注意
彼女たちの声が、ますます大きくなる。
「ロリータ服のブスとか、人生終わってるよね。」
「いやいや、眉毛も手入れしてないし、芋すぎでしょ。」
「地雷系のつもりかよ~。全っ然似合ってねえ~~。」
その言葉たちが私の耳に突き刺さるたび、手に持ったレジ袋の重さが少しずつ増していくように感じられる。まるでその中身――白菜も料理の素もコーヒーゼリーも――すべてが私の怒りを吸収し、重くなっていくみたいだ。
視線の先では、ロリータ服の少女がまだ母親らしき女性と歩いている。その後ろ姿が、どこか危うげで、無防備に見える。彼女は彼女で、自分の歩みに精一杯なのだろう。それを背後から見つめながら、好き放題に言葉を投げつける女子たちの姿が、私の中の何かをじりじりと燃やしていく。
「学校も来れないくせにさ、ママとお揃いで買い物とかウケるんだけど!」
「あんな服着てるのに全然映えないってヤバくない?」
「ってか親もブスじゃね?」
――もうやめて。
心の中で叫びながら、私は彼女たちの視線の先にいる少女を見続ける。彼女は何も知らないのか、それとも気付いていながら知らないふりをしているのか――どちらにしても、その小さな背中が、今にも崩れそうに見えるのは気のせいだろうか。
「ねえ、TalkTokでブスロリ拡散してやろーよ。」
その一言が放たれた瞬間、空気が変わった。女子たちの中の一人がスマホを取り出し、ロリータ服の少女に向けてレンズを向けた。指先が画面をタップする音が聞こえたような気がする。いや、聞こえたのは私の想像かもしれない。でも、その行動が何を意味するのか、私にははっきりとわかってしまった。
――それは、私が高校時代に見た光景と何も変わらない。
無意識に手が動いた。次の瞬間、自分が彼女たちに向かって歩き出していることに気付いた。足取りは軽くない。でも、その場に留まることはできなかった。
「――やめなさい。」
自分でも驚くほど静かな声だった。けれど、その声は確かに届いたらしい。女子たちのうちの数人が振り返り、スマホを構えたままの女子が驚いたように動きを止める。
「は?」
その短い一言が返ってきた。何かを言いたそうな顔でこちらを見ている彼女たちに、私は視線を向けた。
「それ以上はやめなさい。あなた達のやろうとしている事は盗撮よ。」
言葉は自然に出てきた。それがどれだけの効果を持つのかはわからない。でも、今この瞬間だけは、黙っていることができなかった。袋を握る手が少しだけ震えているのを感じながら、私は彼女たちを見つめ続ける。
彼女たちは一瞬、目を見合わせた。その短い沈黙の中で、私は自分の鼓動が早くなっていくのを感じていた。けれど、言葉を呑み込むことはできなかった。
――私が何もしなければ、この少女は誰にも守られない。
だから、私はただ視線を逸らさずに立ち続けることしかできなかった。




