布団ごしの〇〇
涙でぐしゃぐしゃになった顔を布団の中に隠しながら、私はただ声を漏らすしかなかった。情けない。みっともない。誰にも見られたくない姿だった。
だけど、急に――何か重いものを感じた。
え?なにこれ?布団が急に沈んだような、圧が加わるような感覚。布団の上から、何かに包まれているような……いや、包まれている?というか、誰かが私を抱きしめている?
「……えっ?」
思わず息を飲む。布団越しに伝わる重み。それは明らかに人間のものだ。ぬくもりと重圧が、確かに背中にかかっている。
まさか、泥棒?いや、それならこんな優しい力加減で布団を押してくるはずがない。というか、そもそもこの部屋には他に誰もいない。いるはずがない――キリアンを除いて。
そう思った瞬間、脳内で警鐘が鳴り響く。まさか――いやいや、そんなはずはない。キリアンは私の創作の中で「紳士」の塊のような存在。人間に対して過剰な干渉をするタイプじゃない。それどころか、自分の領域を侵されたくないプライドの塊のような性格だったはず。
だけど――だけど、今この瞬間、布団越しに私を抱きしめているのは紛れもなくキリアンだった。
「ちょっ、な、なにしてるの……!?」
思わず声を上げそうになるのを必死で飲み込む。いや、ここで声を出したら、何かおかしなことになりそうな気がする。布団の中は安全地帯のはず。だけど、その安全地帯に入り込もうとしているキリアンはなんなの?なんで黙って抱きしめてるの?
布団越しの重みは、妙に優しくて、暖かかった。それが余計に困る。冷たい重圧ならまだしも、こんな風にぬくもりを感じさせられると、どう反応していいかわからない。
――紳士って、こんなことするんだっけ?
私の創作では、キリアンは「誰も触れさせない孤高の魔公爵」で、必要以上に人間に接触しない美学を持っていたはず。少なくとも、こんな風に、布団越しとはいえ抱きしめるような行動は「らしくない」。いや、絶対に「らしくない」。
それなのに、彼は今、何も言わずに私を抱きしめている。それが、布団越しだからこそ余計に混乱する。なぜ?どうして?何のために?
「……本当に……なんで……。」
声にならない声が喉の奥で詰まる。この状況にどう反応していいのかわからない。パニックになる自分を抑え込むように、ぎゅっと布団を握りしめた。
――ああ、でも。
泣いていた私を放っておけなかったのかもしれない。逆に紳士であるキリアンだからこそ、何も言わずにこうして寄り添ってくれているのかもしれない。
それでも――でも、それでもやっぱりこれは想定外だ。
布団の中で、私は一人パニックに陥る。涙で濡れた頬をこすりながら、頭の中で「紳士とは」「キリアンとは」と問答を繰り返していた。
だけど、心の奥のどこかで、この暖かさを心地よく感じている自分がいることを、私は否定できなかった。




