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鼓回顧録/名を冠する者たち

「それじゃあ2日後、麟鳳(りんぽう)で」

 新年を迎えてもなお落ち着かないまま日を重ね、人日の節句も幾日か過ぎた頃、寒空の下で拳を突き合わせながら言葉を交わすのは(にしき)(さかえ)、そして(つづみ)。今日は忍の里の将来を左右する会合に向けて出発する日だ。錦と鼓を、榮の率いる忍5人と、もう1つの6人の集団が後を追う。

 国の要職に謁見ともなれば最大級の警戒を敷いてくる。対して里にも十分な戦力を残しつつ、万が一のことを考えた布陣を組んで向かうに当たって、何度も繰り返し協議がなされた。2人の姿が見えなくなる頃に後追いの集団も発つ手筈になっている。

 里から首都である麟鳳までは片道約2日。彼らが帰郷する頃には双子が5歳を迎えている。その時には例年通り、出生日の分からない(しるし)も共に祝うのだ。


「土産、いっぱい買ってくるからな」

 子供たちの頭を錦が順番に撫で、朝日の方へ翻し出立していった。双子が生まれた時には既に長の身となり、里から出ることはなくなっていた父を、こうして見送るのは初めてのことだった。

 母に抱き締められて瞳を潤ませる(のぞみ)と、同じ腕の中でそんな彼女の手をぎゅっと握る(のぞむ)。普段は姉として弟を引っ張っているのだが、今、望もしっかりと支えようとしている。

 抱擁をためらう瑞は「ほーらあんたも!」と引き寄せられ、すっぽりと収まった腕の中で「希のこと、よろしくね」と告げられた。榮にしてみれば数日間の話だったのかもしれないが、瑞にとってはその日以来の約束として、抱えて歩んでいくことになる。


「早く5歳のあなた達に会いたいな」

 愛おしげに囁いたその願いの成就する日が来ないなんて、誰一人として予想などしていなかった。



「長いこと引き留めて悪かったな」

 3度目の休憩の時に錦が言った。鼓を国との交渉の引き金にしたり、半ば強引に剣術の師範として瑞や見習いたちに稽古をつけさせたりしていたことを、この男なりに気にしていた。一方で鼓も、居心地の良さから思わぬ長居を続けていたのだが、互いの考える別れの頃合いが合致していることを、なんとなく感じ取っていた。

「いえ、あの場所には学びになることが本当にたくさんありましたから。もちろんあなた方からも」

「この会合が終わったら、──行くのか」

「そのつもりです」

「子供たちの誕生日祝いと兼ねて、盛大な宴会になるな」

 楽しみだとも寂しいとも言えず、微かに笑ってから、鼓からも1つ問いかけた。

「あなたにとって、子供達はどんな存在ですか」

 またその手の話か、と呆れたように言ってはいるが、反して顔は嬉々としている。

「名付けたそのままだよ。俺にとってだけじゃない。榮にとっても、できれば里のみんなにとってもそうであってほしい」

「“希望”、と」

「“瑞”もだ。いい名だ」

「……そうですね」

 沈黙の間を風がすり抜けていく。自分で聞いておきながら、どう返答すべきか迷っていると、そろそろ行こうと先に錦が立ち上がり、穏やかながらもいつもと変わらない鋭い瞳で言った。

「鼓、お前にとってもだろう」

 本当に、この男には全て見透かされている。鼓の返答を待たずに向けられた背に対して、震える声を抑えて返す。

「郷を構えることができたら……また、会いに来てもいいですか」

「ああ、待ってるよ。みんなでな」


 残された時間で、どれほどのことを聞いておけるだろう。そして、できるならば彼に全てを話しておきたい。

 様々な想いを抱えて、再び目的の地へと駆け出した。

2025年初更新です。

お読みいただきありがとうございます!


ついに里を発つ日が来ました。

このエピソードの鼓と錦の会話はとても書きたかったシーンのひとつです。


ただもう少し全体的に厚みというか、長さがあってもいいかも、と思いました。加筆候補ですね。


そして3人の誕生日は1月14日です!!!簡単でも絵を描いてお祝いしたいな…!


次回更新も水曜日の予定です。

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