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Phase474(4)

「⁉」

「射撃のタイミングだけは褒めてやる。だが、弾速の遅い麻酔弾を選んだのは悪手だ」

 言葉を吐き捨てながら麻酔弾の先端をニーナに向け、ダーツ矢のようにして投げ返す。その速度は人間が放つそれではなく、銃口から放たれたときと同等の速さで突き進み──が、写真とは違うロメロの容姿から、常人離れした攻撃が繰り出されることを予測していたララは、放たれると同時に=wallで防御壁を生成し麻酔弾を間一髪防ぐ。直後、壁は崩れ二人の足元で瓦礫と化した。

「なんで角が?」

「わからない。だけど、これだけは言える。これまで戦ってきた二本角とは違う力がある……」

 軍人として、また語創者として、これまで数百という戦場を経験してきた二人であったが、あの反射神経と漂う異様な殺気は、どの戦場でも感じたことがないものであり、冷静沈着を一貫してきた二人もこのときばかりは、鼓動の高鳴りを感じていた。

 そのとき、ロメロのポケットから着信音が鳴ると、徐にスマホを取り出し、電話を取った。

「おい、一体どうなってる。奴らに場所が……、あぁ、分かった。だが、この分の補償もしっかりしてもらうからな! ……チッ。本当に生意気なガキだ」

 苛立った面持ちで切れたスマホの画面に愚痴を吐き、再び二人を見る。

「悪いが、お前たちの相手をしている暇はなくなったようだ」

「だからって、私たちが見逃すとでも?」

 ララは高鳴る鼓動を静め、創筆を握る。

「てっきり感謝されると思っていたよ。この女のようにならなくて済むんだからな」

「随分と舐められたものね。ま、もうすぐわかるわ。どっちが間違っていたかがね!」

 ララは創筆の先を床に押し付け文字を書く素振りを見せた直後、隠し持っていたスタングレネードをもう片方の手で投げ──その作戦を壁裏で聞いていたニーナは、起爆した丁度のタイミングで麻酔銃を撃った。  

「なにッ──」

 ララの計画通り、視聴覚が攪乱したロメロは発砲に気づけず、今度は首元を捉える。

「もらったッ!」

 ロメロは咄嗟に引き抜くも、即効性の麻酔薬が体内を駆け巡り、行動が鈍くなっていく。その隙を狙い、=handcuff(手錠)を生成し一気に距離を詰めたニーナは、ロメロの手を取り、自分の片腕と繋がった手錠をかけた。

 そのとき。

「……危ないっ!」

 突如、ニーナの死角であった頭上から斬撃が落ち──間一髪、ララの声に反応し避けることに成功するも、繋がれた手錠の鎖部分が両断され、手錠は紫血へと融解した。

「よっとっ」

 奇襲を成功させ、軽やかに飛び退り距離を取った白髪の少年は、刃の部分が紫色に着色された刀を背の鞘に納める。頭上からは二本の角が生え、先程の鋭い斬撃を放ったとは思えない華奢な体系の少年は、白髪に劣らぬほど白い肌で覆われていた。

「下がってて。後は僕たちが相手するからー」

 負傷さえしていなければ、聞く耳すら持たない生意気な言葉使いであったが、手錠を両断してくれたという事実を加味し、ロメロは仕方なさそうに指示に従う。

「ボスが待ってるよ。早く行きな」

 そこへもう一人。金色のアクセントが入った黒キャップを被り、無数の紫色棘が刺さったバットを肩にのせたスレンダーな女が、ロメロに言葉を吐く。

「……ふんっ。つくづく、気が利く女だ……」

 そこでニーナとララは察する。この二人は先程の電話相手が寄越した刺客であると。

「行かせるわけないでしょ」

 ララは=grenade launcherと床に殴り書くと、ビップルームの裏口へ向かうロメロへ照準を合わせ──ポコッ、という音と共に放たれた四十ミリグレネード弾は、低い弾道を描きながらロメロへ迫る。

 しかし、そこへ割って入るように女が立ちバットを掲げると、生えた一本の紫色棘が弾速よりも速いスピードで伸び、たちまち弾を捕らえるように貫通する。すると弾は手錠同様融解し、棘から滴る紫血が床へぽつぽつと落ちていった。

 その戦闘を背にそそくさと出口を出るロメロ。ニーナが詰め寄ろうとするも、当然のように少年たちが壁となり行く手を阻む。

「気をつけて。二人ともこっちの攻撃を無効化する力がある」

 ララは興奮気味のニーナを抑止するように言葉を吐くと、少年は不気味に口角を上げ、異様に白い歯を露にする。

「ご名答、ご名答。二人とも頭良さそうだから、戦いずらいよー」

「おい、弐斗(にと)()。なに自分から手の内明かしてんだ馬鹿」

「そんなに怒んないでよー呱呱(ここ)ちゃん。大丈夫、大丈夫。どっちみち、二人ともここで死ぬんだからさー」

 眉根を寄せる呱呱に対し、弐斗無の楽観的な性格が言葉に滲みでる。

「どうする?」

「逃げよう。書いた物が通用しないんじゃ、私たちに勝ち目はない」

 ララは徐に瓦礫を拾い上げ、何かを書き記しながらそう告げる。予想外の返答に、開いた口が塞がらないニーナであったが、瓦礫に書かれた文字を確認したと同時に言葉の意図を理解すると、持っていたランチャーのマガジン部分に=smokeと書き記し。

「えー、なになに、もう降参宣言? それに石ころに落書きなんかしちゃって、爆弾にでも変わるわけ?」

「……いいえ。もっと、面白いものよ」

 不敵な笑みを浮かべながらそれを頭上へ放り投げた。が、当然のように呱呱のバットから伸びた棘がそれを貫き一瞬にして融解させる。

 ポコッ。

 直後、注意が石に向いた隙を見計らうように、ニーナが両者の中央にスモーク弾を発射。それには二人の能力は間に合わず、瞬く間に辺りは灰煙に包まれた。

「あー、もう、めんどくさいー」

「お前のせいだろうが弐斗無!」

「だって、面白いものって言ってたから」

「そんなの相手の思う壺じゃんかよ! とにかく奴らが逃げれるのは、裏口と正面の出入り口だけだ。お前はここに残って裏口を見張ってろ」

「はーい」

 間延びした返事を背に灰煙へと消えた呱呱は出入口へと駆けて行った。

 出入口を抜けた呱呱は、もぬけの殻と化したダンスフロアを見渡し、二人の姿を探す。

「……チッ、逃がしたか」

「ここよ」

 歯嚙みする呱呱の鼓膜に刺さったのは、フロア一面を見渡せるステージ上に設置されたターンテーブルの上に腰を掛けるララの声であった。

「自分から姿を現すなんて、随分と余裕なのね。それも一人で」

「戦場での鉄則、その一。的確な分析で勝ち筋を見出す。あの少年は素早い身のこなしで近距離のものを無効化し、あなたは後援としてその他のものに対応する。そうすることで、より広い範囲の攻撃を無効化する。でしょ?」

 一度の戦闘で全てを把握する分析力と、悦が滲む不気味な笑みに、呱呱は思わず苦笑する。

「どうやら、これまでの奴らとは違うみたいだけど、ここからどうやって戦うつもり? 女二人で気ままにガールズトークなんてする気なんてないよ」

「私だってそう。第一、今の女の子の流行りなんて知らないし」

 そう言いながら、ララは少女のように両足をぶらぶらと上下させる。その陽気な態度からは、微塵も緊張感を感じさせない。

「あの男について教えて欲しい。もちろんタダでとは言わない。言ってくれたら、今日は見逃してあげる」

「あんた、さっき自分が言ってた言葉忘れた? それを言うのは、私の方だと思うけど」

「……残念。じゃぁ、交渉決裂ね」

「当たり前でしょ、馬鹿女ッ。とっととくたばれ!」

 苛立ちを露に突き付けたバットの先から高速で棘が伸びる。ララは先程の態度から一転、緩急のついた身の躱しでそれを間一髪躱すと同時に、ターンテーブルのあるボタンを押す。すると、ブースの両端に設置されていたサーキュレーターが回転を始め、泡を放出し始める。

「なになに、二人でパーティーでも始めようっての⁉」

 ララは冷笑に近い笑みを浮かべながら、ララが身を潜めているターンテーブルにバットを突きつけた。

 その刹那。鼻をつんざくような異臭が鼻孔をつくと、呱呱は咄嗟に照準をサーキュレーターに変更し、即座に貫き停止させた。

「もう遅い」

 と、意味深な言葉と共に姿を見せたララの顔には、場に不相応なガスマスクが装着されていた。

「鉄則、その二。常に先手を打つ。この神経毒は数ミリグラムでも体内に入れば、ほんの数秒で全身の自由を奪う。やっぱり、あなたが無効化できるのは物体だけのようね」

「……この、クソ女ッ……」

 呱呱は怒りに体を震わせながらバットを杖のようにし、崩れんとばかりに必死に毒に抗う。がそれも虚しく、膝から崩れ落ちた呱呱は、果てるようにして地面に突っ伏した。

「bonne nuitおやすみなさい

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