真実を掻き分けて
取り戻したいものがある。どうしても、なんとしてでも。
ずっとそう思い続けてきた。手が届き叶う時が来るまで、この呪われた命が続く限り、求めるものが変わることなどないと。
目前で散り散りになった、あの夢──……。
*
「最後」と言ったのが瑞には引っ掛かった。これまでに幾度、自分らの与り知らぬところで敵対する相手に交渉を持ち掛けてきたのか。そして最後と銘打っていた意味とは──。
「軌相手に交渉なんて通るのか」
「少なくともこれまでは全却下だな。というより、まともな話なんかできた試しがない。聞く耳持たずってのはまさにこのことかと思うよ」
眉尻を下げて困った表情を作っているが、緊張感のなさに希は却って呆れてしまう。
「だったら次だって可能性は高くないんじゃないの?」
「手札によると思うが、今となっちゃ気難しい男だからな。一筋縄じゃいかないもんでね」
どこまでが本当で、何が本心を隠すための冗談なのか、瑞が鼓の仕草や表情を注視し真意を読み取ろうとしても一向に分からない。
しかし、「何を」隠しているのかは分からなくても、「何故」隠しているのかは、希の過去を背負い続けてきた瑞には推し量れている。
「……最後の交渉に、鼓は何を出すつもりだったの?」
「俺」
何の躊躇いもなく言って寄越した鼓。本人は信じられないほどに至って飄々としている。
「何……言ってるの」
「あいつの狙いは俺なんだから、最後の手札も俺だろ」
「馬鹿げたこと言うな……っ!」
「だから気が変わったって言ってるだろ?簡単にやられるつもりはないってのは変わらないけど」
「交渉を止めるなら、その代わりに何をするつもりなの?」
「ちょっと困ったことに、それを考える猶予もあんまり残されてないんだよな」
一拍、間が空く。伏せた瞳が順々に希と瑞を映す。
「──軌は次に麟鳳を狙ってくる」
「首都を……!?」
「なんでそんなこと分かるんだ」
ひらりと窓掛けが靡き、涼やかな夏の夜の匂いが居間に流れ込む。3人の髪を揺らした風はやがて鳥の形に代わり、鼓の肩に舞い降りた。
「風の噂でね」
主人の頬に旋が顔を擦り、鼓が優しく撫でると満足気に飛び立ち、再び窓掛けを揺らしていった。
「軌が行動を起こすのがいつなのか、そこまではまだ分からない。けど動けば間違いなく、出る被害はこれまでの比じゃない」
国の中枢には当然、多くの人が住む。政を司る中心地が被害を受ければ、国中が混乱に陥ることも間違いない。想定の範疇を超える、否、想像すらできなかった未曾有の事態に、希は唾を飲む。
「ちょっと待て」
乱立する未知の欠片を掻き分け、核心に近付こうとする少年。読み取ることは叶わなくとも、肉薄することはできる。
「そもそもどうして、麟鳳が標的になるのが今なんだ。軌だったら鼓が麟鳳にいたこともとっくに突き止めてたんじゃないのか」
「…………腐っても首都だ。軍事力がある。あいつは無闇に動くような奴じゃない。時機を見定めてたんだよ」
鼓の目の色が僅かに変わったのを、瑞は見逃さなかった。
心臓が、大きく波を打つ。
お読みいただきありがとうございました。
鼓と軌の読み合い、探り合い的なところですね。
さて突然ですが、あと数話で少しの間更新を一時的に止める予定です。
この物語を綴り始める前から間を置くと決めていたポイントが当エピソードでした。
楽しみにしてくださっている方がいるとしたら戻るまでお待たせすることになり、すみません。
ただこのエピソードで一旦止める想定だったのですが、番外編を急遽執筆しています。
番外編が数話要するので休止まで何話なのか、まだ定かではないのですが、決まりましたら改めて。
この後すぐ更新する活動報告にも書きますのでよろしければ!
それではひとまず残り数話、どうぞよろしくお願いいたします。




