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第三十一話 取引

 南西に送った衛兵はみんな捕えられ、みんなを捕らえた男から、俺がその場所に一人で行くように命令された。


「ちっまじかよ……」


 俺は今更ながら、ライザの意見を押し通してでもそっちに向かえば良かったと思った。


「じゃ、ニ十分以内に来なかったら、この中からランダムで一人殺すからそのつもりでね~」


 その言葉と共に、通信が切られたようだ。


「ちっ いくらユートといえど危険すぎる……だが……」


 ゲリオスさんは血が出るぐらいまで、手に力を込めた。


「ゲリオスさん! 俺が行きますよ。こう見えても結構強いので」


 俺はそう言うと、ゲリオスさんの返事を待たずに部屋から飛び出した。そして、〈空間操作(スペーショナル)〉で衛兵の詰所近くの路地裏に転移した。

 転移出来るのは、一度行ったことがある場所のみだ。何故なら転移する時にはその場所を頭の中に思い浮かべないといけないのだが、行ったことがないと、そもそも思い浮かべることが出来ないのだ。


「じゃ、行くか」


 俺はそう言うと、〈身体強化〉、〈雷強化(ブースト)〉を使った。そして、ライザたちが行った建物の場所へ、屋根の上を走ることで、僅か一秒ほどで着くことが出来た。

 その後、勢いよくドアを開けて、建物の中に入った。


「ちっ……全員下か」


 〈気配察知〉を使ったところ、下に三百人近くの人がいた。


「どこから入るか……いや、時間がないし、ぶち壊すか」


 入り口が見つからなかった為、俺は〈アイテムボックス〉から白輝の剣を取り出すと、右手を振って、床を切り刻むと、その中に入った。


「……そっちか」


 気配を探ったところ、みんな一か所に集められているようだった。そして、そこに行くまでの道にも人がいて、そいつらは気配を隠しているように感じる。


「行くか」


 俺は一言呟くと走り出した。

 道中で隠れているやつらは十数人いたが、全速力で走っている俺を認知することが出来ず、何が起きたのかすらも分からずに死んでいった。

 そして、百メートルほど、蛇のように曲がりくねった道を走ったところでようやく一つの部屋に着いた。


「ここか……て、くそが」


 そこにいたのは拘束され、口を塞がれた衛兵たちだった。そして、その見張りをしている数十人の黒いローブの人間と、後ろにある玉座のような椅子に座っている白銀の髪に深紅の眼を持つ優し気な表情をした男がいた。そいつは軍服のような服を着ており、楽しそうに剣の手入れをしていた。


 その男は俺が来たことに気づくと、剣を腰のさやに戻して、立ち上がった。


「お、君がユート君か。始めまして。僕の名前はシャオニン。神の涙の幹部だよ」


 男――シャオニンは子供っぽい笑みを浮かべながら挨拶をした。


「ん? お前神の涙かよ。陰の支配者(シャドールーラー)じゃなかったのか?」


 陰の支配者(シャドールーラー)ではなかったことに俺は驚いた。そして、シャオニンはそんな俺を笑いながら見ていた。


「あははっ そいつらは僕たちの取引相手のようなものだね。だから、こちらとしてはあいつらを潰されるのはめんどくさいんだよなぁ……」


 シャオニンはそう言うと、ゆっくりと衛兵たちの前まで歩いてきた。


「それじゃ、取引をしよう。僕が要求するのは君の命。僕が差し出すのはこいつら。それでいいかな?」


 シャオニンは悪魔のような笑みを浮かべながら、くそみたいな取引を持ち掛けてきた。


「そうか……ただ、俺はお前たちを信用していない。だから、先にそいつらを解放しろ」


 別にこいつらなら簡単に倒せると思った俺はそう提案した。だが、シャオニンは「それならこの中から一人殺してあげようか?」と言ってきた。


「おい! 取引なら俺の意見も聞き入れるべきじゃないのか!」


 俺はそう叫んだ。だが、意味はなかった。


「え? だって僕たちからしたらこいつらをさっさと殺して、君も殺すって選択肢を取ることだってできるんだよ。ていうか、僕の方が君より強いよ。ディンを倒したからって調子に乗るなよ」


 シャオニンは口調はそのままに、目つきだけを鋭くさせながら言った。


「ちっ……くそ野郎が」


 だが、俺はこの時、一つの案を思いついていた。


(〈重力操作(グラビティー)〉でこいつらを強制的にみんなから引き離した後にみんなを〈結界(シールド)〉で囲んで守る。そして、皆殺しが一番良さそうだな)


 そう思った時、部屋に一人の男が入ってきた。


「おい! ユート! 無事か?」


 入ってきたのは、体中に切り傷を負って、息絶えたえとなっているサルトだった。


「サルト!? 何でそこから?」


「ああ、実はこいつらが万が一の為とか言って、俺を別の場所に監禁しようとしたんだ。だが、何とか逃げ切ったんだ……」


「そうか……」


 どうやらサルトは、万が一ここにいるみんなが救出された時の保険として、別の場所に連れていかれたのだろう。


「くっ……流石に痛いな……」


 サルトはよろよろとしながらそう言うと、ふらつきながら地面に座り込んだ。


「だ、大丈夫か?」


 俺はそう言うと、〈アイテムボックス〉に白輝の剣をしまった。そして、両手でサルトを支えた。


「ああ、大丈夫だ……そして……死ね」


 サルトはいきなりそう言うと、俺の首に剣を突き刺した。

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