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―― 第十六話 さっさと帰れ ――

 トノの家のパソコン室も大きく変わったが、デーモンが院長を務める御呉病院も大改造中だ。


 今日は特別休診日となっていて、岩本デンキが内装工事をやっている。ドンドンガガガと賑やかだ。


 そんな音が響く中、デーモンと看護師たちとデーモンが大学病院から呼んだ研修医二人が何やら打ち合わせをしている。


 看護師たちは毎度のデーモンの奇行に慣れているが、研修医たちは現状に困惑していた。



「先生、ちゃんと言われた通りに研修医さんたちの教育終了しましたよ」


「フム」


「いや、看護師が研修医を教育って、おかしくないですか?」


「というか、この病院すべてがおかしいですよね?」


 資料を見ながら主任看護師の報告を受けるデーモンに、研修医二人が突っ込みを入れた。どうやらかなり特殊な体験をしたようだ。



「あら?」

「なぁに?」

「嫌だった?」


「いえいえ」

「とんでもございません」


 看護師たちの冷たい笑顔と言葉に、条件反射のように答える研修医二人。ひとりは少し背が低いぽっちゃり体系で、もうひとりは痩せてひょろりと背が高いという、所謂凸凹コンビの漫才師のようだ。二人そろって笑顔で応える様子は漫才師というより居酒屋の笑顔の店員のようだが。



「よしよし、医者としてサマになってきたな。俺がいない時はよろしく頼むぜ」


「むちゃ言わんでください!」


「というか、これ何の工事やってるんです?」


「まぁいろいろだ」


 研修医たちは今日の工事内容ついて何も知らされていなかった。まぁ聞いていたとしても理解出来たかは疑問だが。


 そんな引継ぎとも言えない打合せが終わる頃、工事も終わった。



「あのぅ……、言われた通りやりましたけど……」


「出来たか!」


 なんだか不安そうな顔をした岩本デンキの青年の報告を聞いて、デーモンが嬉しそうに答えて立ち上がった。



「え? え? え?」

「な、なんで診察室の隣にこんなものが……」


 研修医たちが驚くのも当然だ。これまで資料室となっていた診察室の隣の部屋が、どこかの宇宙戦艦の艦橋か、三番目の新東京市の司令室モドキに大改造されているのだ。大型モニターがいくつも並び、それを操作するオペレーターが座る席とそれを指揮する司令官の椅子が鎮座している。そしてさらに司令官席の後ろに謎のテーブルと椅子が一組置いてある。意味が分からない。



「よし! ちゃんと神霊桜が見えるな、問題ねぇ。これで何かあった時に、いちいちトノの家まで行かなくてすむ」


 モニターをチェックして、デーモンが満足そうに呟いた。



「今日よりここを『桜福ノ神倶楽部(SFC)』の第二司令室とする!」


 デーモンが大声で宣言した。


 岩本デンキの青年が「うわぁ……」という顔をしている。



「あたし、こういうオペレーター役に憧れてたのよね♪」


「あなた昔からスター・トラックとか好きよねぇ」


「先生、これ超勤になるんですよね?」


「おう、当然だ、ボーナスも出すぞ」


「やったー♪ お手当はずんでくださいね」


 看護師たちには好評のようだ。早速オペレーター席に座ってモニターを操作し始めた。


 岩本デンキの青年が「うわぁ……」という顔をしている。



「おいお前ら、この手袋しろ」


 デーモンが研修医の二人に言った。


「はぁ……」

「なんですか?」


 困惑しながら手袋をする二人。


「で、お前はさらにこのサングラスして、ここに座って手を口の前で組め」


 少しぽっちゃりした研修医に謎テーブルの椅子に座るよう指示する。


「で、お前はそこに立て」


 痩せたノッポの研修医にその隣に立つよう指示する。


「そのまま~」


 デーモンが良い笑顔でその光景を写真に撮り始めた。


「センセもお好きですねぇ~」


 看護師たちも良い笑顔だ。


「「?????」」


 意味が分からず困惑する研修医二人。


 岩本デンキの青年が「うわぁ……」という顔をしている。彼はけっこうアニメ好きなため、この光景を見て「帰れ!」とか「ぬるいな」とかの台詞が頭に浮かんでいた。






 午後の光が薄れ、冷たい風が吹き始めた神霊桜へ続く坂道をひとりの男が登っていた。


 髪と髭は伸び放題、服も擦り切れて明らかに浮浪者の風体だが、身体つきはしっかりしていて年齢不詳だがイケメンの面影がある。


 やがて彼は道の途中で妙な看板を見つけて立ち止まった。


「神霊桜? なんだこれ?」


 以前トノが驚いた『お悩み解決! 神霊桜 この道をまっすぐ1km』という看板だ。


 男はしばらく考え込んでいたが、やがてまた神霊桜……、いやトノの家をめがけて歩き始めた。



 男は桜の木の前までやってくると、きょろきょろとあたりを見回し呟いた。


「ベンチ? 灯籠? しめ縄? ぬいぐるみ? 人形? ……こりゃまた、えらく変わっちまったな」



 男はベンチにドカッと座り込むと、しばらくボーッと桜を見上げた。


 そして後ろの家を振り返って見る。


「ここがこれだけ変わったってことは、あの家にはもうトノは住んでないのかな」


 そう呟いたとき、男の手が震え始めた。


「う、やべぇ」


 男は紙パックの焼酎をポケットから取り出すと、飲み始めた。


「チッ、アルコールが切れると震えるとか、くだらねぇ体になったモンだぜ」


 手の震えが落ち着いた男は、ため息をつきながら桜を見上げた。


 その時、男は奇妙な感覚にとらわれる。


 まるで誰かに見つめられているような……、それも自分のことを心から心配する親友に……



「クソ、このままじゃ近いうちに幻覚見えそうだぜ」


 男が自虐的な声を出したとき、足音が近づいてきた。


「おやおや、先客がいたのかい」


 突然フードを被った怪しげな老婆が現れた。


「よい、しょっと……、はァァァナムナムナム」


 そして男を完全に無視して桜の木に祈り始める。男はそれをボーゼンと見ているしかなかった。



「婆さん、ここには何の神様がいるんだ?」


「たくさんいるよ……、桜の神様や福ノ神、あぁ今日は人間のカミもいるねぇえへえへ」


「!!」


 間が持たず、なんとなくした質問だったが、返事は衝撃的だった。なぜならこの男のかつてのあだ名は……



「へ、へえぇ……、人間のカミねぇ」


 胡散臭そうにしばらく老婆を見ていた男だったが、やがて立ち上がって、どこかに行こうとする。


「怖いねぇ、そいじゃ、ま……」


「まぁまちんしゃい、あたしゃ占いやるんだ。あんたの運勢見てやるよ」


「ちょ、おい!」


 老婆が突然男の足にしがみつくと、そのまま懐から水晶玉を取り出し、勝手に占いを始めた。



「にーしィあーたーすーはーすーねーじょーちゃくきなみ……」


 水晶玉を男の前に掲げ、片方の手を水晶玉の上でゆらゆらさせながら呪文を唱える老婆が語り始める。


「ふぅぅん……、あんた、頭が良いんだねぇ、コンピュータに詳しいのかい。

 おぉ、歌手もやってたんだね。

 そして歌手としても、作曲家としても大成した。

 綺麗な奥さんに可愛い息子さん、羨ましいねぇ……。

 でも、ストレスをお酒で発散するにしても、飲み過ぎはダメよ。

 今ならまだ間に合うで、幻覚が出る前に禁酒し」


「婆さん、あんた何者だ?!」


 あまりに的確な占いに、男が叫んだ。



「ただの占い婆よ。家族も友だちも、みんなあんたを待ってるで」


「そうかい……、だが、俺はもう家には帰れないのさ」


「奥さんのことかい?」


「婆さん! 何を知ってやがる?!」


 あまりに異常な展開に男が身構えると、老婆が滔々(とうとう)と語り始めた。



「あんたが失踪したとき、ある人がいろいろ調べたの。

 あんたは作曲がうまくいかないと、すぐお酒に頼る人だったけど、失踪とかまでするタイプじゃない、何か失踪しなきゃいけない理由があったとしか思えないってね。

 で、調べたらあんたの奥さん、アル中寸前になったあんたを心配して、お酒をやめさせようといろいろ頑張ってたみたいね。

 そして頑張りすぎて、ちょっとやりすぎちゃった。


『お酒が嫌いになる薬』って勘違いしてお味噌汁に、シアマ…ロイド…、シアロマイド?…よく聞こえな…、シアナマイドを入れちゃったのね。


 この薬を飲んだ後にお酒を飲んだら、嫌いになるどころか最悪あの世逝きなの知らずに……、あぁ何とゆ~愛のすれ違いぃ。


 あんたは奥さんに隠れて飲むつもりで公園の竹やぶの中で軽い気持ちでワンカップを飲んで、昏睡状態となって死にかけた。


 ギリギリ助かったけど、これって立派な犯罪なのよね。

 だからあんたは、奥さんに夫の殺人未遂容疑がかからないようにするため病院を抜け出しそのまま失踪したの。

 どう? 何か間違ってる?」


「でええ~も~ん!!」


 男は周りをキョロキョロ見回した後、叫んだ。


「くっ! 出てこいデーモン! これはてめーの仕業だ「呼んだ?」ろあおぅ!」


 突然、男の後ろにデーモンが現れた。


 そして手招きすると、トノとロボも出てきた。



「ご苦労さん、助かったよ」


「なぁに、占い師役はもぉ慣れっこさね」


「これで何か旨いもんでも喰ってくれ」


 デーモンは礼を言うと、お婆さんに金一封の入った封筒を渡した。



「この婆さんは、みんなが集まるまでの時間稼ぎ担当だったってわけか」


「すまんねぇ、坊や」


「あはは~はは」


 お婆さんに謝られて男は……、いや元BUREIDOUメンバーのギター担当、カミこと神楽塚かぐらづかいさむはもう苦笑いするしかなかった。



 お婆さんが帰って行き、桜の前がBUREIDOUメンバーだけになると、なぜか同窓会でも始まったような雰囲気となった。


「まぁ座れよ、久しぶりだなぁ、カミよ」


「思ったより元気そうじゃねーか」


「だがこの臭いはひどすぎだ、いったい何日風呂に入ってないんだ?」


 デーモンとロボは笑っているが、トノは突っ込みを入れる。昔からカミとデーモンが常識外の行動をしたときは、トノがそれに突っ込むのが学生時代からのお約束なのだ。


「うっせぇ、お前なんかにゃ青空見ながら野宿する気持ち良さは一生理解できねーだろうよ」


「テントでもあるならともかく、着の身着のままの野宿の良さは正直一生理解したくないな」


「フン、自由には代償が付き物さ、慣れだ慣れ」


「自由の代償で、家族をなくしてどうする!」


「そーだそーだ!」


 カミとトノが中学生が戯れ合うような言い争いをしていると、ロボも参戦して来た。


「俺なんざ家族自体出来た事ねぇんだぞ!」


「……」


「お、おぅ……」


 あまりにもアレな意見に、トノもカミも言葉に詰まった。



「とりあえず、シアナマイドの件はもう有耶無耶になってる。お前の家族みんな待ってるから、さっさと帰れ。アルコールを抜きたきゃ俺が手伝ってやるぞ」


 デーモンが邪悪な顔で笑いながら言った。彼に頼んだら確かにアルコールは抜けるのだろうが、確実に地獄を見ることになるだろう。


「お前に頼むくらいなら、地獄の悪魔にお願いする方がマシだぜ」


「早速だがシステムをひとつ立ち上げて欲しい。なぁに簡単なデータベースの構築さ。写真からすぐに人物を特定できるような仕組みを構築したい、お前なら簡単にできるはずだ」


「ちっ、いったい俺に何やらせるつもりなんだ?」


「やらせる? そんなつもりはないぞ。単にいま面白いことやってるから、一緒にやらねーか?ってだけさ」


 そう言いながら笑うデーモンの顔は、どこから見ても邪悪そのものだった。



挿絵(By みてみん)

コミカライズ版

https://www.pixiv.net/artworks/105484523#1

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