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親友と恋人に裏切られたけれど、メガネでクールな先生と新しい一歩を踏み出す話

私はギョッとしてしまった。親友が、私の恋人と腕を組んで歩いていたからだ。


「ジニー。どうしました?歩みが止まっていますよ」


一緒に歩いていたケイレス先生が訝しげに尋ねてくる。赤銅色の髪と、眼鏡の奥から覗く剣のように鋭い目元。男子生徒からは指導の厳しさから「鉄の賢者」と恐れられ、女生徒からは常に冷静で揺るがない態度と美しい髪色から「アカガネの君」と呼ばれ、憧れの眼差しを向けられている。

身につけている教師用ローブには1ミリの皺もなく、背筋は常に姿勢良く伸ばされている。

厳格そのもの。

声をかけられて無視をするなんてとんでもない。授業中指名された者はみな、「はい!」と声を大きく張り背筋を伸ばして回答しなければならない。そんな先生に呼びかけられて、しかし私は顔を向けることすらできなかった。

私は渡り廊下の窓から中庭を見た。美しく整えられた庭園の中を、親友であるリリアンと私の恋人であるソーンがピッタリと体をくっつけている。


2人が顔を寄せ合う。


(あ……。キスした)


「ジニー?」


ケイレス先生がまた呼びかけてくる。

私は無理矢理顔の向きを変えた。

そう、私は今、先生と一緒に授業で使う資料を運んでいるのだ。だって私は日直だから。

本当はリリアンのはずだけど、体調が悪いと言って、先に寮に帰ったはずだったから。


「あ……。い、いえ。なんでもありません!早くこの資料、運んじゃいましょう!ね!」


さっさと歩き出した。さっきまで、アカガネの君と何を話していいかわからず無言だったのに対して、ペラペラと口が勝手に動き出す。


「さ、早く!急がないと食堂の限定メニュー、売り切れちゃいますよ!今日のメニューは何かしら⁉︎牛マグロの塩唐揚げだといいなぁっ!」


「ジニ、」


何かを言おうとした先生に、私は微笑んで見せた。先生は少し目を開いて、そして視線をふい、と下に向けた後口をつぐんでしまった。


(ああ私、今、きっとほおが引きつっているんだわ)


窓から見える空は、青く高く晴れている。


私は絶対に窓から下の景色を見ないようにしながら、資料室に向かって歩き続けた。


私の名はジニー。王立高等学院に通っている。

学院には王侯貴族やそれに比肩しうる商家だけが通える。ここで魔法や上流階級の教養を身につけつつ人脈の基礎を築いていくのだ。


私はスラムの出だ。貴族の子どもが道端に捨てていった絵本を拾い、どうにか読めるようになりたくて文字を学んだ。教えてくれる人なんかいないから、街に出て人の会話に聞き耳を立てた。店で買い物する人の言葉と出てくる商品につけられた値札やポップを照らし合わせたり、教会の中で行われる司祭の説法を、ゴミ捨て場で拾った破れた聖書とにらめっこしながら暗記した。汚い子どもはいれてもらえないものなので、扉の隙間から漏れてくる声を聞きながらだ。


道端で自分と同じ孤児たちに文字を教えていたところ、通りがかった領主様の目に留まり、声をかけられた。


独学なことを驚かれ、そこに至るまでのガッツを称賛され、「君はもっと素晴らしい教育を受けるべきだ!」とのことでこの学院へ入学を掛け合っていただいた。平民のままでは当然不可能なので、養子にまでしていただいたのだ。


たくさん学ぼう。知識と経験を詰め込めるだけ詰め込んで、故郷に持って帰ろう。期待に胸を膨らませ入学したけれど、人生そう甘くはないらしい。



「ちょっと2人とも!どういうこと⁉︎」


資料を運び終えた私はその足で中庭に向かった。そこにいるのはベンチで手を繋ぐ、親友と恋人。


「きゃあっ」

「げっ、じ、ジニー!いや違うんだこれは」

「そ、そうよ!これからソーンに勉強を教えてもらおうと思って」

「……勉強?」


慌てて誤魔化そうとしているのが見え見えの親友と恋人。

私はどんどん悲しくなっていった。


(ああ、冗談とかじゃなく、事実なんだ……)


「……私、今見ちゃったの。2人がキスしてるところ。ねえ、どうして?どうしてなの?」

「い、いや、聞いてくれジニー!」

「……もうだめよソーン。私もう耐えられない。ジニーに本当のことを話しましょう」

「本当のことって、」


リリアンナが立ち上がる。

私より少しだけ背が低くて、私とは違って鮮やかで手入れの行き届いた巻き髪で、華奢で、白くて滑らかな肌。少し潤んだ大きな瞳。


スラムで育った私とは違う、正真正銘のお嬢様。


「私とソーンは運命の相手なの。ジニー、あなたには本当に申し訳ないと思うわ。でも真実の愛ほど素晴らしいもなんて、この世にないはず。……あなたには酷だと思うけど、私たちのために身を引いて!お願い。親友でしょう?」

唖然として何も言えなかった。


(よく小説で見かける『頭を殴られたような衝撃』ってこういうことなのね)


『お願い。親友でしょう?』


この言葉をよく聞く。

課題を忘れたから写させて欲しい。

調理実習で失敗したから、自分のものと取り替えて欲しい。

テスト前だからノートを貸して欲しい。当日の朝返すから。


先ほども聞いた。


『ちょっと熱っぽくて……。保健室でやすみたいの。日直の仕事変わってくれない?お願い。親友でしょ?』


入学してすぐだった。周りは貴族ばかりで会話に入ることもできず、教室の中で1人でいた私に声をかけてくれたのがリリアンナだった。

ちょっと調子が良くて甘ったれだけれど、それも愛嬌だと思っていた。平民の出だということを隠しているけれど、それを打ち明けても態度を変えることなく『親友だ』と言ってくれた。

嬉しかった。だれも味方のいない学院内で、リリアンナだけが心の支えになってくれた。ソーンから告白された時、相談を聞いてくれたのもリリアンナだった。初デートで着る服が何もないことを打ち明けた時、彼女の服を貸してくれた。


ソーンとの恋は楽しかった。照れ臭くて、甘酸っぱかった。それだけ幸せな思いを2人にさせてもらったのだ。


暖かい思い出ばかりが流れていく。同時に、何もかもどうでも良くなった。


「……わかったわ。お幸せに」


俯きながら私が言うと、2人は手を取り合って喜んだ。


「わかってくれて嬉しいわ、ジニー。やっぱりあなたは最高の親友よ!」

「ありがとうジニー。俺たち、絶対幸せになるよ!」


さすがにそれ以上会話はできなかったので、中庭を後にした。


「ジニー」


ケイレス先生だ。メガネに反射して表情がよく見えない。

私は急いで笑顔を作った。

「あら、先生!どうされたんですか?まだ日直のお仕事がありますか?」

先生はため息つきながら首を横に振った。

「ジニー。そんな顔で笑ってはいけません。死人のような顔色です。……中庭での出来事、見ていました。私の研究室に来なさい。私と少し、お茶でもしましょう」


ケイレス先生の担当科目は錬金術だ。研究室には素材となる薬草や、金属や、獣の骨や爪、そして明らかな警告色のグラデーションで発光謎の液体が瓶に詰められて置かれている。

物は多いのに整頓されていて、乱雑な印象はない。磨かれた窓から日光が入り込んで暖かい。アカガネの君のイメージとかけ離れて、居心地の良さすら感じられる。


「どうぞ。ココアです。……どうしました?」

「あ、いやその、可愛いカップだと思って」


ビーカーにコーヒー入れてそうだなと思ってた。ポカポカココアが入っているのは、猫の絵が描かれた陶器のマグカップだ。

先生がクイッとメガネを上げた。


「……猫好きでしょう、あなた」

「はい、好きです。……あれ?なんで私の好み知ってるんですか?というか、あれ?私用なんですか?」

「いや、その。あれです。ゴホン……私は学院教師です。生徒の勉学だけでなく、心身の健全な成長を見守るのも私の仕事です。場合によっては生徒の抱える問題を聴取する必要があります。そういう時には、リラックスした方が話しやすいでしょう?そう言うことです」

「ああ、なるほど。すいません。バカですね私。私用だなんて。『自分だけの何か』なんて、持ったこともないのに……」

「……ジニー」


先生は私の正面に座った。まっすぐ私を見てくるが、先ほど感じたような威圧感はない。笑顔こそないが仏頂面ではなく、私を労るような優しい眼差しだ。


「先ほどの光景を私も見ていました。あそこにいたのはあなたのクラスメイトのリリアンナ=ドールキン侯爵令嬢と、同学年別クラスのソーニアス=ベルモントですね。ベルモント商会子息の。そして私の記憶違いでなければリリアンナ嬢はあなたの最も親しい友人のはず。ソーニアス氏は……あなたの恋人であったはずです」

「はい」

「あれは裏切りです。あなたとの信頼関係を、あの2人が裏切った。この状況で、あなたが我慢する必要はあるでしょうか?」

「あ、はい、いえ、でも……」

「でも?」

「……でも、私が我慢すればう、うまくいくじゃないですか?」

「うまくいく?」

「はい。あの2人は幸せになる。私は、ソーンと付き合う前に戻るだけで、リリアンナも親友なことにはこれからも変わりはなくて、」

「はい」

「でも私があそこで我慢しなかったらリリアンナは友達じゃ無くなって、2人は幸せになれないじゃないですか。私もきっと、苦しいまま日々を過ごすことになるし……」

「そうかもしれませんね」

「だからこれがいいと思うんです」

「リリアンナ嬢とは『親友』のまま。ソーニアス氏との交際を解消し、2人を祝福するということでよろしいですか?」

「……は、はい」

「そうですか。まあ、その点について少々話し合いたいことはありますがそれは一旦置いておいて……。じゃあ新しい恋人を作れますね?あなたは今独り身なわけですから」

「……ん?あ、まあ、はい……?」


ケイレス先生がぐっ、と顔を近づけてきた。


(うわぁ、肌きれい……。まつ毛長ぁ……)


私が呆けながらそんなことを考えていると、先生はニコリともせず真剣な顔で続ける。


「古くから『愛によってつけられた傷は愛でしか癒せない』というのが定石です。おまけに、いくらあなたの自己犠牲精神と愚直なまでの誠意により2人との交友を続けると言っても、今この瞬間のように精神的限界を迎える可能性は多いにあります。そんな時2人と距離を取る口実が必要なはず。『親友よりも優先度の高い関係にある人間から呼び出されている』とでも言うのが手っ取り早いでしょう。そう、『新しい恋人』です。現在あなたに恋人候補はいますか?」


聞き取りやすい声とテンポではあるが、否定するタイミングがわからない口調で問われて、私は戸惑いながら首を横に振った。


「え?え?い、いえ。いません」

「そうでしょうね」


先生が満足げに頷く。小さくガッツポーズまでしている。なんで?と思う。

しかしそれどころではなかった。


「じゃあ、私と恋人になりましょう」

「はい……。はい?」


私が呆然としていると、先生が私の手を握りにっこりと笑った。

鉄でもアカガネでもない、心底幸せそうな、花のように柔らかな笑みだった。




翌日。私が教室に入ると一斉に視線が注がれた。

リリアンナが昨日の顛末(真実の愛云々)を触れて回ったらしい。

当の本人はどうやら人から羨ましがられるようなハッピーエンドの恋物語として話したらしいが、クラスメイトからはそう思われなかったようだ。


「他人、それも友人の恋人を奪った…?私、倫理観のない人はちょっと……」

「しかも『これからも親友でいよう』⁉︎……ごめんなさい。理解できませんわ」

「自慢話だと思ってるんですか、それ……。……そう……」


上流階級の皆様はゴシップに飢えているもんだとばかり思っていたが、意外とまともな倫理観を持っていたらしい。


「嫌いじゃないけど、限度がありますわ。それに、勉強したりクラブ活動したり、学院に楽しいことはいっぱいでゴシップどころじゃありませんもの」だそうだ。


(そういえば、リリアンナは勉強もクラブ活動もまともにしてなかったなぁ……)


一方私はと言うと、リリアンナともソーンとも友人関係は続いたが、一緒にいる時間も、そもそも会話をする機会も減った。

授業でグループを作る必要があった時だ。いつもリリアンナとペアを作っていたけれど彼女はソーンとベッタリなのでひとりになってしまった。これではいけない、と言うことで勇気を出して別のグループに入れてくれないか声をかけたところ、入れてもらえた。

リリアンナの件もあって最初は腫れ物同然の接し方だったが、会話しながら課題を進めていくうちに打ち解けていった。


「ジニーさんはとても怖くて暴力的な人だと、リリアンナさんが言っていたの。でもそんなこと全然ないのね」


なんと、リリアンナは私の悪評を流していたそうだ。彼女に悪意はないのだろう。被害者でいるのが好きな人間だから、『そんなひどい人とも友人でいてあげる私』に酔っていたんだろうな、と思う。


性格だけじゃなく、私が盗賊団の娘である、裏町を支配する犯罪グループの令嬢であるとまで言っていたそうだ。なんだそれは。

流石にそれは強く否定した。じゃあ実際はどこの家の生まれなのかと聞かれたので、ためらったものの嘘はつきたくないと思い、正直に話した。


出身はスラムなこと。自力で勉強し、それが目に止まって領主様に養子にしていただいたこと。


馬鹿にされるかな。嫌悪されるかな。不安だったが、杞憂だった。


「なんですのそのガッツに満ちた話……!感動ですわ!」

「誰も蹴落とさない成り上がり……。ジニーさん。あなたは必ず幸せつかみますわ。そのガッツで!」

「私も欲しいですわ、そんなガッツ……!ジニーさん。今度一緒に勉強会しませんこと⁉︎」

「ガッツのあるジニーさん。一緒にお昼食べましょうよ」

「ガッツ=ジニーさん。一緒に教室移動しましょう」

「ガッツさん!」


いつのまにか私のあだ名は『ガッツ』になった。ううん、どういうこと?


そんな話をしたところ、先生は

「楽しく過ごせているようで、何よりです」

と微笑みながらココアをすすった。


卒業までケイレス先生との交際は隠し通した。流石に教師と生徒はまずいのでは?と思ったからだ。

実際、時々研究室でおしゃべりしたりこっそり手を握って終わりだったので誰にも気づかれなかった。


「私はバレても構いませんよ。なんせようやく思いが実ったのですから」


なんと先生は入学当初私にひ、ひ、一目惚れ!をしていたらしい。だがどう声をかけようか悩んでいるうち、私に

恋人ができた。致し方ない。身を引こう、と諦めかけていたところであの日がきて、死にそうな顔で笑う私を見て「自分が生涯守ってみせる」と決意を固めたらしい。そんな話を卒業式前日しみじみと語られて、私も顔から火が出る思いをした。



卒業式の日。私は友人たちと別れを惜しんだ。


「本当に行ってしまうのね、ジニー。主席卒業のあなただったら、学院で講師になることも王都で貴族の……。いいえ、王族の家庭教師になることだってできるのに」

「ふふ、そうね。でも私、やりたいことがあるから」

「あなたの故郷に学校を作る、でしょう?……そうね。私たちも支援するわ。大変だろうけれど、あなたならきっとできるわ。頑張って、ガッツ=ジニー!」


その時だ。声をかけられた。


「ジニー!」


振り返ると、リリアンナとソーンがいた。所在なさげなソーンと違い、リリアンナは目を潤ませながら私に向かってくる。

あの日以降、2人は2人きりでいることが多くなった。真実の愛云々で周囲から距離を取られてしまったのだ。


「あ、あの、ジニー。俺たち、」

「ジニー。私、あなたと仲直りがしたいの!」


リリアンナがずい、と距離を詰めてくる。思わず身を引いてしまった。


「仲直り?」

「あなたが私にしてきたことを謝って欲しいの。全部許してあげるから!」


そのとき周囲に戦慄が走った。

何言ってんだ、コイツ?

しかしリリアンナは構わず話し続ける。


「私とソーンが結ばれてから、あなたは私たちと距離を取ったわね。私が頼んでもノートを貸してくれなくなったり、課題をうつさせてくれなくなった。困ってるひとを助けないのはよくないことよ。そうでしょう?」

「そ、そう……かしら?」


後ろからヒソヒソ声がきこえる。


《違うでしょ》

《ジニーは特進クラスだもの。授業の進度も課題のレベルも万年赤点のリリアンナとは違うから貸せないわよ。意味ないし》

《しっ。私たちはひとまず黙ってましょう》


「そうよ。しかも、あの日以来お友達がどんどん離れていったわ。あなたが何か、私たちの悪い噂を流したんでしょう?」

「してないわ、そんなこと!」


《ジニーが?ないない》

《そもそもリリアンナの話題なんて出たっけ?》

《あんまり関わりたくなかったものねぇ、みんな……》


「嘘ばっかり。まあいいわ、真実の愛を掴んだ私に嫉妬してることくらいちゃんとわかってるもの。だってあなたずっと1人だったものね。でも大丈夫、前みたいに親友に戻れれば、新しい恋人を私が紹介してあげる。だから謝ってちょうだい」


リリアンナが尊大に告げる。

ハラハラと見守る周囲の視線を感じながら、私は少し考え、言った。


「謝るのはできる。でも、ごめんなさい。親友に戻る必要はないみたい」

「なんですって⁉︎」

「だって、私恋人いるもの。ね、先生?」


私はケイレス先生の方を……。いいや、『ケイレス』を振り返った。

ケイレスは式典が終わり、すでに教師用ローブを脱ぎ一般的な正装に着替えていた。退職する教師は最終日にローブを脱いで、学院を出る。それが習わしだ。


「おや、嬉しいですね。とうとう公言してくれるのですか」

「だって私、もう卒業したもの。先生と一般女性が交際しても、何も問題はないでしょう?」

「私にとって、ずっとあなたはプリンセスですよ」

「……ケイレスって意外とロマンチストよね」

「ふふふ」


周囲からどよめきと悲鳴が上がる。どよめきは主に男子生徒から。悲鳴は女子生徒からだ。

さっきまで憧れの存在ともう会えなくなることを嘆いていたのに、今は初めて見る微笑みに硬直すらしている。

リリアンナもあんぐりと口を開けている。


「あ、アカガネの君が……⁉︎ちょ、どういう……。冗談でしょう⁉︎」

「冗談であるものですか。これから一緒にジニーの故郷へ向かうのだし」

「どういうこと⁉︎」

「そのままですよ。ジニーは故郷で、誰でも通える学校を開きます。義両親や友人たちや、支援してくださる方は大勢いますが、肝心の教師が彼女1人では回りません。なので私もついていくことに決めました。なんてったって恋人ですから。ちなみにお付き合いを始めたのはあなたたちが真実の愛とやらに目覚めたあの日ですよ。もはや愛の記念日にしたいくらいです」


顔が真っ赤になるのがわかった。


「もうっ!ちょっ黙っててケイレス!……。そういうわけだから。ごめんなさい、リリアンナ。ソーン。きっともう、顔を合わせることはないと思うの。あなたたちの幸福は願ってるわ、友人として」


それでは、失礼します。


私は別れの挨拶を澄ました。リリアンナは立ち尽くしたままだが、彼女とそれ以上話し込むわけにもいかない。


「出立の時間です。急ぎましょう、ジニー」

「ええ。……ごめんみんな!大事なこと、ずっと黙っててっ」


友人たちは驚いた顔をした後、破顔した。


「本当よ〜っ!驚いてしまったわ!」

「誰か付き合ってる人がいるのはきづいてたけど、まさかアカガネの君なんて!」

「後でちゃんと手紙送りなさいよ!根掘り葉掘り聞くからね!」

「というか、必ず会いにいくからね!またね、ジニー!」

「さあ汽車の時間に遅れるわ、やるべきことがあるんでしょう⁉︎」


またね、と手を振りあいながら、私は涙がほおを伝うのに気づいた。


「いい友人を持ちましたね、ジニー」

「ええ。素敵な恋人もいるしね」


そうして私たちは手を繋いで校門を出た。少しの不安と胸いっぱいの幸せを携えて、新たな一歩を踏み出すのだった。

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