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番外編/一等兵の備忘録:光を放つ男

 ここは鸞瀟(らんしょう)麟鳳(りんぽう)を首都に持つ、清濁混在の国──。



「あー暇だ」

 昼下がりの騒めく往来の中、見回りを放棄した目線を空中に漂わせながら男が言った。背丈は小柄ながら、左胸には勲章が陽に照らされ、それぞれの輝きを放っている。腰には刀が2本。

「そんな堂々と言わんでください。この間だって上官に失言を怒られたばっかりじゃないですか。それに暇なのは良いことですよ。国の中心、首都で平和が保たれてるんですから」

「失言じゃねえ。正当な評価を求めて主張しただけだ」

「言い方の問題ですよ。上の人間より働いて功績上げてるのは自分だなんて、言われた方はイラッとでもするでしょうが」

「そんなこと言わせないくらい動いて結果を出せば良い」

 今度は連れの一等兵の方がお手上げといわんばかりに空を見上げた。実際のところ、直属の上司である(とぐる)は異例の速度で昇進し、弱冠二十歳にして大尉にまで位を上げた実力者なものだから、説得力に事欠かない。


「第一、大尉ともあろう方が市中の見回りなんて普通しないでしょう。それで暇だなんだって──」

「お前、軍官日報読んでないのか」

「え、いえ、読んではいますが……」

 言われてぎくりとした。軍官日報は名称通り、日々発行される軍の新聞だ。各隊による日々の報告や各国の動向まで記された、軍に所属する者のみ閲覧できる官報で、実に30頁にも及ぶ。全てに目を通すとなると軽く2時間は要するので、一等兵は掻い摘んで読むことが癖になっていた。それでも主要な報せは頭に入っているつもりだった。自分よりも多忙であるはずの遂は隅から隅まで目を通しているのか──。


「まあいい。俺が単に気になってるだけの事項だ。近頃検挙数が()()()()。被害の数も、警備や見回りの人数も変わっていないのに、だ」

「同一犯の確保や再犯者の取り締まりを強化しているからでは?」

「記録の限りではそれも考えられる。が、それだけじゃねえ。罪人どもの締め上げは大いに結構だ。けど気になるのは、俺が聞いて回ってる限り目撃者は一貫して同じことを口にしてんだよ。『助けてくれた男が光っていた』とかなんとかな」

「随分と乙女な表現ですね」

「阿呆。物理的にだよ。男の身体が光ったと思ったら暴漢が薙ぎ倒され、警備官が駆けつける頃には姿を消してる。後は警備官が倒れた暴漢どもを回収するだけって流れだ。まるっと自分らの手柄にしてえのか、(いきお)の野郎はそんなこと一文字も書かねえがな。

 ──あいつの魂胆はどうでもいいが、その身体の光る男が何者なのか、突き止めるまでは俺も見回りに加わることにした」

 市中の警備は大佐である勢が指揮を執っている。一回り近く年上で、階級も上の相手を呼び捨てにするあたり、「どうでもいい」ということはないだろうに、と思いはしたが、深くは触れずに、諫められた腹いせだということにし、「そうだったんですか」とだけ答えた。


「さっき、麟鳳の平和がどうたらって言ったな。それが保たれてんのが謎の部外者のお陰だってのは軍の名折れだろうが」

「はあ、まあ、はい、そうですね」

「やる気がねえなら甘味処でも入ってろ。その代わり評定見て泣くなよ」

「行かないなんて言ってないですって!」

 舌打ちを残して背を向けた遂に向かって慌てて弁明し、後を追う。彼の消えた角を曲がろうとした時、甲高い叫び声が聞こえた。

 声のした方へ向き直った途端、肩に衝撃を受け、その場に尻もちをついた。混乱の最中、徐々に増える群衆の中から泥棒だという言葉を聞き取った。覚えた痛みを堪えて立ち上がり、遂を呼ぼうとして目に入ったのは、風にはためく襤褸切れと、裾から覗く2本の足だった。そして足元には(うずくま)る人の姿。一等兵に一瞥を寄越したその人物は、再び前方を見た。


 視線の先に、まるで人を射殺すかのような目つきをした遂が立っている。


 これが後に、第一師団の二双剣と呼ばれるようになる2人の出会いである。




お読みいただきありがとうございました。


最初は遂視点で書こうとしていましたが、まだ彼の目線で語れるほど理解しきれていないのでこの形です。「一等兵による」ではありません。


そしてここに来てようやく国名が出ました。遅いですね…。完結したら物語冒頭を直そうかな…。


書き出したら楽しくなってしまい、もう少しお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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