―― 第十九話 たまたま偶然現行犯発見 ――
御呉病院の『桜福ノ神倶楽部』第二司令室は、今日も賑やかだ。
一見すると宇宙船の艦橋にも見えるような光景の中、SF映画のオペレーターのような看護師たちが忙しく作業している。
「F-204依頼、このまま行けそうです」
「N-334依頼、どう対応するの?」
「例によって南原商店街の会長さんが偶然目撃する予定よ」
「了解! H-742依頼は?」
「条件付きでOK!」
「センセー、Y-565依頼、目標が報告と違うんですけど! こんなんないでしょー!」
「まずは君が落ち着いて」
「冷却システム切り替え中」
「リクエストの再表示、3-6分3-0点3-2秒」
「システムは現在正常に作動中」
一見するとカッコ良く見えるのだが、たまに商店街とか生活感豊かな台詞も聞こえてくる。意味がわからない。そもそも何を冷却しているのだろうか……。意味がわからない。
ちなみに研修医二人は、今日も相変わらず意味がわからない例のポーズをやっているだけで何もしていない。
と思ったら第二司令室のドアが開き、診察室から鬼の形相の看護師が入ってきて二人を掴むと「この忙しい時に!」と呟きながら診察室に引きずって行った。
まぁ診察時間真っ只中なので当然なのだが、この病院大丈夫なのだろうか……
神霊桜がある丘のふもとをショボクレた20代の男が、ため息をつきながら歩いていた。
虚ろな目をして前かがみで歩く姿は夢遊病者のようだ。
「そこのあなた」
男は声に気付かず、通り過ぎようとした。
「あなた!」
やっと自分が呼ばれていることに気が付いた男が見ると、裏路地の軒下にいるお婆さんだ。フードを被っていて顔がよく見えないが、占い用の机と椅子があり水晶玉が置いてあるところを見ると、占い師のようだ。こんな人通りの少ない場所にいるなんて不自然なのだが、不思議な迫力がある。
「あなた、女難の相が出てるわよ」
「へっ?」
男は一瞬自分のこととは思えず、キョロキョロと周りを見た。
「俺のこと?」
「そうよ、彼女と喧嘩でもしたの? ひどい女難の相が出てるわよ。占ってあげるからちょっと来なさい」
「う……、いや、その」
男は口ごもると、大きなため息をついた。
「いや、女難っていうか、単に俺……、振られただけなんだ」
「んーんんん……、んにゃあ、そうでもないみたいだよ」
水晶玉に手をかざして何やら唸っていたお婆さんが男の方を向いて言った。
「え?」
「あなたと彼女、まだ縁が切れていないわ、今なら修復出来るでしょうね」
「……それが、ダメなんだ。喧嘩しちゃって、いま着信拒否されて連絡取れないんだよ」
「なら、彼女の家の近くのコンビニに行きなさい。ほとんど毎日、夜1時に行ってるわ」
「へ? 何でそんな夜中に!」
「彼女、最近悩んで眠れないのよ。神頼みの供物を買ってるようね……。あなた彼女が何を怒っているのか分かってる? あなたは軽い冗談のつもりだったんでしょうけど、女にとっては絶対許せないこともあるのよ」
「う……」
「でも彼女も桜の神様に泣きつく程にあなたを思い、心の中では謝りたいと思ってるの」
明らかに突拍子もないことを言っているのに、お婆さんの言葉には不思議な説得力があった。
「いいこと? 会えたら素直に謝りなさい、それですべてうまく行くわ。安いプライドを優先するなら、これで本当にお別れね」
「……」
男は何かを決意すると、お婆さんに礼を言って走り出した。
「頑張りィや、日本男児」
その後ろ姿を見ながら、お婆さんが呟いた。
閑静な住宅街の一角、二階建ての古いアパートの前に何台もパトカーが停まっている。それを見て驚いた近所のおばさん達が集まって来て、井戸端会議が始まった。
「何があったの?」
「ここの二階にいたオジサンがね、隣町のキャバ嬢に入れ込んじゃってストーカーやってたんだって」
「えー、怖いわねー」
「たまたま通りかかった南原商店街の会長さんが、家に忍び込もうとしてた犯人を偶然見つけて通報したんだそうよ」
「南原商店街の会長って、最近下着ドロとか空き巣とか連続で捕まえて、警察から感謝状貰いまくってるわねぇ」
「あー、ニュースでやってたわね」
「会長さん、何かトラブルメーカー的な才能でもあるのかしら……」
南原町の大通りを大学生の男が三人、談笑しながら歩いていた。
「……ん? あれ?」
突然、その中のひとりがキョロキョロと辺りを見回し始めた。
「なんだ?」
「どうした?」
「あ、いや、以前ならこの時間帯って暴走族が走り回ってたと思うんだけど」
「そう言や……」
「知らんのか? 警察の一斉摘発で壊滅したぞ」
「はぁ?!」
「マジで?」
「俺も詳しくは知らんけど、ほとんど全員現行犯で捕まったらしいぞ」
「何で警察そんな張り切っちゃってんの?」
そう言うとスマホでニュースを検索し始めた。
「あ、書いてある……、ここ半年くらい南原町では
暴走族の摘発100%
引ったくり検挙率100%
自転車泥棒検挙率100%
壁の落書き取り締まり100%
……らしい」
「ヒャクパーて」
「何があったつーんだ一体?」
「俺ら、どこに向かってるんだ……」
トノの家のモニタールーム、所謂『桜福ノ神倶楽部』第一司令室でロボが呟いた。
今日はBUREIDOUの4人が全員揃い、モニターを見ている。
モニターには街の様子が映っているが、以前のようなトノの庭から望遠レンズで写した街の映像だけでなく、明らかに別角度から写した映像が複数ある。
「商店街の『桜福ノ神倶楽部』関係者の家全部に防犯カメラを設置して、すべてここで見れるようにしたが……」
「これでほぼ完全に南原町全域が監視下に入ったなw」
カミが自嘲ぎみに言った言葉に、デーモンが嬉しそうに答えた。
「このシステム、悪用したらトンでもないことに……」
「だがこれでどんな依頼が来ても対処出来そうだ、ふふふ」
トノも不安そうだが、デーモンはついに笑い始めた。
そんな時、第一司令室に『ピーピー』と警告音が鳴り響いた。
「ん? あの子らか」
見ると神霊桜の前に、南原中学の仲良し三人組、上江・春日・朝平がやって来ていた。また何か事件が起こり、神霊桜にお願いしに来たのだろうか。
「またですか……、本気で神様に呆れられてそうな気が……」
「うっさい! さっさと並んでお願いしなさい!」
「…………桜の神様……」
桜の前で並んでお祈りする三人。やはり何かあったようだ。
「桜の神様! 私たち、バンドとしてプロデビューしたいの! どうかお願い!!」
春日のあまりにもあんまりなお願いに固まるBUREIDOU4人。
「ここまで他力本願だと、いっそ清々しい……」
「何言ってんの! あたしの輝かしい才能を埋もれさすつもり? 人類の損失よ!」
「桜の神様ごめんなさいすみませんすみません……」
上江の突っ込みに激怒する春日。そしてひたすら謝る朝平。もはや収拾がつかない。
「どんな依頼が来ても対処出来るんだろ? この依頼、どーするんだ?」
「俺に聞くな」
ロボの容赦ない質問に、こめかみを押さえながらデーモンが答えた。
その頃、御呉病院の『桜福ノ神倶楽部』第二司令室は、相変わらず賑やかだ。デーモンは不在だが、看護師たちが忙しく働き、街の問題を次々解決している。ヘッドセットをつけて指示を出していく様は、完全に謎の地下組織にしか見えない。
ちなみに今は休診時間だ。……一応、超勤手当が出るらしい。
尚、研修医二人は例によって『帰れ・ぬるいな』ポーズをしているだけで何もやっていない。
……一応、彼らにも特別手当が出るらしい。
本当にこの病院大丈夫なのだろうか……
コミカライズ版
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