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Phase473.5(2)

 原宿、竹下通り。

 休日になれば若者でごった返す通りも、随所で語創者の死体を紫血鬼たちが取り合うように漁っている殺伐とした状況より、死の一本道(デスロード)と化していた。気づかれればひとたまりもない場景に、ノアはすぐさま息を潜め物影へと身を隠す。

 ルナに会いたいという一心で来たものの、手掛かりはフランクの曖昧な記憶にあった、坊主頭の男というものだけであり、男の写真もない以上、自力で探し出す他なかったノアは、周囲の建物の中で最も高いビルに入り、最上階の廃屋と化したフロアの窓からスナイパーライフルで索敵を試みる。

 蛆虫のように死体に群がる紫血鬼たちに照準を合わせ、容姿を確認していくノア。しかしそう簡単に見つかる訳もなく──諦めスコープから目を放そうとしたそのとき、三人の紫血鬼に追いかけられ、必死に逃げ惑う一人の少年、『矢吹ケン翔』の姿が目に入る。

「何回言ったらわかるんだ。俺はハンターじゃねぇって言ってんだろ」「デハ、お前カラする、人間ノ匂いはナンダ!」

「そんなの知らねぇつーの!」

 その見事に刈り上げられた頭髪に思わず瞠目したノアは、すぐさまライフル弾のボディに=holeと書き弾を込め──再びスコープを覗き込み息を止めトリガーに指を掛ける。

 バゥン──

 重々しくも鋭い銃声がこだまし、少年が駆ける数メートル先に打ち込まれ、落とし穴のごとくホールが生成されると、転げ落ちるようにして少年の体はホールへ落ちていった。

「いててっ.......ったく、何なんだよ次から次によぉ……あ?」

「動いたら撃つ」

 ホールから落ちてきた少年を待ち構えていたノアは、こめかみに拳銃の銃口を向ける。矢吹は顔を引きつらせながら両手を上げ、視線だけをノアの方に動かす。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。もう俺は紫血鬼じゃねぇんだってば」

「黙って。あなたはこれから私がする質問に答えるだけでいい」

 矢吹の話を聞く耳さえ持たず、ルナの写真を少年の目の前に掲げる。

「この女に見覚えは?」

「し、知ってる。ルナちゃんだろ? なんでハンターのあんたがルナちゃんを」

 少年の口から出たその二文字に一気に心拍数が上がり、無意識に拳銃を握る手に力が入り、食い込ませるように銃口を強く押し当てる。

「今どこにいるの⁉」

「……それは、わからない」

「……そう」

 期待外れの返答に我に返ると、トリガーに掛かった指に力が入る。その僅かに金属が軋む音を察知した少年は、咄嗟に声色を変える。

「まてまてまてっ! でも大体の行き先はわかる。俺をドームの中から出してくれたら教えてもいい」

「何を言い出すかと思えば……。第一、外に出れたとしても、警察に見つかって殺されるだけ」

「いやだからさ、俺はもうほとんど人間なんだってば」

 それを照明するように、片方の手の親指の腹を噛むと、そこからは常人と何ら遜色ない赤い血が流れだした。

「な? 角もヒビ割れてきてるし、能力も使い物になんねぇ。挙句の果てに紫血鬼たちにはハンター扱いされて困ってんだよ」

 次々と明らかになる不可解な事実に戸惑いを隠せないノア。だがその何よりも、出会ったときから紫血鬼特有の殺気が全く感じられなかったことが、主張の一番の裏付けとなった。

「なぜあなただけが人間に戻っているの?」

「そんなの俺にもわかんねぇよ。けど、体がこうなり始めたのはルナちゃんと会ってからだ。ルナちゃんが何か知ってるに違いねぇ」

 ここぞとばかりにルナの名前を連呼する矢吹。限りなく人間に近いとはいえ、目の前の少年は未だ紫血鬼であり、連れ出したことがバレれば、特別に定められた法律により紫血鬼と共に葬られることは確定していた。そのリスクを負ってもこの少年を連れ出す価値があるのか。それとも振り出しに戻り、また一から手掛かりのない状況でルナを探すのか。心の中でその二つを天秤にかける。

「居るのは分カッテイルぞ! サッサと出テコイ、人間!」

 銃声を聞きつけた紫血鬼たちが鍵のかかったドアを乱暴に叩く。

「おい、まてっ──」

 パンッ──

 発砲音と同時に体制が崩れ、床に横たわる矢吹。ノアはその少年を担ぎ上げると、床に創語を書き記しフロアを後にした。

 ドガンッ。紫血鬼たちの力に耐えきれなくなったドアはついに蹴破られ、複数の紫血鬼が部屋になだれ込むも、そこは既にもぬけの殻であった。

「チッ、逃げラレタか……。んッ?」

 その中の一人が足元に違和感を覚え視線を下げる。一本の糸が窓から差し込む月光を浴び閃くのを確認した瞬間──天井に貼り付けられたダイナマイトが起爆し、崩壊した天井の下敷きとなった紫血鬼たちは一斉に屍と化した。

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