第二十七話 のんびりと
「ねえ、さっきの怖い人たちはパパがやっつけたの?」
ノアが上目遣いで俺の方を見ながら聞いてきた。
「ああ、ノアにあんなことをしたんだ。許せるわけがないだろう」
俺はノアの方に視線を向けると、そう言った。
「うん。パパ強くてかっこいい」
ノアは笑顔でそう言うと、俺の手を握った。
「ははは……ちょっと恥ずかしいな」
ノアの純粋な誉め言葉に、俺は頬を指で掻きながら視線を横にそらした。
「じゃあ、ご飯にするか」
「うん。ご飯」
こうして、俺はノアと共に、夕食を食べるべく、近場の飲食店に向かった。
「お、ここがよさそうだな」
俺は葉月亭というよさそうな飲食店を見つけると、ノアを連れて中に入った。
「あ、お客様ですね。今、席に案内します」
俺たちが入ってきたことに即座に気づいた店員は、そのまま俺たちを対面の二人席に案内した。
そして、席に座った俺はメニュー表を開いて、それをじっと見つめた。
「さてと……俺はミノタウロスのステーキ定食にしようかな。ノアは何を食べたい? 何でも食べていいぞ」
一瞬で何を食べるか決めた俺はノアにメニュー表を渡した。
「え、え~と……な、何でも?」
ノアは”何でも”という言葉に困惑していた。
ノアはひどい暮らしをしてきた為、まともな食事を食べたことがないらしい。そんなノアがいきなり「何でも食べていい」と言われたら、困惑してしまうのも無理はないだろう。
「ああ、ただ、ノアは子供だからな……この辺のやつを選ぶといいよ」
俺がそう言いながら指を指したのは小腹が空いた人が頼むミニセットだ。
「ええと……これにする」
そう言って、ノアが指を指したのは小盛りのご飯の上にオークの焼肉が乗った焼肉丼だ。
「わかった。店員さーん!」
俺は手を振りながら店員さんを呼んだ。すると、〈身体強化〉を使ったのではないかと疑うレベルの速さでさっきの店員さんが来た。
「お待たせしました。ご注文は何にしますか?」
「ミノタウロスのステーキ定食とオークの焼肉丼ミニを一つずつください」
俺は、「これで”お待たせしました”なのか?」と思いつつも、注文をした。
「分かりました。では少々お待ちください」
そう言うと、店員は爆速で戻って行った。
十分後、店員さんが食事を届けに来てくれた。
「お待たせしました。こちら、ミノタウロスのステーキ定食とオークの焼肉丼ミニです」
「ありがとうございます」
「あ、ありがと!」
俺たちは食事を受け取ると、早速食べた。
「ああ、美味いな」
俺はご飯の上に切ったステーキを乗せて食べた。ミノタウロスのステーキは前にも食べたが、相変わらず美味しい。
「はむ……おいしい」
ノアはスプーンで焼肉丼をすくい、口に入れると、頬にご飯粒をつけながら笑みを浮かべた。
「ほら、ご飯粒ついてるぞ」
そう言って、俺がご飯粒を取って上げると、ノアは目を細めて笑った。
「はー美味しかった」
「おいしかった!」
夕食を食べ終わった俺たちは満足気な表情をしながら店を後にした。
「んー暗くなってきたしそろそろ宿に行くか」
「うん。行く」
俺たちは、前に泊まった風月亭へ向かった。
「は~久々のベッドだ~」
俺は数十日ぶりにベッドの上にダイブした。
ノアは、横にあるソファの上でゴロゴロしている。
「はぁ~じゃあ、ノア。シャワー浴びるぞ」
俺はそう言うと、ノアを抱きかかえ、シャワー室に連れて行った。
「じゃ、流すぞー」
俺はノアを脱がせると、シャワーの温かい流水を頭からかけた。
その後、極小の〈風壁〉で風をおこし、極小の〈火球〉で温めることでドライヤーのようにして髪を乾かした。
「わふ~」
こうして俺はノアの髪を乾かし、服を着せると、ベッドに連れて行った。
その後、俺もシャワーを浴び、さっぱりするとソファに転がった。
「はぁ~今日は色々ありすぎだろ……」
ようやく魔力が二十万を超え、ダンジョンから出たと思ったら違法奴隷組織に会うし、そこから助け出した女の子のパパになるし、ノアを脅した冒険者の全身の骨を砕くし……
これも絶対神様のせいだ。あの時の反応からして間違いないだろう。
「ま、でもノアとの時間は思っていたよりも悪くないな」
まだ一日しか一緒にいないのに、大切に思える人間になっていた。多分、この子の為なら大抵のことならやってのける自信がある。
そう思っていると、ノアがソファの横に来た。
「パパはベッドで寝ないの?」
ノアは首をコテンと横に傾けると、不思議そうに言った。
「ん? ベッドにはノアが寝るといい。俺はソファで寝るから」
「むー……パパと一緒に寝たい。だからパパもこっち来て」
ノアはそう言うと、ベッドに戻った。そして、ベッドの上から俺のことをじっと見つめてくる。
「……分かった。一緒に寝よう」
俺は諦めたかのような、それでいて嬉しいような、そんな感じの笑みを浮かべながらベッドに入った。
ノアは、俺がベッドに入るや否や、直ぐに俺の左腕に抱き着いた。
もうすっかりパパになってしまった俺はベッドに入ったノアを寝かしつけた。
「俺も寝ようかな」
そう呟くと、俺も意識を手放した。
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