第二十八話 ニナがさらわれた!?
「は~よく寝た……」
俺は目をこすりながらベッドから出た。ノアの方を見てみると、ノアはまだぐっすりと眠っているようだ。
「う~ん……これからどうするか……」
俺は神様から勇者と協力して魔王を倒せと言われている。だが、勇者がいつ、どこで召喚されるのか分からないし、そもそも魔王がどこで復活するのかも分からない。
「う~ん……まあ、取りあえずウォルフさんの所に顔を出しに行こうかな?」
ウォルフさんに、また顔を出しに行くといってあるので、一旦グランに帰ろうかと思った。そして、その時にウォルフさんから勇者や魔王について聞くのがいいだろう。
「……てかちょっと暑いな」
ローブを着てないとはいえ、体感三十度ぐらいの暑さだ。
「やっぱこの世界にも季節がありそうだよな……」
だが、流石に季節について人に聞くのは勇気がいるので、ウォルフさんと会う時に、自然に「最近暑いですね~」と言えば、季節関連の発言をするだろう。
「あ、てかノアの分の体温調節用の服も買ってあげないとな」
ノアが着れるサイズがあるかは分からないが、ノアの為だしそれなりに高くなっても買っておこうと思った。
俺がこれからのことについて色々考えていたら、ノアが「ううん……」と目をこすりながら目を覚ました。
「おはよう。ノア」
「……おはよ、パパ」
ノアは目をこすりながら起き上がると、ソファに座った。
俺はその間に〈アイテムボックス〉からローブと靴を取り出した。そして、ノアが行けそうになったところで、ローブを羽織り、靴を履くと、ノアと共に部屋を出た。
そして、一階に下りると、食事の為に席に座った。
ここは一部屋二万三千セルなので、二人になろうが部屋代は変わらない。ただ、朝食は別なので、子供サイズの食事の代金五百セルをあらかじめ払ってある。だから、ノアの分だけないなんてことはない。
暫く待つと、従業員によって食事が届けられた。
俺の食事は氷魚の刺身、米、ポテトサラダだ。ノアの食事は、バターロールパン、ミニシチュー、ポテトサラダだ。
「はむ……美味しい」
ノアはパンを手に取ると、小さくちぎって口に入れた。
俺も箸を手に取ると、刺身と米を一緒に食べた。
「ああ、美味しいな」
俺とノアは和やかに食事を楽しんだ。そして、その様子を周りの人たちはにこやかに眺めていた。
「さてと……じゃあ、グランに行くか」
「うん。行く」
俺はノアと手を繋ぎながら門へ向かった。
そして、門の前に来たところで俺は異変に気付いた。
「ん? あれはライザとサルトか?」
門の横にある衛兵の詰所の前で、二人は衛兵に何か必死に訴えているようだ。
何があったのか気になった俺はノアと共にライザとサルトの元へ向かった。
「ライザ、何かあったのか?」
俺はライザに声をかけた。すると、ライザは慌てつつも教えてくれた。
「た、た、大変なんだ!二、ニナがさ、攫われたんだ!」
「そ、そうなのか!?」
「あ、ああ、ち、近道を通ろうと路地裏を歩いていたらいきなり黒いローブの男二人に襲われたんだ! そ、それで、俺とサルトは逃げるのに必死で……」
ライザは説明の途中で涙を零した。
「そうか……」
俺は大粒の悔し涙を流すライザにかける言葉が見つからなかった。
ここで、サルトが目に涙をためながらも冷静に言った。
「この街には陰の支配者という違法奴隷組織がある。あの感じからして十中八九そいつらに連れていかれたんだと思う」
「陰の支配者か……」
ノアを奴隷にしたやつらだ。俺も、許してはおけない組織だと思っている。
「な、なあ、ユート。実は衛兵のアジト突入作戦が丁度今日なんだ。それで、俺たちもそれに参加するんだ。それで、ユートの力も貸してくれ。俺に出来ることなら何でもするから!」
ライザは泣きじゃくりながらそう言うと、深く頭を下げた。
「ああ、俺もやつらのことは嫌いだからな。むしろ俺がこの手で潰したいぐらいだ」
俺は力強く言った。ライザはその言葉を聞くと、腕で涙を拭い、「ありがとう。ありがとう」と、更に何度も頭を下げた。
ライザが落ち着きを取り戻したところで捜索の計画を練る為に衛兵の詰所に入った。そして、会議室に他の衛兵たちと一緒に入ると、席に座った。因みにノアは俺の膝の上にちょこんと座った。
「なあ、その子は?」
ノアのことにようやく気が付いたようで、ライザはノアのことを興味深そうに見た。
「ああ、この子の名前はノアだ。陰の支配者の連中につかまっていた所を助けたんだが、まあ、色々あって俺がノアの父親になったんだよ」
「そうか……この子も陰の支配者に……」
ライザは俯くと、そう呟いた。
暫くしたところで、深紅の髪と金色の眼との男性が入ってきた。引き締まった肉体を持ち、腰には高そうな剣をつけている。
「では、衛兵隊長、デークスがこの会議のまとめ役をする」
今入ってきた男――デークスの言葉で、会議が始まった。
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