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おはよう現実

目覚ましの音が鳴る前に目が覚めた。


というより、ほとんど眠れていなかった。布団の中で数時間ごろごろと身を丸め、何度も寝返りを打ちながら迎えた朝だった。眠る直前まで考えていたことが頭に残っていて、起きた瞬間にはっきりと思い出す。キリアン。堕天の殺戮者。私が作ったオリジナルキャラクター。昨夜の布団の中でぐるぐるしていた理由のすべて。


「……おはよう、現実。」


そう呟きながら体を起こす。部屋には誰もいない。いや、当然だ。この狭い1LDKのマンションには私しかいない。ここにもう一人誰かがいるという状況の方が不自然だ。普通の朝。何も変わらない朝。それなのに――。


キリアンがいないことに気づく。


それが一瞬、妙に胸の中に引っかかった。昨日の夜、ヘイヴンに戻ると言って消えた彼。そのまま戻ってこないのかもしれない。それは別に困る話ではないし、むしろそうあるべきだ。彼は私の世界に属する存在ではない。私の日常に溶け込む理由なんて何一つない。


「……ほんと、何やってるんだろ、私。」


自嘲気味に笑う。そこにあるのは、自分自身への皮肉。30歳にもなって、自分の創作キャラの存在に動揺している自分への軽蔑。これが現実だ。相変わらず現実は冷たく、滑稽で、どうしようもないほど無機質だ。


だけど、その笑いの端に少しだけ寂しさが混ざっていることに、私は気づかないふりをした。


「妖狐、何か良いことでもあったのか?」


唐突に声が聞こえた。その声は低く、落ち着いていて、それでいてどこか冷たい響きを持っている。私は反射的に顔を上げた。そこには、昨日と全く変わらないキリアンの姿があった。


「……っ!」


驚きと反射的な動揺で、言葉が喉の奥に詰まる。心臓が一気に跳ね上がる音が耳に届きそうだった。彼は昨夜のままの姿で立っていた。プラチナブロンドの髪を揺らし、オッドアイの瞳でじっと私を見つめている。


「か、帰ってきたの……?」


ようやく出た言葉は、それだけだった。よく考えれば、彼は私が呼び出した存在であり、この部屋に現れることが何よりも「自然」なはずなのに。


「昨夜、お前が入浴中にヘイヴンに戻り、少しだけ休息を取った。その後、再びここに戻ってきた。お前が眠っている間に何も問題が起きなかったことは確認済みだ。」


淡々とそう答えるキリアン。その声に嘘はなく、ましてや冗談もない。ただ事実を述べているだけ。それなのに、私はその答えを聞いて妙に恥ずかしくなった。まるで、彼に自分の無防備さを知られたような気がして。


「そう……ありがとう。」


声が小さくなる。なんで「ありがとう」なんて言葉を口にしたのかわからない。ただ、その瞬間に思いついた言葉がそれだっただけだ。キリアンはそんな私の言葉に一切の反応を見せず、ただじっと私を見つめている。


「だが、先程の笑いはどういう意味だ?」


唐突にそう問いかけられ、私は固まる。先ほど自嘲的に笑ったことを、彼は見逃さなかったらしい。その冷静な目が、まるで私の内面をすべて見透かしているようで、居心地が悪い。


「別に……ただの、疲れ笑いみたいなもの。」


そう答えながら、私は視線を逸らす。それ以上の説明を求められたら、正直どうすればいいかわからなかった。だって本当の理由なんて、自分でもよくわかっていないのだから。


「疲れているのか?」


「まあね。夜、あんまり寝られなかったから。」


答えながら、心臓の音が少しずつ落ち着いていくのを感じた。それでも、彼の存在がこの狭い部屋にあることが、まだどこか非現実的で、私の胸の奥をざわつかせる。


「ならば、今日一日は静かに過ごすべきだ。」


彼の言葉は、命令にも助言にも聞こえない。ただの提案のようだった。それでも、どこか優しさが含まれているように感じたのは、気のせいだろうか。


「……うん、そうする。」


私は小さく頷いた。その瞬間、キリアンの瞳がわずかに柔らかくなったように見えた。だけど、それが本当かどうかを確かめる暇もなく、彼は再び冷静な表情に戻っていた。

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