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鼓と故郷と軌

 俺と(わだち)は孤児で、蓬莱で仙人のもとで育った。そんな驚くことか?仙術を使うんだから仙人に育てられた、ってだけだ。けどまあ、すぐには理解できねえか。お前らより長く生きた分の時間をかけて狂った感覚を持ってるのは確かだからな。


 軌はガキの頃は修行も遊びの相手もしてくれた。同じような境遇で、兄みたいな存在だった。

 想像つかないかもしれないけど、軌は真面目で分かりづらいながらも優しい面もあって、人に危害を与えるような奴じゃなかった。


 俺は仙人になんてなるつもりはなかったから、丁度今のお前らの年の頃かな、蓬莱を出たいって言ったんだ。俺らの育ての親で師匠の仙人にね。もちろん反対されたよ。俗世を離れて育ち、奇妙な術を扱う奴が、普通の人間と同じ生活を送れるはずないって。何度掛け合っても折り合いはつかないままで、強行するなら2度と蓬莱へ戻ることは許されないと言われた。当然だな。


 俺の申し出が引き金になって、軌の俺への態度は一変した。いや、元から俺は存在ごと憎まれていたんだ。ずっと態度に表すことなく接してくれていたんだと知った。憎い存在と長年一緒に過ごすって、どんな気持ちだったんだろうな。

 ただ俺が出ていけば、蓬莱の地を護る立場に軌が就くことになる。後継の座が軌から俺になったって前にも話しただろ?それを返上することで収まると思ってたんだ。若かったとはいえ、あまりにも短絡的で甘い考えだったよ。俺が、あいつをあんな風に変えさせてしまったんだ。


 ──犯した罪を抱えて、一度、故郷を失った。


 しばらく俗世で過ごして、首都麟鳳(りんぽう)に辿り着いた。道中雨風に晒されもしながら何日間もふらついてたから、身なりはボロボロだった。厄介な連中に絡まれて、金目の物を出せとか言われたこともあった。そんなもん持ってないって分かると今度は暴力だ。もしやられていたら良くても奴隷市行き、最悪内臓を取られてたんだろうな。

 幸いなことに仙術を使って生き延びたけど、今度は妙な術を使う浮浪者がいると噂になっちまった。麟鳳に着くまで色んな奴に狙われたよ。


 ああ、麟鳳へ向かった理由?重要なところを端折ってた。蓬莱を降りて彷徨ってた時、ある小さな一族の老夫婦に世話になったんだ。素性の知れない俺をえらくかわいがってくれて、しばらくそこで過ごした。その人達には最後、俺の生まれや力のことを話した。そしたらこの力は国のために役立てたらどうかって提案してくれたんだ。あんまり気乗りはしなかったが、一応は真っ当に生きたいと思ってたし、何か得られるものがあるならってことで、城で衛兵として雇ってもらうのが良いと思ったんだ。

 その場所は軌の標的にはなってないよ。彼らは拠点を移動しながら暮らす一族だったからな。俺が去るのと同時期に次の場所に向かうと聞いた。俺でももうそう簡単に居場所は掴めない。

 

 麟鳳への入都はかなり厳戒態勢が敷かれていて、手形がなければ入れない。どうしたもんかと思ってたら、俺の噂を聞いていたという隊士に出逢った。互いに血気盛んだったから一戦交えたんだが、秘術を使わない戦法で、自分と同等の奴とやり合ったのは初めてだった。

 そいつは実力者で発言力もあったから、上に入隊まで掛け合ってくれたんだ。名前?聞いたって分かんねえと思うけど、(とぐる)って男だよ。俺に剣術を教えてくれたのもそいつだ。今は昇進して、偉い立場に就いてるんじゃねえかな。


 特例に次ぐ特例で、入隊後は護衛もしたし公共事業にも携わった。仙術のことを知ってるのは城の人間ではごく一部だけ。城で働くようになってからはほとんど使うこともなかった。人目を忍んで時々使ったけどな。

 特殊な力がなくたって、知恵を使って物事を進める凄さを学んだ。常若(とこわか)にも学び舎を設けてるのはそういう訳だ。


 話が逸れたな。

 しばらく城で働いているうちに、条件を満たせば新たに自治領を与えられることを知った。目指すのはそこだと思った。

 仕事で知り合った伝手を頼って根回しを順調に進めて、城からも送り出してもらって、あと少しで自分の領地が手に入るって時だった。


 もう学び舎で習ったか?“消えた(つるぎ)(さと)”のこと。それが目指したもの、そして軌によって消され、失った俺の2つ目の故郷だ。


 城に戻るわけにも、軌に殺されるわけにもいかない中で命からがら逃げ続けて、目が覚めた時には忍の里にいたんだ。


 以上、お前らに出逢うまでの俺の話だ。混乱を極めたって顔してんな。質問があったら何でもどうぞ。




お読みいただきありがとうございました。

当エピソードは急遽差し込むことに決めて急いで執筆したのですが、驚くほどすんなり書けました。

こういう体裁で書いてみたかったので楽しかったです。

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