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少女との出会い

コンコン、と部屋のドアがノックされる音がした。


一瞬、全員の視線がドアに向かう。息を飲むような静けさが部屋を満たした。誰だろうか。そんな緊張感が漂う中、次の瞬間、控えめな声が響いた。


「お母さん……もう帰ろう。コートを貸して。もう…外は嫌だ…帰りたい。」


それは、ロリータ服の少女の声だった。


母親が椅子から勢いよく立ち上がる。彼女の動きに合わせて、私もつられるように視線を少女の方へ向けた。ドアがそっと開かれると、小柄な体を隠すようにレースとリボンに包まれた少女が、わずかに顔を覗かせる。


「愛梛……。」


母親がその名前を口にする。その声は安堵と申し訳なさ、そして娘への愛情が入り混じったような響きを持っていた。少女は母親の顔をちらりと見上げ、すぐにまた視線を落とした。彼女の指が、ふわりと広がるスカートの端を掴んでいる。その姿が、どれだけ怯えているのかを物語っていた。


母親が娘の肩にそっと手を置き、優しく促した。


「この方たちが庇ってくださったのよ。ちゃんとお礼を言いなさい。」


少女がこくりと頷いた。彼女は、母親の言葉に逆らうことなく、ゆっくりと部屋の中へ足を踏み入れる。その一歩一歩がどれほどの勇気を必要としたのかを思うと、胸が締め付けられるようだった。


「ぁ……ありがとうございました。」


その言葉はあまりにも小さく、空気に溶けて消えてしまいそうだった。もしこの部屋が少しでもざわついていたら、きっと誰も聞き取れなかっただろう。それでも、少女の唇から紡がれたその一言は、私の耳に確かに届いた。


ありがとう、と彼女が言った。たったそれだけの言葉だったのに、胸の中がぐっと熱くなる。たぶん、それはあの状況で私が取った行動が、少しでも彼女のためになったのだと感じられたからだろう。


「ーーううん、私が言いたくて言ったことだから。全然気にしないで。」


少女は、戸惑ったような、泣き出しそうな顔をしていた。ーー感慨に浸っている場合じゃない。彼女に、何かを伝えたい。そう思った私は、自然と微笑んでいた。


「素敵な服だね。」


そう言った瞬間、少女の目が驚いたように大きく見開かれた。


「よく似合っていて、とっても可愛いよ。」


それは本心だった。彼女の服装をどうこう言う人たちがいたとしても、私にはただ一つの真実しか見えなかった。それは彼女が自分の好きなものを身に纏っている、ただそれだけだった。そして、その姿がとても美しいと感じた。


「本当……ですか?」


少女の声がわずかに震えながら返ってきた。その震えには、これまで彼女がどれだけ自分を否定されてきたのか、どれだけその選択を後ろめたく思わされてきたのかが含まれているように思えた。


「もちろん。君にとても似合ってる。服を選ぶセンスがいいんだね。」


自分でも驚くほどすらすらと言葉が出てきた。たぶん、過去の自分が言われたかった言葉を、今の彼女に届けようとしているのだろう。


彼女は少し目を伏せた。その頬に赤みが差しているのがわかる。あの緊張しきった表情が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。


「ありがとう……ございます。」


再び彼女が言葉を発した。その声には、先ほどよりもわずかに力がこもっている。


何だか申し訳ない気持ちがした。だって、私がしたことなんて、本当に些細なことだったのだから。

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