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シングルベッド

湯船から上がり、リビングに戻る頃には体もすっかり温まり、少しだけ眠気が差してきた。タオルで肩より下の濡れた髪を拭きながら時計を見ると、針はすでに深夜を回ろうとしている。そろそろ寝る準備をしないと明日の朝が辛い。けれど――。


けれど、ふと考えが頭をよぎる。


キリアンはどこで寝るのだろう?


さっき、あっさりと「ヘイヴンに戻る」と言って消えた彼だけれど、戻ってくることは間違いない。彼が私の「召喚」によってここに現れた以上、このマンションを拠点にすることになるのは明白だ。でも、彼の寝床なんて用意していない。いや、それ以前に、彼が「寝る」という行動を必要とするのかどうかすらわからない。


「……でも、寝るでしょ、たぶん。」


呟いてから、自分の言葉に少しだけ赤面する。いや、別におかしなことを言ったわけではない。誰だって寝る。それはごく当たり前のことだ。でも、彼にとってそれが当たり前なのかどうかはわからない。それに、仮に彼が寝るとしたら――どこで?


その瞬間、頭の中に浮かんだのは、唯一の選択肢だった。


私のベッド。たった一つしかない、あの小さなシングルベッド。


「え、いや、まさか。」


口に出してから、心臓が跳ねたのを感じた。まさか、そんなことにはならないはずだ。彼がこの部屋に戻ってきたとしても、きっと「自分の寝る場所は自分で確保する」とか何とか言って、勝手にどこかへ消えるに違いない。そう信じているのに、脳裏に浮かぶのは最悪のシナリオ――。


「……一緒に寝る、って……?」


その言葉が頭に浮かんだ瞬間、私は思わず両手で顔を覆った。自分で何を考えているんだろう。顔が熱い。湯上がりだから、という言い訳では通用しないレベルで熱い。


そもそも、相手は「堕天の殺戮者」だ。私が高校時代に作り上げた厨二病全開のオリジナルキャラクター。冷酷非情で、美しさと強さを兼ね備えた完璧な存在。そんな彼に対して、「一緒に寝る」なんて提案する自分を、どれだけ恥ずかしがれば気が済むのか。


「……何照れてるの、私。」


自分で自分に突っ込む。その声は、いつもより少しだけ大きかった。


いや、本当に、何を照れているんだろう。相手は私の創作物だ。私が好き勝手に設定を加え、作り上げたキャラクター。それに対してこんな風に動揺している自分が馬鹿みたいだ。


でも――。


そう思うのに、胸の中のざわつきは消えない。彼が「ただの設定」で済まされないほど、目の前に実在感を持って存在しているからだ。彼があまりにも生き生きとしているせいで、私の中で「キリアン」という存在がいつの間にか創作の域を超えつつある。


「……ないない、そんなのない。」


私は声に出して打ち消す。もう一度冷静になろう。彼が戻ってきたら、普通にどこかで寝るだろう。床でも、椅子でも、いや、それこそヘイヴンから取り寄せたふかふかの布団とか持ってくるかもしれない。そういう便利な設定があるのが彼だ。そうに違いない。


「……でも、もし本当に聞かれたらどうしよう。」


ベッドを使いたいと言われたら?一緒に寝るべきかと問われたら?そう考えると、心臓が跳ねる音が耳に届きそうなほど大きくなる。いやいや、そんなことあり得ない。絶対にない。そう言い聞かせながら、私はタオルをきつく握りしめた。


「ただのキャラだから。ただのオリキャラだから。」


そう自分に言い聞かせる。けれど、その言葉の軽さに、自分でも少しだけ気づいていた。

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