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Phase474(3)

「よくフロアの連中に気づかれずにここまで来れたな。ザイラ」

 ロメロは目の前にいる黒のキャットスーツに身を包んだ女に称賛の言葉を送ると、手に持っていたブランデーの入ったグラスをガラステーブルに置き、皮のソファーへ深く腰を掛け足を組む。トレードマークの白髪のオールバックはワックスで固め上げられ、目元を覆う黒のサングラスはコントラストとしてより強調されている。

「えぇ。これのおかげでね」

 ザイラと呼ばれるその女は、頭を隠すために被っていたニット帽を脱ぎ捨て、立てた右の人差し指を顔に近づける。すると、指の根にはめられていた紫色の指輪が巨大なシャンデリアから降り注ぐ光に照らされ、妙な輝きを放った。

「あァ……。何て親不孝の息子だ。あいつだけは助けてやろうと思ったのに」

「その愛息子からの命令よ。組織の掟を犯した貴方に、もうボスの座は務まらない」

 ザイラは握った創筆で壁に=swordと書き、その剣先を精悍な眼差しと共にロメロに向ける。

「ザイラ、君なら既に気づいているはずだ。あいつには数百人の団員をまとめ上げる力も、カリスマ性もないことにな」

「万が一そうだとしても、あなたにボスは務まらない。あなたを慕っている部下など、もう一人もいない!」

 青筋を立て、まくし立てるように言葉を吐いたそのとき、耳元に光るイヤリングを見たロメロは突然破顔した。

「……そのイヤリング。なるほど、あいつとできてるってわけか。いつからだ? 子は孕んでいるのか?」

「黙って!」

 ザイラは怒りのままに距離を詰め、剣先をロメロの眉間に突き付ける。

「最後に誓いの時間を上げる。地獄に落ちないように心の底から神に謝りなさい」

「……君は誰よりも聡明な女性だと思っていたが。どうやら私の勘違いだったようだ」

 死を目の前にしても、ロメロの鷹揚な口調は乱れることはなく。

「私欲にまみれすぎたのよあなたは」

 ザイラは剣先を天に向けた。

「ふんっ。君はまだ知らなさすぎる。何もかもな」


「ね。誰も私たちに気づいてない」

 ララは得意げにそう言い、頭上に生えた角の先端を触る。それこそララが政府に依頼した秘密兵器、紫血が練り込まれた樹脂で作られた『特製角カチューシャ』であった。

「……えぇ。だけど何か変な感じね」

 フロアには何色ものサーチライトが縦横無尽に走り、大音量のテクノポップが響く中、数百人の紫血鬼が音楽に体を預け踊っている。DJブースの両隣には巨大なサーキュレーターが設置されており、そこからフロア全体に放出される大量の泡が、紫血鬼たちのボルテージをより一層高めていた。

 そんな人を襲う姿とは遠くかけ離れた紫血鬼たちを目の当たりにしたニーナはふと思う。この紫血鬼たちも、元はと言えば自分たちと同じ人間で、一人一人に真っ当なバックボーンが存在する。しかし、誰も望んでもいない大疫病のせいで、強制的に殺処分を受ける家畜同等の扱いに成り下がってしまい、日々語創者に怯え、戦いながらこのドーム内で暮らしている。そんな彼ら、彼女たちに、私たちは剣を振り、銃口を向ける権利があるのか。所詮、私たちは誰かが決めたあやふやな正義の名の元に殺しを行う、単なる加害者に過ぎないのではないか。と。

「さ、バレてない内に行きましょ」

 そうして逡巡が心中に渦巻き始めたとき、ララのやけに凛とした声が鼓膜から流れ込むと、瞬く間にそれを掻き消した。

「えぇ」

 ニーナは言われるがまま先に行ったララの背中を追うようにして、一歩を踏み出した。

 バンッ──‼

 その刹那。ビップルームに繋がる扉が爆発音と共に吹き飛んだと思えば、中から数発の発砲音が鳴り響いた。それを耳にした一部の紫血鬼の悲鳴がフロアに充満していた音楽を裂くように響き伝染し、フロアが騒然となると、紫血鬼たちは顔色を一転させ、我先にと一斉に出口へと駆けていく。

 突如起きた異変に呆然と立ち止まった二人は、一瞬顔を見合わせた後、その人の波に逆らうようにして足早に歩みを進め、部屋へと入り──そこで目の当たりにした場景に思わず息を詰まらせた。

「ぐふっ……」

「ふん……。子は孕んでいないようだな」

 ロメロはそう皮肉交じりに吐くと、ザイラの腹部に貫通させた右腕を引き抜く。同時に膝から崩れ落ちたザイラは、意識を失うようにして、転がる刀と拳銃と共に床に突っ伏した。

「ザイラ……。恨むべきは俺ではない。差し出した手を拒んだ息子を恨むのだ」

 サングラスの奥で目を笑わせ、悦に浸るロメロ。その気の緩みをつくように=anesthesia gun(麻酔銃)と創筆を走らせたニーナは、照準を首元に合わせ。

 パンッ──!

 先端についた針がシャンデリアの光を帯びながら、寸分の狂いなくロメロの首筋を捉え──しかし着弾する寸前、首の皮一枚のところでロメロの人差し指と親指に掴まれ、弾は完全に静止した。

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