ベルトとシルバーアクセと羽根
「なんか……すごい人出てきた。」
「え、見て!やばくない?」
「どこの芸人?なんかダサくない?」
女子たちの嘲笑が私の耳に飛び込んできた。彼女たちはキリアンの存在を目にした瞬間から、声を潜めるどころか、むしろエスカレートさせている。彼の堂々とした立ち姿に一瞬気圧されるような空気も見えたが、それはほんのわずかだった。すぐに、彼女たちの視線はキリアンの服装――というか、その「装飾の多さ」に釘付けになった。
「ねえ、あの服やばくない?何そのベルトの量。意味わかんなくない?」
「え、しかも首元に羽根?ちょっとダサすぎて笑えるんだけど。」
――お願いだから、黙ってて。
心の中で懇願する。でも、彼女たちの声は止まらない。むしろ楽しんでいるかのようだ。スマホを取り出すそぶりを見せる子までいて、私はその動きに息を飲んだ。
――いやいやいや、これ全部私のせいじゃない?
過去の自分を思い出す。高校時代のあの日々。休み時間に、放課後に、机の上で黙々と書き綴った「ブラッド・ヘイヴン」のキャラクター設定。そこに記された「堕天の殺戮者」――それが目の前に立つキリアン・フランヴェルジュ・ブラッドレイだ。
ベルトは十数本を超える勢いで全身に巻きつくデザイン、黒と銀のコントラストがやけに主張している。首元の羽根は「高貴さと堕天性の象徴」なんて設定だった気がするけれど、こうして目の当たりにすると、ただの派手な飾りにしか見えない。
――ごめんね、キリアン。昔の私のセンスが原因で…本当にごめん…。
私は心の中で何度も謝り倒していた。いや、あの頃の自分にはあれが「最高にカッコいい」ものだったのだ。でも、現実に令和のショッピングモールに存在すると、ここまで浮くのか。
「なんか、異世界の人ですか~?」
「てか、羽根とかウケる~!」
女子たちの声が続く。そのひとつひとつが、まるで私自身に向けられているようで痛い。だって、キリアンのその姿を「作った」のは私なのだから。
キリアンは動かない。彼女たちの言葉を聞いているのか聞いていないのか、ただ無言で立っている。その堂々とした背中が私を守っているようで、でも、同時にその姿が私に新たな罪悪感を植え付けていく。
――私のせいで、彼がこんな目に……。
「貴様ら。」
その低く響く声が空気を切り裂いた。キリアンが口を開いたのだ。
その瞬間、女子たちの笑い声が一瞬止んだ。彼の視線が彼女たちに向けられると、その場の温度がほんの少しだけ下がったような気がした。いや、実際には気のせいかもしれない。でも、キリアンの「存在感」は確かに彼女たちを一瞬だけ黙らせた。
私はその背中を見つめながら、胸の中でまた謝る。
――キリアン、本当にごめん。昔の私が悪かった。あの頃の私のセンスが悪かった。でも、だからってこんなふうに現実に立ち向かわせてしまうなんて……。
心臓が痛いくらいに早くなっているのを感じる。息苦しさと焦り、そして彼への申し訳なさが私を支配していた。けれど、彼は動じない。その背中はまっすぐで、まるで私を守るためにそこに立っているかのようだった。
キリアンは、彼自身の存在で、私を救おうとしているのだ。それが痛いほどわかったから、私は目を逸らすことができなかった。




