表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/58

ベルトとシルバーアクセと羽根

「なんか……すごい人出てきた。」

「え、見て!やばくない?」

「どこの芸人?なんかダサくない?」


女子たちの嘲笑が私の耳に飛び込んできた。彼女たちはキリアンの存在を目にした瞬間から、声を潜めるどころか、むしろエスカレートさせている。彼の堂々とした立ち姿に一瞬気圧されるような空気も見えたが、それはほんのわずかだった。すぐに、彼女たちの視線はキリアンの服装――というか、その「装飾の多さ」に釘付けになった。


「ねえ、あの服やばくない?何そのベルトの量。意味わかんなくない?」

「え、しかも首元に羽根?ちょっとダサすぎて笑えるんだけど。」


――お願いだから、黙ってて。


心の中で懇願する。でも、彼女たちの声は止まらない。むしろ楽しんでいるかのようだ。スマホを取り出すそぶりを見せる子までいて、私はその動きに息を飲んだ。


――いやいやいや、これ全部私のせいじゃない?


過去の自分を思い出す。高校時代のあの日々。休み時間に、放課後に、机の上で黙々と書き綴った「ブラッド・ヘイヴン」のキャラクター設定。そこに記された「堕天の殺戮者」――それが目の前に立つキリアン・フランヴェルジュ・ブラッドレイだ。


ベルトは十数本を超える勢いで全身に巻きつくデザイン、黒と銀のコントラストがやけに主張している。首元の羽根は「高貴さと堕天性の象徴」なんて設定だった気がするけれど、こうして目の当たりにすると、ただの派手な飾りにしか見えない。


――ごめんね、キリアン。昔の私のセンスが原因で…本当にごめん…。


私は心の中で何度も謝り倒していた。いや、あの頃の自分にはあれが「最高にカッコいい」ものだったのだ。でも、現実に令和のショッピングモールに存在すると、ここまで浮くのか。


「なんか、異世界の人ですか~?」

「てか、羽根とかウケる~!」


女子たちの声が続く。そのひとつひとつが、まるで私自身に向けられているようで痛い。だって、キリアンのその姿を「作った」のは私なのだから。


キリアンは動かない。彼女たちの言葉を聞いているのか聞いていないのか、ただ無言で立っている。その堂々とした背中が私を守っているようで、でも、同時にその姿が私に新たな罪悪感を植え付けていく。


――私のせいで、彼がこんな目に……。


「貴様ら。」


その低く響く声が空気を切り裂いた。キリアンが口を開いたのだ。


その瞬間、女子たちの笑い声が一瞬止んだ。彼の視線が彼女たちに向けられると、その場の温度がほんの少しだけ下がったような気がした。いや、実際には気のせいかもしれない。でも、キリアンの「存在感」は確かに彼女たちを一瞬だけ黙らせた。


私はその背中を見つめながら、胸の中でまた謝る。


――キリアン、本当にごめん。昔の私が悪かった。あの頃の私のセンスが悪かった。でも、だからってこんなふうに現実に立ち向かわせてしまうなんて……。


心臓が痛いくらいに早くなっているのを感じる。息苦しさと焦り、そして彼への申し訳なさが私を支配していた。けれど、彼は動じない。その背中はまっすぐで、まるで私を守るためにそこに立っているかのようだった。


キリアンは、彼自身の存在で、私を救おうとしているのだ。それが痛いほどわかったから、私は目を逸らすことができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ