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なんかすごいんだろうか?  

 小金井仁とダンジョンダイブする約束をした日。明良はシカ地下で仁と合流していた。恰好はいつもの軽装備にアイテムポーチのスタイルだ。


「よぉーアキ! 元気にしてたか?」


「うん。仁ちゃんは聞かなくても元気そうだね」


 仁の装備はゴテゴテとした中世騎士風味だった。シーカーとしてのハンドルネームは『小金騎士』。鎧が金色とかではなく、ただ金髪だからっていうのと小金井の苗字をもじったものだろう。


――まんまだなぁ……


 と思いつつ似合ってるから何も言わなかった。


「ところで仁ちゃん。もう一人、ダイブに着いてくる人がいるんだって?」


「ああ、桜庭叶恵ちゃんっていうんだ。かなり可愛い子で、シーカーと配信者兼業してるんだって」


「ふーん?」


――桜庭叶恵? どこかで聞いたような、無いような? まあ、挨拶だけしておけばいいでしょ。


 明良が年頃の男子にあるまじき思考を繰り広げながら待つことしばらく。


 その時はきた。


「おまたせ〜、待った?」


「いんやー全然! 待ってたよ叶恵ちゃん!」


 挨拶を交わす二人。

 明良は、仁の後ろからひょっこりと出てきて桜庭叶恵と対面する。ピンクの髪をなびかせて朗らかに手を振る女子。見覚えのある顔を見て、お互いに固まった。


「ナナシってやっぱり……!」


「うげ」


 明良は苦虫を噛み潰したように口元をゆがめた。『豊食の草原』で明良を良いように利用しようと企んでいた初心者女シーカーである。と、今思い出した。


「あれ、もしかして二人とも知り合い?」


 そこは空気を読まない陽キャ仁。場の凝り固まった空気をいい感じにぶち壊していく。


 叶恵が頷く。


「そ「いや俺は知らないよ。なんなら初めて会ったよ」待ちなさいよクソ陰キャ……!」


 陰キャ奥義『困ったときの知らんぷり作戦』。

 どこかで見たことがあったり、ちょっと話したことがある人とは知り合いではない。よって今知ったていを装い、現状に流されようという行き当たりばったりの秘策である。


「アキちゃん、マジでこの人連れてくの?」


「おう。結構動けるよ。俺が保証する」


「ふーん」


 明良は、叶恵の装備を確認する。前会ったときとはかなり違っている。


 軽装なのは変わらないが、テーマが違う。この前のはいかにもな駆け出し探索者ルックだったが、今日はなんというか……RPGの黒魔法使いだ。


 紫寄りの黒ローブと魔女帽子を被って、手には先の丸まったオークロッドを持っている。なんちゃって魔女スタイルだ。なんならハロウィンの仮装にいそう。


――そっちが本当の装備ってことか。


「そんなに見つめてどうしたのかしら? ちょっと可愛すぎたかな?」


 その場でくるっと一回転する叶恵。ピンクに染めた髪が遅れてついていく。目に悪い、どぎついショッキングピンクだなあ、なんて考えながら前髪で隠された両目を細めた。


「……気持ちわるっ」


「な に か ?」


「な ん に も ?」


 両者威嚇を緩めずに相対する中、小金井仁が割って入る。


「なんだもうじゃれ合うくらい仲がいいじゃねえか! これなら4階層も楽勝だな!」


 違うそうじゃない、と二人の思考はシンクロした。今ならツーカー、阿吽の呼吸でツッコミができそうだった。


 が、仁が楽しそうだったので明良は何も言わなかった。


 そういうことにしておいた。



☆★☆


 

 三人はダンジョンダイブを難なく進んでいった。第1階層はほぼ素通りして、第2階層は明良が単独でゴブリンを駆除していった。手際の良さを見て叶恵が「イカれてる」と言っていたが、明良は「訓練と強化さえすれば誰でもできるでしょ」と言い放ち、叶恵を啞然とさせていた。


 迎えた第3階層『毒蜘蛛の狩場』。ここで明良たちは進軍を止めた。


「アキ、ここから先は俺たちも戦うよ。少しは体を温めておかないといけねえし」


「あ、ごめん。先走っちゃってたね。じゃあ次は仁ちゃん……と明日葉(あしたば)さんの3人でやろうか」


 含みのありそうな間をおいてから提案する明良。それをジト目で見つつ、叶恵が「桜庭さくらばよ」と間違いを訂正する。


「ここから私、シーカーライセンス経由で生配信するからコラボよろしくねー」


「よっ、待ってましたっ!」


「は? 嫌なんだけど」


 ここで明良、当たり前のようにコラボ拒否。隣でテンションを上げながら拍手する仁との温度差がひどい。明良は陰キャを自覚しているゆえ、目立つことは極力避けたいのだ。


「大丈夫、大丈夫。モザイク設定すれば顔は映らないから」


「……仁ちゃんがそれでいいなら」


「俺は顔出し全然OKだぜ!」


「……じゃあ、俺の顔出しは絶対にNGで」


 しぶしぶ、明良は条件付きで生配信を許可した。「じゃ撮るよー」と言いつつ、叶恵はスマホをいじって配信をし始めた。配信が始まった瞬間、営業スマイルならぬ配信スマイルに切り替わった。


 明良的には感心するより吐き気を催す笑顔である。とりあえず心の中で軽く嘔吐しておくにとどめておいた。


「やっほー、皆~! 叶恵チャンネルのかなちんだよ~。今日は約束通り、コラボ相手の小金騎士さんとその友達、ナナシ君とダイブ配信していくよ~! ナナシ君は訳アリでモザイクだけど許してね~」



『待ってました~かなちん! 今日も炎上よろしく~!』

『小金ニキ、相変わらずイケメン……』

『今日はいきなり3層から!? 初めて見るけど大丈夫!?』

『こんかなー、ほんまにナナシ君おるやん! 顔モザイクで見えねえけど陰オーラやべえwww』



 スマホの配信画面にコメントが流れていく。しっかりと明良の顔にモザイクがかかっている。一応、本人を知らなければ身バレしない程度のものだ。


 動画実況者やダンジョン配信者(Dライバー)のことはよく知らないが、配信からすぐにコメントがつくのなら人気はあるんだろう。画面に向かってかなちん、もとい叶恵が手を振っている。死の危険があるダンジョンで配信をしている時点で、珍しいのにさらに女性シーカーとなるとさらに絶対数が少なくなる。存在自体が希少レアなのだ。


 叶恵のレア度はさておき、スマホに流れるコメントを眺めると気になるものがいくつかあった。



『同接10000人おめ~』

『まだまだ増えるぞ~、青い鳥とインストで拡散・共有しろおまいら! 目指せ100000人!』

『ナナシコラボ効果いいぞ~これ』



「同接? 10000人? なんのことだ?」


 明良には配信関係の用語はわからないが、コメントのざわめきを見るかぎりなかなか凄いことのようだ。


 明良が理解できずにぽかんとしていると、叶恵が「えっ、えっ? 同接10000超え? あれ、チャンネル登録数が……」と震えだした。


「チャンネル登録数が倍になってるーーーーーー!?」 


――なんかすごいんだろうか?

 

 明良には何がすごいのかさっぱりだった。

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