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巣が燃えてるよ、ねえ今どんな気持ち?

 昨日のナイト戦から一夜明け……。


「何だって昔の夢なんか見るんだか」


 夢を見た。それも秋良が女嫌いになった原因となった夢。目覚めは最悪である。


 頭をぼりぼりと掻き毟って布団をたたんで隅っこに蹴り飛ばす。不愉快極まりないが、今日も予定が詰まっているのでシャキシャキと動き出す。


 ショートソード以外の装備品を探索者用のバックパックに詰め、ポーチを腰に巻いたら準備完了だ。


 今日も秋良はダンジョン攻略に行く。


「3層……念のため4層まで調べておくか」


 秋良はダンジョン攻略WIKKIから『毒蜘蛛の狩場』のページを見る。


―――――――――――――――――――――――――――――――


『毒蜘蛛の狩場』

毒蜘蛛と呼ばれる蜘蛛型のモンスターが跋扈する熱帯樹林系の階層。

毒蜘蛛には二種類の生態タイプがいる。

巣を張るネット型と張らない地蜘蛛型である。

樹林という地形により、上下からの挟撃になる戦闘が非常に多い。加えて、牙と爪に遅効性の毒を持つため、攻撃をくらわない距離からの一撃必殺の戦法が推奨される。つるぎ封じの森とも呼ばれる。


むかつくので弓でハチの巣にするか、

火炎瓶を投げて焼き尽くしてやろう。

m9(^Д^)プギャー<巣が燃えてるよ、ねえ今どんな気持ち?


※ダンジョンでは火が延焼することはないので積極的に火を使ってOK(検証済み)

※この階層では必ず解毒ポーションⅠを持っていきましょう。死にます。


『毒蜘蛛の狩場』攻略ページは››こちら

『解毒ポーションⅠ』の調薬ページは››こちら


―――――――――――――――――――――――――――――――


「………………恨みつらみがすげえ」


 おそらくこの攻略ページを編集したのは秋良のような前衛職だろう。文面からにじみ出る悪意が生ごみレベルで香る。


 解毒ポーションⅠは『鬼の妙薬』と『蜘蛛の毒』を調合後、『スライムジェル』に溶かして作れる。


 持ってないと死ぬ、というのはマジだろう。特に秋良はソロシーカーだ。一つのミスが即敗北につながる。ここら辺は用意が必須だ。


 弓の心得がないため、攻略には火炎瓶を用意するのがベストと思われる。他に方法がないでもないが……それは特殊技能をもつシーカーの手段なので秋良は諦めた。


 4階層の攻略にもざっと目を通しつつ、秋良は荷物をまとめて支度を始めた。

 一回の売り場は暗く、すでに両親はパートに出かけていることが分かった。時給千いくらかのパートのために、両親は貴重な時間と自営業者の誇りを捨てている。音のしない売り場から勝手口へと出て、店の前の看板を見る。


 そこにはかつて『西乃雑貨店』と赤と白の看板が掛けられていた。

 今は……ペンキ塗りの白い壁面が、塗装が剥げてぼろくなっているけれど。



――父さん、母さん。


――俺が、この店を復活させる。


――ダンジョンアイテムを取り扱う専門店として復活させるから……!



 秋良は中卒後、バイトで資金をため、三年の月日を費やして探索者になった。かかった費用は100万以上だったが、目的のためだと思えばその程度の身銭は切って捨てられる。


 両親は秋良の選択を肯定も否定もしなかった。


 自分たちを落ちぶれさせた原因であるダンジョンに思うところはあるのだろう。しかし、秋良の熱意を間違っているとも言えなかったのだ。


 西乃秋良にとっての復讐は、ダンジョンでしかなしえないのだと。


「いってきます」


 ぼそりと呟いた秋良は店を後にした。



 西乃雑貨店の隣には小金井精肉店がある。ショーケースにはミンチ肉やら精肉、その上にはコロッケやメンチカツが並ぶ。お昼時なのもありそれらは胃にストレートパンチをかます暴力的な香りを放っていた。


 店番には見覚えのある金髪頭が、椅子に座って単行本を読んでいた。


「仁ちゃん?」


「……お、アキは今日もダイブか。精が出るなー」


「そういう仁ちゃんは肉じゃなくて油を売っていたみたいだな」


 言わずと知れた小金井仁は、客が途切れて暇そうにしていた。


 秋良は見た。声をかけた瞬間、読んでいた少年誌を閉じてカウンターの下に押し込んだのを。


「へへへ、まあそう言うなって。ちょっと待ってろ」


 まったく悪びれる様子なく、仁は惣菜用のパックにホットスナックを詰め始めた。コロッケとメンチカツを2つずついれて秋良に手渡してくる。


「もってけ。昼飯だ」


「は? いやお金払うよ」

 

「バカ野郎。汝の隣人を愛せよっていうだろ」


「仁ちゃんちキリスト教じゃないでしょ……けど、ありがとう」


 受け取った惣菜パックをポーチにしまうと仁が目を丸くした。


「秋良のそれ、『アイテムポーチ』か!?」


「うん。これがないとドロップアイテムが、すぐにいっぱいになるから」


 アイテムポーチは、ゲームで言うところの魔法のバックやインベントリといった大容量の亜空間収納庫である。秋良のポーチは一番小さいサイズだが、これで50万のダンジョン産アイテムである。秋良の高校時代に稼いだバイト代はほぼこれに消えている。


「ならサービスしてやる」


 なぜか惣菜パックがもう一つ分追加された。


「飯抜いたせいでダンジョンから帰ってこれませんってことがないようにさ」


「親父さんに怒られても知らないからな」


「親父の説法程度でアキの腹が膨れるなら釈迦や仏よかありがてぇじゃねえの! いいから持ってけ!」



 その心遣いに感謝して、ポーチに惣菜をしまう。



――俺の幼馴染は俺にはもったいないな。

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