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ふたり

 森の中を駆けている。今日は6日ぶりに両親が任務から帰ってくる。(のぞむ)、走って。早くおいで。明日からやっと忍術を教えてもらえるんだよ──。

 森を抜けて陽の光に視界が覆われた時、ゆっくりと目が覚めた。外からは賑やかな声が聞こえる。だんだんと冴えていく頭で、今自分が救護室にいることを理解した。

「目覚めたか」

 声のした方に顔を向けると(つづみ)が薬の調合をしている。

「どのくらい寝てた……?」

「2時間くらいかな。このまま寝ててもいいよ」

(しるし)は?」

「ちょうどさっき交代して、今夜はお開きだって伝えに行った。火の始末だけしたら戻ってくる」

「そっか。鼓も疲れてるでしょ。私も見回り行くから、先に塔に戻ってて」

「それはいくら(のぞみ)の言うことでも聞けねーなあ」

 手元に目線を注ぎながら、穏やかに笑みを浮かべて答える鼓に、じわりと胸が熱くなる。

「調子悪いとこは?喉はどうだ?」

 言われてみれば数時間前には喉にあった違和感がきれいに消えている。痛むところもない。

「平気。ありがと」

「気を失ってた2人も目を覚ましたよ。今夜は家族と一緒に救護室で過ごしてもらう」

「そっか。良かった。やっぱり鼓はすごいね」

「俺だけじゃ何もできないよ。お前らと、ここの住民がいてくれたお陰だ」

 鼓の言葉から、心からそう思ってくれていると確信ができる。倒れてしまったことで情けなさを感じてしまう希に、安心感を与えてくれる。

「あとで瑞にも礼言ってやれ。ここに運んできてくれたのもあいつだから」

「うん」

 喉用に調合された飲み薬を受け取り、一緒に救護室を出た。燻る火元のすぐ傍で、同年代の女の子2人に腕を絡められた瑞の姿が目に飛び込んできた。彼女たちにしてみれば、普段は修行やら訓練やら見回りやらに心血を注いでいる瑞とまともに話せる貴重な場であった。一方で希からは表情が消え失せ、鼓は苦笑いを浮かべている。これまで鼓のそんな場面はしょっちゅう見てきたが、瑞も同じような扱いを受けているのを見ることになるとは思っていなかった。

 片方の女の子が希たちに気づき、「あ」と言うと、瑞がぎょっとしてすぐさま汲み置きしていた水を残り僅かな火に掛け、「お前らも早く家へ戻れ」とだけ言い残してその場を後にする。希は既に速足で塔へと向かっていた。

「希!体調大丈夫なのか?今夜は救護室で寝た方が──」

「大丈夫!」

 語気を強めて返す希に、焦ったように続ける。

「あれは偶然、一瞬だけだって。ちょっと話そうって言われて」

「何も言ってないし、瑞が何してても自由だし」

「怒ってんじゃねーかよ」

「なんで私が怒るの!」

「俺はお前以外興味ねーよ!」

「知ってる!」

「知って……んならいーよ」

 思わぬ形で勢いを削がれた瑞を置いて、希はいつものように木の上の小屋へとひとっ飛びで上がっていった。

「俺らは何を見させられてんだろうなあ」

 煙草を燻らせながら2人を微笑ましく見守る鼓の横には、いつの間にか(つむじ)がちょこんと座り、人間さながら、呆れ半分にカァと返した。

 火照った顔と波打つ心臓をどうにか鎮めようと、希は自室へ戻るなり引っ張り出した布団に突っ伏し、夢で見た日の続きを思い返した。

 父さんたちに早く会いたいと走り、里を一望できる丘の上に着いた途端、美しかった故郷が火の海へと変わったんだ。そしてあの時も、私を鼓の元へ連れて行ってくれたのは、当時自分と背丈がさほど変わらない瑞だった。

お読みいただきありがとうございました!

ラブコメっぽい展開が好きだったりするのですが、希と瑞に関してはまだメインに据える段階ではないかなと思っています。


次回の更新も水曜日に、希視点の番外編の予定です。

この物語の補足的な内容になると思います。

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