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―― 第十五話 桜福ノ神倶楽部 ――

 最初はトノが作曲するときに使っていた作業部屋で、その後監視カメラの映像を映すモニター室に改造された部屋が、さらなる劇的ビフォーアフターを遂げていた。


 ちょっとした企業のコンピュータールームのようだった部屋は、なんということでしょう、多数の大型モニターがモニターアームで立体的に配置され、どこかの秘密結社の指令室というか、SF映画の管制室の様に大改造されていた。


 前面にトノとロボがオペレーターの様な恰好で座り、モニターを操作している。


 後ろ中央に司令官然としたデーモンが、ふんぞり返って座っている。


 そして各モニターには、以前商店街の福引きで幸運の女神とか福の神として活躍した人、チェリーサークルの主要メンバー、御呉病院の看護師たちが映っていた。全員がマイク付きのヘッドホン、所謂ヘッドセットをつけている。



「商店街の福の神諸君! 並びにチェリーサークルメンバー! そして我が病院の看護師たち!」


 デーモンがマイクを使って演説を始めた。


「知っての通り神霊桜には人の命に係わるような重要かつ緊急に対応しなければならない事案が存在している!」


 なんだか、どこかの野望を持った公国総帥か、一食抜くと死ぬ少佐の演説みたいだ。



「しかし現在、神霊桜に係わる我々は、それに十分対応出来ているとは言えない!」


「では、どうすれば良いのか?」


「そう、対応出来るように技術を磨けば良いのだ!」


「これより『桜福ノ神倶楽部(SFC)』第一回合同演習を始める!!」



「「「「「了解!あいよ!おけ!ラジャ!」」」」」


 みんなノリノリで返事をしている。


「ナニヤッテンダ」

「なんで俺様がこんなことを……」

いや、トノとロボは何かブツブツ言っている。


「ほっほっほ、孫とやるゲームより面白いのう」

商店街のおじいさんはノリノリのようだ。


「この街の路地裏なら、あたしゃ隅から隅まで知ってるよ、まかせな!」

商店街のおばあさんもノリノリだ。


「センセ、これも業務なんですよね!」

看護師たちも良い笑顔で楽しそうだ。



 なぜだか分からないが、どこかの使徒を迎撃する人型兵器が発進するときのBGMが響いている幻聴がしてきた。



「演習内容を発表する!」


「『神霊桜に自殺を(ほの)めかす投稿があった』ものとする!」


「ただちに投稿者(ターゲット)の映像を配布!」


「特定班は、ターゲットの名前・住所・環境を調査!」


「捜索班は、ターゲットの現在位置を把握!」


「勧説班は、特定班の情報を元に演出班と行動開始!」


「ターゲットがどこに居ようと、30分以内に身柄確保が出来るまでやるぞ!!」


 デーモンの声が響いた。





 数日後、神霊桜から街中へ向かう下り道を50代の女性がふらふら歩いていた。


 目には涙を浮かべ足元もおぼつかない状態で、塀や電信柱に寄りかかるようにしてなんとか進んでいる。



「あんた……、そこのあんた、やっと来たね」


 突然声を掛けられ、女性が驚きつつそちらを見ると、誰も気づかないような裏路地の軒下に占い師のお婆さんがいる。


 占い用の机と椅子があり、水晶玉まで置いてある。フードを被って顔が見えず、ものすごく不自然で胡散臭い。



「御神託を受けてね、あんたを待ってたんだよ」


「神託? ……すみませんが今そんな……」


「おおお、辛いよねぇ、一人息子を事故で亡くしてしまうなんて」


「え? ええぇえ?!」


「おいでぇ、話してみんしゃい」



 最初は怪しんでいた女性だったが、やがて吸い寄せられるようにお婆さんに近づいて行った。なぜならそのお婆さんも辛そうで、まるで……



「ターゲット、保護……」


「了解」


 物陰に隠れて一部始終を見ていたお爺さんがヘッドセットでデーモンに連絡した。



「タバコ屋のばあさん、途中まで占い師の演技上手くできてたのに」


「戦争で家族を失った世代だからなぁ、共感できるだけに辛いんだろう」


 抱き合うようにして泣いている女性とお婆さんをモニターで見ながら、ロボとトノが呟いた。



「占い師役と衣装と机のセット、もう二つくらい欲しいな。それでこの街のどこでも対応できるだろ」


「俺ら、どこに向かってんだ?」


 デーモンのなんとも言えない提案に、ロボが突っ込んだ。



「とりあえず『南原市自助グループ(チェリーサークル)』に入れるとして、それからどうすんだ? もう何人も保護したが、こういう人の心の傷なんか俺たちで癒せるのか?」


「あぁん? 癒やす? そんなこと出来るわけねーだろ。俺らは神様じゃねーんだぞ、自惚れるな!」


「……え?」


 ロボの問いかけに急に怒ったように返すデーモンを、トノが驚いて見た。



「この神様ごっこやり始めたのはお前じゃないか」


「何アツくなってんだ?」


 トノとロボが尋ねると、デーモンは大きくため息をついた。



「腹減ったな、ちょっと休憩するか。ロボ公、タコ焼き持ってきてたよな?」


 そう言うと、ふたりを連れて神霊桜の前のベンチに行き、タコ焼きを食べ始めた。




「俺たちができるのは一緒にいてやることだけ……、孤立させないってことだけさ」


「人間は一人で生きていけないし、一人で生きてはならない。人間は群れで進化してきた生き物だからな。孤独は人を狂わせ悲劇を生む」


「俺がやってるのは、孤立しそうな人に居場所を与えてるだけさ。助けようとか救ってやろうとか、傲慢なこと考えるんじゃねぇよ」


「悩める者に飾った言葉はいらねぇ、一緒にいるだけで良いのさ。神様じゃねぇ俺たちに出来るのは立ち直るきっかけを与えるだけ」


「生きていれば病気になったり、事故や事件に巻き込まれたりする。それは俺らにはどーしようもない」


「悲劇をなくせないなら、俺らに出来ることは幸福を増やす事で悲劇を上書きするしかねぇ。後は本人次第さ」


 まるで独り言のようにデーモンが語り、トノを見た。



「お前もそうだ! ヒメが死んでからのシケた顔はなんだ! ひでぇものだったぞ! 『桜園の誓い』を言ってみろ! オラ!」


 デーモンの剣幕に少し怯みながら、トノが語り始めた。


「我ら五人、生まれし……「生まれし日、時は違えども兄弟の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、無礼者の道を突き進まん! 辛気臭せェわ!」


 トノの声を遮って、ロボが怒鳴った。



「俺らは心を同じくして助け合い、無礼者の道を進むんだぜ! もっと楽しいバカをやろうぜ!」


「楽しくバカなことか、良いな。昔みたいに、ここでプライベートコンサートとかやるか?」


 ロボの意見にデーモンも賛同した。



「ここでさくらちゃんの10歳の誕生日に、お祝いコンサートやったのは何年前だ?」


「あぁ、SAKURAプライベートコンサートか、15年程も経つのか……」



 SAKURAプライベートコンサートとは、トノの娘さくら一人を観客としてこの場所で行われた伝説のコンサートだ。


 BUREIDOU(ブレイドウ)のメンバー五人全員が揃った最後のコンサートでもある。


 その後、さくらが事故死して、ヒメが癌で死んだ……



「15年ぶりのヒメさくら追悼、BUREIDOU死にぞこない秘密コンサート、4人でやるか……!」


 トノ、ロボ、デーモンの心がひとつになった。


 それと同時に、現在失踪しているメンバーを思い出す。



「神様気取りのあのバカ、一体どこにいるんだ?」


 誰かが呟いた。



挿絵(By みてみん)

コミカライズ版

https://www.pixiv.net/artworks/103440540#1

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