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進む、時

 (しるし)(のぞみ)の記憶を封じた時、不謹慎ながらも些か安心していた部分もあった。希の記憶が戻らなければ、長年やり過ごしてきた事実に触れずに済むからだ。その時が少しでも先延ばしになることに安堵を覚える自分本位さが嫌でもあったけれど。


(つづみ)は、年を取らないの……?

 ……10年前の記憶の鼓と今の鼓が全然変わってないことに気づいたの」


 想像していたよりも落ち着いて、投げかけられた質問を受け止めることができた。遅かれ早かれ、訪れることは決まっていた宿命だ。もう、過剰にかわす必要もない。諦めと覚悟は、時に表裏一体のようだ。


「年を取らないというより、俺の時間の流れ方が遅い、っていうのが正しいかな」


 ああ、やっぱり、そうなのか──。希の内で積もった疑念が、いやにさらりと足元を流れていった。


「本当は蓬莱で生まれたんじゃないのか」


 冷えた足に気を取られていたところに、瑞の言葉で我に返る。気持ちの整理は後でいい。今は破片を集めなければ。鼓を知るための真実の欠片を。


 仙人が住むと言われる蓬莱。そこで修行したという鼓は、秘術である仙術を扱う。行き方も場所も分からない地で生を受けたという方が、鼓の謎に包まれた素性の説明がつく。


「さすがの推察だな、瑞。ご名答だ」

「なんで隠す必要があったんだよ」

「気味悪いだろ、時間軸の違う人間、老いる速さの異なる人間なんて。まあ“人間”なんて括りでいいのかも分かんねえけどな」

 冗談なのか本気で言っているのか、2人には区別がつかない。いずれにせよ、まだ踏み入れることが叶わない領域を、鼓は秘めているということだけは察した。

「また驚かせるかと思ったんだが、こうも続けば飲み込むのも早くなるもんなのか」

 からかうように言ってはいるが、希と瑞は未知の形をした真実を矢継ぎ早に目の当たりにしているだけで、飲み込めているわけでは決してない。


「鼓は、色んなものを抱えすぎだよ。そんなんじゃ潰れちゃうよ……。背負わせちゃってる私が言っても何の頼りにもなれないかもしれないけど」

「そんなことないよ。日に日に頼もしくなっていってる。(にしき)さんと(さかえ)さんにも堂々と伝えられるくらいに。それに、お前達のお陰で気が変わったこともある」

「変わったこと?」

「しばらく常若(とこわか)をお前らに任せて留守にしようと思ってたんだ。でもやめた」

 あっけらかんと放った言葉は、2人を動揺させるのには十分な威力を持っていた。目の前にいる近くて遠い男に対峙するのに、今日ほど互いの存在を心強く感じたことはない。


「……(わだち)にでも会いに行こうとしてたのか」

「お前が敵じゃなくて良かったよ」

「茶化さないで。1人で軌の元に行こうとしてたって、軌は鼓を狙ってるんでしょ!?危険すぎるよ」

「簡単にやられるつもりはないよ。あいつから逃れる術だけは無駄に身に着いたんでね」

 自虐気味に笑うも、碧緑の両の目が妖しく光る。

「軌の元に行く目的はなんだったんだ」

「最後の交渉を、しようと思ってね」


 無音になった空間の空気がひんやりしている。立夏を間近に控えるも、まだ肌寒い季節の夜。



 常若から遠く離れ、首都・麟鳳(りんぽう)からさらに西には、広大な砂漠が位置する。そこにもまた、人知れず存在する秘境が1つ──。


(いさご)、次の標的地を決めた」

 周囲には誰もいなかった。男がそう発するまでは。

「おっ、久しぶりの襲撃ですね!で、場所はどこに?」

「……何の真似だ」

「ん?何のことです?」

「すっとぼけるな。人型になることですら大目に見てやってたものを」

「ええーいいじゃないですかー。紅一点ってやつですよう」

 いつの間にか現れた声の主は、睨まれてもなお怯まず、嬉々として続ける。

「女の子の姿、かわいくないですか?注文があったら言ってくださいね!頑張って変形するので!あ、ちなみに今は軌様に合わせて髪も目も黒くしてるんですよ、ほらほら、見てくだ──」

「ただの砂に戻されたいのか」

 声調を一段階落として凄まれ、沙と呼ばれた“少女”は口を尖らせてから、一瞬にして砂を纏いながら竜の姿に変化した。

「ごめんなさあい……」

 落ち込んだ様子の竜を見て、軌は軽く溜め息を吐いてから不敵に笑った。

「次はいよいよ、麟鳳だ」




お読みいただきありがとうございました。

進んでるんだか停滞してるんだか、な進度ですね。

更新頻度も少ないので、ブルスカで補足をつらつらと流しています。

ただフロー型なので、ストック型の形で残したいなと思ったりもしてます。

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