01.スクールカーストの最上位
「ハズレかなーーー」
教室に声が響く。
今日は高等部に上がっての最初の登校日だ。
声の主は、頭の後ろで手を組んで、椅子ごと背を反らしているライナーだ。
「あんまりかわいい子いないじゃん」
一瞬、クラスがしんとして、再びざわつき始める。
「はあ?そうかな、お前、目が悪いんじゃないの」
ゴットハルトが、すかさず反論する。
みんなに聞こえるように、わざと大声で。
「このクラスで、ラッキーだぜ」
「僕もゴットハルトに同意する」
エリアスもフォローする。
「机から足を降ろせ。ライナー」
俺がライナーを注意する。
「そうだ。行儀悪いぞ」
ルーカスも横から口を出した。
入学以来、3年間もグループをやっていると、自然とそれぞれの役回りが固定してくる。
スクールカーストというものがあるとすれば、俺のグループは常に最上位だ。
ライナーは、公爵家次男。
赤髪に緑の瞳のはっきりした顔立ちだ。
剣技が得意。
言動も含めて、よく目立つ。
ノリがいいし、頭も悪くないんだが、思ったことをそのまま口に出すときがある。
よく言えば、裏表がない。悪く言えば傍若無人だ。
ライナーは遊び人だが、別れ方が上手いのか、今まで修羅場になったことがない。
フォローに入った、ゴットハルトは伯爵家の次男。
薄い金髪に青い目の気さくな男だ。
明るい性格で、誰とでもよくしゃべる。
俺たちの中で一番コミュ力に長けている。
ライナーがやらかした時にフォローするのは、大体こいつの役回りになっている。
エリアスは、公爵家長男。
将来、家督を継ぐ立場にいるだけあって、滅多に羽目を外さない。
品行方正の優等生。落ち着いた性格。
金髪に緑の瞳の、絵に描いたような貴公子だ。
エリアスには、一つ下の学年に婚約者がいる。
美人かつ、品行方正で有名な侯爵家令嬢、クラウディアだ。
俺たちもクラウディアには一目置いていて、仲間に準じる扱いをしていた。
もちろん、絶対に手は出さない。
ちなみにライナーとエリアスは、タイプが全然違うものの、2人ともよくモテる。
2人は、学年を超えて、女の子たちの人気を二分している。
俺の横に立っているルーカスは、男爵家の三男。
黒髪に黒い瞳で、どちらかというと寡黙な方だ。
俺に言わせると、ただのツンデレで、カッコつけだ。
ただし、魔術師としての才能は、ずば抜けている。
怒らせると怖い。
仲間以外には、男女を問わず、誰に対しても平等に冷淡なことで定評がある。
そして、俺はユルゲン。
黒髪に金色の瞳。
俺には、これといった才能も特技もない。
剣技も魔術も勉強も社交も・・・なんでもそこそこできる。
器用貧乏というタイプなんだと自分では思っている。
なぜ、こんな目立ちまくっているグループの中心に、俺みたいなのがいるのかっていうと
ーーーーそれは、俺がこの国の王太子だから。
俺の将来の側近候補ということで、俺たちはいつも同じクラスになっていた。
クラス替えによって、新しく仲間内に加わる友人もいれば、違うクラスになってしまった仲間もいる。
でも、俺を取り巻くこの4人は、基本的に固定だった。
4人とも入学当初は、俺に遠慮をしていて、ぎこちなかった。
けれども、一緒の時を過ごしていくうちに、あっという間に遠慮がなくなっていった。
きっかけは、ライナーだった。
入学して2、3ヶ月経った頃だった。
俺の可愛がっていた愛馬が死んで、朝から超絶機嫌が悪かった俺の足をライナーがうっかり踏んだ。
ライナーもたまたま、その時、虫の居所が悪く、俺にろくな謝り方をしなかった。
ーーーー大げんかになった。
あの時は、よく、お互いに手を出さなかったと思う。
1年生の頃には、お互いにまだ加減がわからず、色々とすれ違いがあった。
何度か話し合いもした。
その時に、生徒である間は、お互いに敬語はなしでタメ口で話そうと決めた。
だから、仲間は俺のことをユルゲンと呼び捨てにしている。
クラスのみんなも、それに引きずられるように、俺のことを呼び捨てにするようになった。
俺は正直、それがすごく嬉しかった。
気まずいことがあっても、卒業後はお互いに引きずらないということも、その時に約束した。
だから、喧嘩は今でも普通にする。
時々、無礼すぎると思うことはあるものの、今では4人は、俺にとって、なくてはならない友人たちになっている。