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買い物

――あ、帰りにスーパーに寄らないと。


そんなに大した理由じゃない。カップ麺が少なくなってきたとか、適当に作る用の野菜炒めの素を補充したいとか、そんな「暮らしていくための必要最低限」を満たしておきたかった。何となく帰りに必要なものを買い足しておかないと、明日が少しだけ面倒になるような気がしたのだ。


問題は――。


「買い物に寄るつもりか?」


キリアンだ。


長いプラチナブロンドの髪をなびかせ、オッドアイの瞳でこちらを見ている、厨二病全開だった高校一年生の私が描いた、創作の世界「ブラッド・ヘイヴン」のキャラクター。


「うん、近くのショッピングモールにあるスーパーに寄ってくるから。」


私は努めて何でもないことのように答えた。でも、そんな言葉で納得する相手ではないことくらい、もう嫌というほど理解している。


「俺も行こう。」


ほら来た。予想通りすぎて、ため息が出るくらいだ。


「いいから待ってて!すぐ戻るから!」


慌てて振り返りながら手を振る。キリアンの視線が鋭くなるのを感じたけれど、今は押し切るしかない。


「一人で買い物に行かせるなど――」


「そんな大げさなことじゃないから!ただ、野菜炒めの素とか買うだけだから!」


思わず声が大きくなる。だけど、彼の眉間の皺はまったく解消されない。むしろ、余計に深まっている気すらする。


「安全を軽視するのは愚かだぞ。」


――何の安全?この平和な日本のスーパーで、何が起きるというんだろう。買い物カートの接触事故くらいしか思いつかない。いや、キリアンがいると、そのカート事故すら壮大な戦い(ラグナロク)に発展しかねないから困る。


「星幽体で待ってて!終わったら呼ぶから!」


私の言葉は少しだけ強い調子になっていた。言い終わった瞬間、キリアンの眉が微かに動く。それは驚きと、わずかな困惑を含んだ反応だった。


「星幽体……。」


彼がそう呟く。その声には、渋々納得したような響きがあった。だが、完全に引き下がるわけではないらしい。その瞳はまだこちらを見据えている。


「俺を置いていくというのか。」


「そういうわけじゃないけど!ただ、スーパーであんまり目立つのも困るし……ほら、すぐ戻るから!」


私は必死に言い訳を重ねながら、バッグを握りしめた。彼が「目立つ」のは事実だ。プラチナブロンドの長髪、オッドアイ、羽根飾りのついた黒のロングコート、そして堂々とした佇まい。どこにいても注目を集める。注目どころか、騒ぎにすらなりかねない。それは、私のような普通の人間にとっては避けたい事態だ。


私の言葉に、キリアンは少しだけ視線を逸らした。そして、ほんの一瞬だけ考え込むような仕草を見せ、やがて、ため息をつくようにして言った。


「……いいだろう。」


その言葉を聞いた瞬間、私は心の中で小さくガッツポーズを取った。けれど、それを表情には出さず、なるべく自然な笑顔を作った。


「ありがとう!じゃあ、行ってくるね!」


――スーパーに寄るだけで、こんな緊張感が生まれる日常って一体何なんだろう。

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