【一話】乙川さんは転校生です。⑤
「あんなに容姿の整っている子は初めてみたな。ああいう子が将来、女優になったり、モデルになったりするんだろうな」
僕と仙道は部室でのんびりしている。話題はやっぱりその日転校してきた乙川さんのことだった。
「たまに武勇伝として聞くじゃないか、学生生活の間に学園中の異性から告白された女優の話とかさ」
「隣の学園にも評判が轟いていたとか?」
「そうそう、本当かどうかは知らないけどさ・・・」
「百瀬先輩はスポーツをしているだけあって、すごいと思ったよ。勇気があるっていうか」と僕がいうと、
「そうだよな! いや、正直なところ俺は応援していたよ」と、仙道は言う。「特にさ、女子たちに囲まれてから、どう機転をきかせて乗り切るのかとかさ・・・。でも結局、どこかから評判をききつけて、一目みたらあんまりにかわいいから、つい勢いで告白してしまっただけなんだろうなあ」
「どうしてそう思う?」
「だって、すぐ諦めたじゃないか・・・。本当に好きなんだったら、女子に凄まれたぐらいで引き下がるものかよ」
「意外にロマンチストなことをいうね」と僕はついからかってしまう。すると仙道はムキになって、
「いや、当然だよ。だって、先輩も言っていた通りだけど、女子たちは何の関係もなかったじゃないか」
「確かにそうかもしれない」と、僕は一歩引いて、ふと気になったことを仙道に訊いた。
「百瀬先輩のことをすごいと言ったけれど、君だったらどうする。乙川に告白するかい?」
「まさか!」と、仙道は首をぶんぶん横に振って、「そもそもあの子とは今日会ったばかりだぜ。まだ話すらしていないんだ。好きでも嫌いでもないよ」
「じゃあ、君が乙川のことを好きになったとしたら?」
すると仙道は少し考えている様子だったが、
「・・・いや、やっぱり俺にはわからないな。あまりにも高嶺の花という感じがするよ。なんていうか、もし俺が告白なんかしたところで、結果が先に見えてしまうというかさ、結果が見えすぎてしまうから、逆に想像ができないんだなあ」
情けないことをいうなよ、と思ったが、写真部員としてはそんなものなのかもしれない。
僕もなんとなく気持ちがわかってしまうのだ。
しばらくして一年生の三人がきて、
「汐留先輩、ききましたよ! すっごいかわいい子が転校してきたって!」
と、芳沢が興奮気味にいう。
僕は、「そうだけど、なんで一年の君が知っているの」と訊いたところ、やはり昼休みのことが学園中で話題になっているということだった。
「すごいですよねえ! 見た人を全員虜にしちゃうなんて! サッカー部の一番モテるっていう人をすぐに振っちゃったんですよね!」
芳沢はそういうが、だいぶ尾ひれがついていそうだし、それにすごいのはどちらかというと乙川さんではなく、うちのクラスの女子の団結力のほうではないだろうか?
そういう風に昼休みのことを思い出していたのだけれど、そんな僕に芳沢が、
「でも、先輩はそんなの興味ないですもんねー?」と続ける。
え?と僕は面食らうが、とっさに「まあね」といっておく。それをきいて芳沢は、横にいた有坂の背中をなぜか掌でドンと叩いてやっているのだ。
今日の部活動は、部長も参加できることになっていたのだけれど、ついさきほど文化祭の仕事で忙しいから無理になったとメールがきた。そこで部長をのぞいた五人で部室の外にでたのだが、返信メールを送る最後に、こう付け足してみた。
【ps.撮りたいものって、どうしたら見つかります?】