く。
「そうだね。1人ぐらいは見つかると思ったんだけど…」
まあ私にとっては気長に行くつもりだったし、今日目ぼしい人が現れないことはある程度想像していたが、これだけ声を枯らして勧誘したのに収穫がないと、流石にくるものがある。
でも仕方ないことだと割り切るしかないか…。
そう思った私は、烏間さんに、
「そろそろ帰ろっか」
と、提案する。
すると彼女は、今日何度聞いたか分からないくらいの小声で、
「うん」
と言い、軽く頷いた。
その反応を受けて私は、地面に置いてある鞄を手に取ろうとした。
しかし、そうしようとした瞬間に、視覚外から、
「ちょっと待ってくださーい!」
という声が聞こえてきた。
声の方に目を向けるとそこには、長い茶髪の髪がたなびく、美しい瞳を持つ美女が立っていた。
「えっ…綺麗な人だな…、じゃなかった!私たちに何か用ですか?」
思わず本音が漏れてしまったが、私は彼女に丁寧に応答をする。
するとその美しい彼女は、手をもじもじとさせながら、その様子からは想像もできないような、衝撃的なことを口にした。
「あのー、本当に良かったらでいいんですけど…、私をバンドに入れてくれませんか!?」