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ひかり

 (つづみ)は自分達と出逢う前、どれほどの地へ赴いたのだろうか。


 “消えた(つるぎ)(さと)”については、講義で軽く触れた程度だった。国が公表していることは決して多くなく、あるいは不明とされ、詳しいことは書物に残されていなかった。その中心人物が身近にいたことの衝撃は、若い少年達の思考を阻害するのに十分だった。


 (つむじ)の速度が落ちた。考え事を一旦止め、捉えた気配の先を辿る。鼓がいる。地上へ降りようとすると、旋は上空へ舞い上がり、制するように目で訴えてくる。

「近づくなってこと……?」

 直後、強烈な風圧が(のぞみ)達を襲った。狙われた訳ではない。自分達がいることなど知らず、鼓は術を使っている。


 辺り一帯に靄がかかっている。水ではなかった。胞子だ。鼓の風によってばら撒かれた胞子はゆっくりと地面に落ち、あるいは葉や枝に触れ、あるいは水の中へと、微かな光を放って溶けて消えていく。


「ああやって痕跡を消してるのか……」

 全ての胞子が消えると、鼓はその場を後にした。


 これまで鼓が常若(とこわか)の外へ出るのは講義の間、午前のみだったが、軌の狙いが明らかになった以上、日が傾くまで回ることにしたらしい。それも希の不安要素の1つだった。


 斜陽が山の端に触れようかという頃、鼓は常若の結界の中へと戻り、希達も後を追う。欠席したことが鼓に悟られぬよう、先に塔へ戻らなければならない。しかし鼓が向かったのは、常若の最西端にある剣山の麓だった。2人も見回りで何度も来たことがある。時折小動物が姿を見せるだけで何も無い場所だった。鼓が高く聳え立つ岩肌に手を触れるまでは。


 目を見張った。鼓の手が岩に触れた途端に洞窟が現れたのだ。どのくらい続いているのか、希達のいる空中からは分からない。しかし最も驚いたのはそこではない。洞窟の中に光が点り、女性が1人、進み出てきた。

「お久しぶりでございます」

「しばらく顔を出せずに悪かった」

「主が来ないのは何も無いということですから。私は安心しておりましたよ。きっと(ともり)も同じでしょう」


 見覚えがあるどころではない。そこにいたのは10年前、常若を出ていったはずの、希と(しるし)の世話役、(あかし)だった。


「どういうことだ……?」

 返事はできない。希にも、当然口にした瑞にも、眼の前で起きていることが何なのか一切分からない。


「この後灯の方にも行ってくるよ」

「そうなさってあげてください」

 平然と話す2人の会話が聞こえてくる。東には対を成すように剣山が存在する。話しぶりからすればその山には恐らく、いや、きっとかつてのもう1人の世話役だった灯がいるはずだ。


「瑞、戻ろう。夕飯作らなきゃ……」

「ああ……」

 錯乱したままの2人を乗せ、旋は塔へと向かって飛び立った。


「──行ったか。途中までは見事なもんだったけどな。旋の気配まで上手く消せるのは予想以上だったが、持続性に欠けてる」

「そんなこと仰いながら、お顔が緩んでますわ。お2人とも本当に立派に育って。遠目でも拝見できて嬉しい限りです。さり気なく見ていたつもりだけれど気づかれなかったかしら。

 けど灯に知られたら嫉妬されてしまうかも」

 口元を隠し、ふふふと上品に笑って、一息ついてから再度鼓を見た。

「今日いらっしゃったのは彼女達のお姿を私にお見せするためではないんでしょう?」

「むしろお前の姿を見せるため、だな」

「左様ですか。──遂に時が来るのですね」

「ああ。もうすぐ、動き出す」

「……貴方様を主に持てたこと、心より誇りに思います」

「また来るよ」

 鼓が去ると光は消え、洞窟も塞がり元の岩へと戻った。


 静かな夜とは裏腹に、ざわめく鼓動が空を切る。




お読みいただきありがとうございました。

名前のみ登場していたうちの1人がようやく登場となりました。

物語がまたひとつ、進みます。

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