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第二十六話 俺、パパになる!?

「お兄ちゃんについていきたい!」


「……へ?」


 女の子からいきなりこんなことを言われた俺はポカーンと口を半開きにしながら気の抜けた声を漏らした。


「実はこの子、スラム生まれのせいで父も母もいないって言うんですよ。それで、助けてくれたユートさんについて行きたいんだと思います」


 ここで衛兵がどうしてこうなったのかを説明してくれた。


「なるほどな……」


 俺は今、凄い悩んでいた。気持ちとしてはこのまま一人旅を続ける方が気楽でいい。だが、女の子を見捨てるというのは罪悪感で心がめちゃくちゃ苦しくなる。それに、俺の何となくな気持ちと、女の子の強い気持ちの二つを天秤にかけてしまうと、選択肢は一つに絞られる。

 その結果、俺が選んだのは――


「わかった。俺がこの子の保護者になりますよ」


 俺はそう言うと女の子の目線の高さまでしゃがんだ。


「君、名前は?」


「えっと……知らない」


 女の子は俯くと、小さな声でそう言った。


「あの、ユートさん。スラム生まれの人は名前を親からつけられないことがほとんどなのです。なので、ユートさんがつけてください」


「わ、分かりました」


 名前がない人がいるだなんて想像もしていなかった。そして、それと同時に俺はこの女の子のことがかわいそうだと思った。

 物心ついた時から一人。名前もない。そんな中、違法奴隷組織によって奴隷にされた。

 考えれば考えるほど涙が出てきそうになる。

 俺はそんな子に、新たな名前を考えた。


「……じゃあ、君の名前はノアだ」


 俺はこの女の子にノアと名付けた。


「ノア……私はノア。私の名前はノア」


 女の子――ノアは嬉しそうに自分の名前を連呼すると、俺に抱き着いた、


「パパ、これからもずっと一緒だよ」


 ノアからそう言われた瞬間、俺は頭の中でパニックに陥った。


「え……何でパパ……この年でパパ……」


 俺が混乱していると、衛兵がクスリと笑った。


「ははは……頑張ってください。ユートパパさん」


「が、頑張ります……はい」


 俺はこの日、一人の女の子の父親になった。




「では、頑張ってくださいね」


「言われなくても頑張りますよ」


 俺は手を振りながら衛兵の詰所を後にした。


「ねえ、パパ。これからどこに行くの?」


 ノアは俺の手を掴むと、上目遣いで俺の顔を見つめながらそう言った。


「ああ、これから冒険者ギルドってところに行くんだ。そして、そこで魔石を売るんだよ」


 俺はノアの方に視線を移すとそう言った。

 ノアは、「う~ん……」と考え込んだ後、「うん。分かった」と言ったが、絶対何も分かっていない。

 俺はそんなノアを見て、クスリと笑うと、そのまま冒険者ギルドへ向かった。




 ここは冒険者ギルドの中。

 目の前に転がっているのは全身の骨を砕かれた冒険者八人。(死んではいない)

 そして、それを不憫そうに見つめる周りの人。

 俺に抱き着き、泣いているノア。


「……やりすぎたかな?」


 それを俺は頭を掻きながら見ていた。


 さかのぼること十五分前。

 冒険者ギルドに入った俺はノアと共に受付に向かった。


「ひうっ」


 ノアが周りに一定数いるいかつい見た目の冒険者に萎縮してしまうこともあったが、俺が頭を撫でてあげることで、徐々に落ち着きを取り戻した。

 その後、順番が回ってきた俺はCランク以下の魔石を全て売却し、六十三万セルを受け取ると〈アイテムボックス〉に入れた。


「さて、もう夕方だし宿に行くよ」


「うん」


 周囲の冒険者が和むような雰囲気を出しながら冒険者ギルドの出口に向かった。

 するとここで――


「おい! ここはガキの遊び場じゃねーんだよ」


 いらだった様子で冒険者ギルドに入ってきた男冒険者八人組が、八つ当たりをするかのように俺に暴言を吐いてきた。


(まあ、ガキって発言をしたやつ以外は膝蹴りで十分かな)


 そう思っていた時、こいつらのターゲットがあろうことかノアに移った。


「おい! おチビちゃん。おらぁ!!」


 と、あろうことかノアを八人全員が威圧したのだ。

 ノアは泣き出すと、「パパ〜」と言いながら俺の腹に顔をうずめた。


「ぎゃははは! おもしれえ。直ぐに泣き出しやがった」


「おいおい、子供が泣いてるのにお前は何もしなくていいのか? あ、出来ないのか~お前、弱いから」


「おいおい、そう言うなよ。これでも一応パパらしいぞ」


「情けねぇパパだな」


 この時、俺は子供をいじめられた親の気持ちが理解できた。俺にガキやらチビやら言ってくる時よりもよっぽどムカつくことだ。

 そして、俺はあの魔法を使った。


「ゴミどもが!〈重力操作(グラビティー)〉!」


 俺はこいつらにかかる重力を百倍にした。


「な、がはっ」


「ごはっ」


 こいつらは全員LVが40後半と、そこそこ高かったことと、わずかに残った理性が手加減をしてくれたおかげで全員命だけは助かった。だが、全員が全身の骨を砕かれて、今にも死にそうだった。

 流石に脅されて、その報復が殺しは流石にまずいと思い、〈回復(ヒール)〉で絶妙に回復させた。

 そして今に至るというわけだ。


「ま、自業自得だよな」


 こいつらがいきなり暴言を吐き、ノアを脅したのだ。むしろもっとひどい目に合わせてやりたいぐらいだ。

 俺はもう一度こいつらを睨みつけると、泣き止んだノアと共に冒険者ギルドを出た。

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