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それは蕾のまま枯れた花のように

眠れない。


布団に包まれて目を閉じても、いつもなら気づけば訪れる微睡みが今日はどこにもない。体は湯船で温められ、仕事の疲れも十分に溜まっているはずなのに、頭だけがひたすらに冴えわたっている。まるで私の意識が一人で暴走しているような感覚だ。原因なんてわかりきっている。この状況の異質さを脳が受け入れきれていないのだ。


キリアン。

あの、私が生み出したオリジナルキャラクターのことを考えている。考えずにはいられない。目を閉じるたび、彼の姿が浮かぶ。オッドアイの冷たい瞳と、プラチナブロンドの髪が脳裏に焼き付いている。言葉一つ一つが静かに響くたび、現実の重みをもって私に迫る。


「私……どうしちゃったんだろ。」


布団の中で小さく呟く。その声は、まるで誰かに向けたわけでもなく、ただ自分に対する問いかけだった。そもそも、こんな状態になるなんて考えたこともなかった。私の頭の中に居座るのは「恋」と呼ぶにはあまりに滑稽で、理解しがたい感情だった。


思えば、私は30歳にもなるまで恋愛なんて縁がなかった。いや、それどころか「恋愛」という行為そのものを避けてきたと言ってもいい。だって、それは最初から自分には無縁のものだと知っていたから。


中学時代のことを思い出す。教室の隅で本を開いていた私を、周りの誰もが見向きもしなかった。いや、見向きしないだけならまだいい。私を見た瞬間に笑ったり、あからさまに避けたりする態度が当たり前だった。「キモい」「ブス」「デブ」。そんな言葉が毎日のように聞こえてきた。その全てが、私の中に深く刺さり、抜けることなく残っている。


そんな自分が誰かを好きになるなんて――考えたこともなかった。いや、考えることすら許されなかった。だって、それは「あり得ない」と自分に教え込んできたから。誰かを好きになれば、それは必ず拒絶される。それが目に見えているのに、どうしてそんな無謀なことができるのだろうか。


だから私は、自分の世界に閉じこもることを選んだ。本の中や、自分の頭の中の物語に逃げること。それが唯一の救いだった。そして、そこから生まれたのが「ブラッド・ヘイヴン」。私が夢見た「もう一つの世界」。そこには私のように無力で、何の価値もない存在は一人もいない。強く、美しく、何にも縛られないキャラクターたち。キリアンもその一人だった。


「……それなのに、今さら何を考えてるんだろ。」


布団の中で、ぐるりと身体を丸める。自分の作り上げたキャラクターに動揺して、眠れない夜を過ごしている30歳の自分。この状況がどれだけ滑稽か、わかっているはずなのに、それでもこの感情を止められない。


「恋愛なんて、私には縁がないはずだったのに。」


過去を振り返れば振り返るほど、それが確信に変わる。私は誰かに恋をする資格なんてなかった。誰かを好きになる余裕なんてなかった。ずっと自分を嫌っていた私が、どうして他人を好きになれるだろう?


だけど、今こうして布団の中で悩む自分がいる。この気持ちが「恋」なのかどうかなんてわからない。ただ、キリアンの姿を思い浮かべるたび、胸の奥がざわつく。それは明らかに今までの自分にはなかった感覚だ。


「……馬鹿みたい。」


自嘲気味に呟く。だけど、その言葉にはいつものような鋭さはない。まるで、自分でも言葉の意味を信じていないような、どこか弱々しい響きだった。


目を閉じて、深く息を吐く。今日は眠れる気がしない。けれど、目を開ければまた現実の天井が見えるだけだ。それも怖い。だから、私はただ目を閉じて、このもどかしい夜をやり過ごすしかない。


キリアンの顔が、今も私の心を支配している。

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