Ep1 ROCK FRIENDS 【1】
ロックやヘヴィメタルは人に火を付ける。
そう、私やあなたのように…
ドーム内を埋め尽くすあの歓声。
それに応えるように放たれる激しいシャウト。
エレキギターとベースの音は鳴り響き、ドラムの音は臨場感を一気に増大させていた。
そして私は、その張り詰めたステージに憧れてしまった…。
◇目覚め◇
ジリジリジリッ、ジリジリジリッ、
気持ちよく眠りについていた私に、目覚まし時計が苦痛の朝を知らせた。
いや、逆にこうして眠りを妨げられている生活の方が"幸せ"なんだろうな。
そう思いながら、私は眠い目をこすりながら階段を降りた。
リビングの扉を開くと、そこには調理された料理を並べている母がいた。
「おはよう叫歌。朝ごはんで来てるから早く食べちゃいなさい」
母は眠そうな私に笑顔を向けてそう言った。
「うん、ありがとう」
そう言いながら私は、椅子へと腰を掛けた。
こうして一般の家庭のような生活ができているのはいつぶりだろうか?
というのも、私は幼い頃から病弱であったため、いつも入院していた。
そのせいで小中学校はまともに通えなかったし、友達も全然できなかった。
当然、家族ともまともな話もできた例がない。
だからこそ私は今の状況に、少し興奮しているのかもしれないな。
私はそう感傷に浸りながら箸を進めた。
「ご馳走様!」
私は朝食を食べ終えると、足早に部屋へと戻った!
なんたって今日は鳴宮高校の入学式!
今まで私が出れた例のないあの入学式だ!
そう思いながら私は、制服に着替えてみる。
「うん、案外似合うじゃん」
やっぱり制服というものは可愛いな。
馬子にも衣装とはよく言ったものである。
そう思いながら私は、着々と支度を済ませて、鞄を持って玄関の扉を開いた。
「行ってきまーす!」
「気をつけていってくるのよー」
私が声を掛けると、母は優しく声を掛け返してきた。
いよいよ私、"京田叫歌"の本当の青春が始まる!
私はそんな期待を込めて、学校への道のりへと足を進めた。
◇ROCK FRIENDS 【1】◇
学校に着くと、まずは体育館へと案内された。
周りには私のように、いや、私以上に制服を着こなしている少女たちがわんさかいる。
何だか負けた気になったので、私は舞台の方へ真っ直ぐ顔を向ける。
それからは、校長の挨拶であったり、首席入学者のスピーチがあったりと、どれも私にとっては目新しいものばかりでとても面白かった。
特に、校長先生がウケ狙いで言った、
『高校へようこうちょ〜(ようこそと校長を掛けたネタ)』
というネタがド滑りしていたのが面白かったな。
保護者と全校生徒の前で恥をさらして、何が楽しいんだか。
なんてくだらないこともありながら、私たちは遂に教室へと案内された。
そのまま私たちは、席に座らされたのだが、私の席はまさかの一番前。
事前情報では後ろの席の方が楽しいとネットに書いてあったため、入学早々ガチャを外してしまったらしい。
まあそんなことは些細な問題だと流し、先生の話へ耳を傾けた。
それから約1時間、遂に今日の日程が終わり放課後となった。
周りを見渡してみると、もう色んな人が話しかけている。
中学生までの段階である程度グループは決まっていると思っていたが、どうやらそれは違うらしい。
みんな友達を作るのに必死だ。
…っと!私も出遅れちゃいけないな!
ひとまず隣の人に話しかけてみよう。
そう思い私は、隣にいる黒髪のヘッドフォンをつけて座っている女の子に元気よく話しかけてみた。
「ねえねえ、私、京田叫歌っていうんだ!よろしく!」
「…」
まさかの応答なし!?
…いや、ヘッドフォンで耳が聞こえないだけかもしれないからっ!
きっとそうだから!
そう心に言い聞かせて、今度は肩をつつきながら話しかけてみる。
「ねえねえ!」
「…何?」
すると彼女は、ヘッドフォンを外して私を睨みつけてきた。
どうやら気づいてはもらえたようだけど…、何かものすごい不機嫌!
こんなとき何を言えばいいの!?
「用がないなら話しかけないで」
彼女はそう言いながら、またヘッドフォンを付けようとする。
「い、いや!な、何聴いてるのかなーって思ってさ…」
私は焦ってしまい、咄嗟にそう言った。
『…まあいっか』
すると彼女は一瞬下を向いて、私に聞こえないように
何かをつぶやいたあと、
「これ、どうせ知らないでしょ…」
と言いながら、震える手でスマホの画面を見せてきた。
画面には、
【オリジナルMV】君とは違う私 〜BLACK PANDA〜
と書かれていた。
「知らないなら良いんだよ、そんなに有名じゃな…」
「知ってる!"BLACK PANDA"さんじゃん!」
私は話す彼女の声を遮り、興奮気味にそう言い放った。
「えっ…、知ってるの…?」
彼女は開いた口が塞がらないまま、力なくそう言う。
まあ彼女の反応も無理はないか。
だって"BLACK PANDA"さんは最近デビューしたばかりの高校生バンド、しかも曲のジャンルは、まさかのヘヴィメタル。
ロックバンド自体があまり流行りづらい世の中、かなり珍しいタイプだ。
それも相まってか、動画配信サービスYouTubeの登録者数は150人程度。
高校生と考えると凄いが、かなりコアな層でないとまず知らない部類だ。
「うん、知ってるよ。その曲すごく良かったよね、特にあのサビの高音の部分とか」
「う、うん。あとここの部分のドラムロールも良かった」
「あっ、私もそれ思った!やっぱりこの人肺活量人間じゃないよね〜」
「うん!あとあと…(以下略)」
「確かに!あとさぁ…(以下略)」
それからは私たちは曲の良さを語り合い、気づいたら周りの生徒は誰もいない時間になっていた。
「何か語ってたら夕日沈みそうになってるね」
「うん…。まさかこんなに趣味のことで話せる日が来るとは思わなかった」
彼女は今日一番の笑顔を私には向けた。
「そういえば自己紹介がまだだったね、私、烏間雅、よろしく」
「よろしく!私は、京田叫歌!是非"叫ちゃん"って呼んでね」
「呼ばないよ…」
彼女は再び笑顔を見せた。
今日初めて会ったときはあんなに目が死んでいたのに。
「私ね、音楽の趣味が人とは違うらしくて、ずっと友達ができなかったの。だから、今日京田さんと話せてすごく楽しかった」
「うん、私も楽しかったよ。また話そうね!」
私はとびきりの笑顔を烏間さんに向けた。
彼女はまるで、光る獲物にだけ飛びつくカラスみたいなものだなと思ってしまったが、本人には絶対言わないでおこう。
そう思っていると、烏間さんは私に不思議そうな顔を向けて、あることを尋ねてきた。
「そういえば京田さんって、なんでこの曲知ってたの?絶対普段からロックバンド聴いてないと出てこないと思うけど…」
「うーん…」
彼女の問に、私は黙り込んでしまった。
言えない理由って訳では無いが、ちょっと説明がめんどくさいんだよなぁ。
私は少し考えたのち、烏間さんにある提案した。
「ちょっと説明が大変だしさ、これからちょっと私の家に来ない?」