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意思を継いで

「いいけど、高くつくよ?」

 講義が始まる少し前、(のぞみ)たちより1歳上のハルカがにやりと笑いながら言った。

「ありがとう……!お礼は必ずするから!」

「何が良いか考えとくね♪」

 主に彼女と話したのは希だが、視線は(しるし)の方を向いていた。それを愛想笑いで返し、学び舎を後にする。目指すのは、(つづみ)の向かう先だ。



 昨夜、鼓の口から初めて語られた本人の過去は2人の想像を優に超えていた。同時に新たな疑問も次々と顔を覗かせる。何でも質問していいと鼓は言ったが、「俺はいい。もう遅いから寝る」と、瑞はその場を切り上げた。

 鼓が常若(とこわか)の地に学び舎を建てた理由は、忍の里の最も秀でた夫婦の元で育ちながら、忍術を()()()()()()()()()()()()だった瑞にとって殊更に響いて聞こえた。1つでも多くのことを学び吸収していくことが、瑞にとっては優先すべきことに思えた。それに、隠していることはきっとまだあるだろうが嘘はついていないと、共に過ごした10年間に偽りはないと、そう確信を得たための退席だった。

 ほどなくして希も、居間から自室へと戻っていった。



 塔を出て鼓の姿が見えなくなると、代わって(つむじ)が姿を現した。希は待ち構えていたように腕に呼び寄せ、風の鳥に尋ねる。

「旋、お前は主人の居場所を辿れるよね?私よりもずっと正確に」 

「やけに聞き分けが良いと思ってたら、まさか」

「瑞はいつも通り講義出ていいよ。私が休むこと、先生に伝えといて」

「何言ってんだよ。後付けたってバレるに決まってるだろ」

「──実践したいことがある」


 1人で行かせる訳には行かない瑞と希はこうして、欠席連絡をハルカに頼むに至った。瑞は昨夜の決意を一夜にして翻すことになったけれど。

 救助活動でもないのに2人揃って休むのは初めてのことだ。


「旋もおいで」

「いつの間にできるようになったんだ」

 希から「実践したいこと」を聞いた瑞は、驚きで目を丸くしている。

「私だって無駄に毎朝時間潰してるわけじゃないってこと」

「そんなこと思って──」

「はい、静かにして!いくよ!」

 瑞の言葉を遮ってから、眼の前で結んだ両手に全神経を集中させる。


 ──私は忍として生まれて、これからも忍として生きていくんだ──。


 強く想い、小さく呟いた。


「隠遁の術・滅」


 2人と1羽を中心にした円ができ、その外側で、ふわりと小石やら砂やら落ち葉やらが浮かび、数瞬浮遊してから再び元あった地面に降りた。

「これで私達の気配が消えてるといいんだけど……いや、消えてるはず」

 大丈夫かと不安そうに見てくる瑞に慌てて言い直す。


「とにかく行こ!旋、案内して」


 広大な大地の上に広がる空を、体躯を大きくさせた烏の背に乗り翔ける希と瑞。その姿も気配も、風が通り抜けていく。




お読みいただきありがとうございました。


サプライズ、でしょうか。そこまでですかね。


このエピソードの諸々(特に瑞)についてはまた、その時が来ましたら。

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