―― 第十八話 ぶっ潰す! ――
「本日休診日」の札が掛かった御呉病院の『桜福ノ神倶楽部』第二司令室に、カミとデーモンがいた。
カミがブツブツ文句を言いながらキーボードを高速で叩いている。デーモンが基礎を作り、カミが構築したシステムがついに完成しようとしているのだ。
加えて言うと、この指令室も更なる大改造が成されていた。司令官が座る椅子の後ろの壁一面に大量の縦型モニターがずらりと並び、桜福ノ神倶楽部メンバーたちの顔写真が表示されている。そしてなぜか全員、雷鳥とか呼ばれている国際的な救助隊の帽子を被りタスキを掛けている。若者ならともかく、商店街のお爺さんお婆さんたちが変なコスプレしている姿は異様としか言えない。これが個人病院の診察室の隣りの部屋とか、信じられない光景だった。
「ぇえい、クソ! まったく、なんてクソシステムだよ! こんなのデータベースとは言えねぇっつーんだ」
「すまんな、いつもなら丸投げするシステムに詳しいヤツがどこかに失踪してたもんでな」
カミの愚痴に爽やかに返すデーモン。
「くっ……、とりあえず、もしガサ入れくらってこのシステム見られそうになったらこのボタン押せ。今ある見られたらヤバイデータがすべて消えて無害なものに変わる」
「復旧は?」
「1日前のデータをパスワード入れて圧縮し、クラウドに自動でアップしているからな。半日あれば復旧する」
「パーフェクトだ! さすがはカミだ、さすカミだ」
「妙な略し方すんじゃねぇ!」
「すごいぞさすカミ、がんばれさすカミ!」
「てめぇ!!」
カミが大声を出したとき、突然「ピイィ、ピイィ」と警告音が鳴った。見ると後ろにある変なコスプレしたトノの顔写真の目が光っている。
「お? トノか、どうした」
デーモンが手元のスイッチを入れると、トノの写真がモニターになり、テレビ電話状態になった。トノが正面にいて、ロボが横にいる。
「ちょっと話があるんだが、今いいか?」
「良いぜ、こっちの用事は終わったところだ」
「今日ロボが来て、何か面白れぇ事ねーか?ってうるさいんで、先日の映像を見せてたんだが……、これを見てくれ」
トノがそう言うと、モニターにしょぼくれた男の画像とプロフィールが表示された。
<阿賀天千生>
・南原市中央北 在住
・65歳 独身
・苦悶コーポレーション 家庭教師派遣部門 部長
・前科二犯
「ん? 南原中学の朝倉胡桃の所にやって来てた悪質家庭教師派遣会社の勧誘員だな? こいつがどうかしたのか?」
「ロボがこの男に見覚えがあるって言ってるんだ」
トノはカミの質問に答えると、ロボの後ろに回った。
「俺らがバンドとしてデビューした頃、ヤバイ薬物事件があったの覚えてるか?」
テレビ電話画面の正面に来たロボが語り始めた。
「あぁ、あったな、ちっこい芸能プロダクションで所属してるアイドルを違法薬物中毒にしていうこと聞かせてたってヤツだろ?」
「それだ、それ。あの時より歳食ってるが、間違いなくその時捕まったプロデューサーだ」
「そう言えばこいつ、先刻の朝倉胡桃にも将来芸能事務所に紹介できるとか言ってたな」
ロボの話にデーモンとカミが頷いた。
「家庭教師派遣か……、カモの学生に睡魔と疲労が消える薬と吹聴して、また昔と同じ事をやってるかもな」
「どうする?」
「もちろん調査開始だ、もしギルティなら当然、ぶ っ 潰 す !」
「何故そんな嬉しそうなん、お前……」
悪い笑顔で叫ぶデーモンに、少し引き気味のカミ。
「それにしても、よく気がついたなロボ」
「フィギュア造形師なめんな。顔と骨格の特徴覚えるのは任せろ」
「顔に合わない人形遊びが役に立ったか。すごいぞさすロボ、天晴れさすロボ!」
「うっせぇ!」
それから数日後、南原町の中心部にある雑居ビルが騒然となった。
壁面に大きく『苦悶コーポレーション』『家庭教師派遣致します』『第一志望校合格率95%以上※当社調べ』と書かれた看板の前にパトカーが何台も止まっている。
ワイドショーのリポーターがカメラの前で何か言っていて、大勢の野次馬がそれを見ている状態で、この騒ぎは当分続きそうだ。
南原中学の昼休み時間、夫婦漫才コンビの春日と上江、そしてオッパイ娘こと朝平胡桃の三人が校舎の屋上にやって来て、なにやらヒソヒソ話し始めた。
「胡桃ちゃんとこに来てた家庭教師派遣の業者、すっごい悪質だったのね」
「ですねぇ、勉強の疲れが取れる薬とか言って麻薬渡してたなんて……。それも最初は合法ハーブで、徐々に違法なものに変えていくとか悪質すぎ」
「ウチの中学も被害にあった人がけっこういるみたいだし、胡桃ちゃん、良かったわねぇ」
「怖かった……、良かったぁ……」
春日と上江の話を聞いて、怯えた声を出す朝平。
「なんでも顔やスタイルが良い女の子は特に狙われて、念入りに薬物中毒にして芸能事務所で無理やり働かせてたとか……」
「まてマテ待て! だったらなんであたしが勧誘されなかったのよ! あの人たち見る目なさすぎでしょ!」
「それは当然……」
「あぁん?!」
春日に睨まれ、目をそらす上江。
「…でもよく摘発されたなぁ。ワイドショーで言ってましたけど、麻薬関連って現行犯で薬を持ってるか、身体から薬物反応ないと逮捕できないから難しいそうですからね」
そしてすかさず別な話題に変えていく。このあたりはさすがだ。
「薬物反応ってすぐに消えちゃうものなの?」
「常習者でなかったら、数日で消えちゃうとか。だから逮捕のタイミングが難しいんだそうですよ。それこそ、売人を追っかけて24時間ずっと街中を監視でもしてない限り」
「………………」
二人の会話を聞いていた胡桃が、突然遠くの山を見た。
「どうしたの、胡桃ちゃん?」
「ここから、丘の上の桜……見えるね」
「……えぇ、見えるわね」
「あの桜さんなら、この街全部……見れてるんじゃないかしら」
三人の視線の先で、神霊桜が微笑むように街を見下ろしていた。
コミカライズ版
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