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第二十三話 転移の魔法

 神様は俺をじっと見つめると口を開いた。


「そして、本題であるなぜ勇者を助けてほしいのかについてじゃが、それは魔王が少しずつ強くなってきてるからじゃ」


「そうなのか?」


「そうなのじゃ。最初は割と余裕で勝つことが出来たのじゃが、前回と前々回は相打ちなのじゃ」


「そ、そうだったんですか!?」


 俺はそのことに驚いた。確かにそれなら次からは負けてしまう可能性が高い。それを考えれば助けは必要だろう。


「そうじゃ。まあ、お主が予想以上に強くなったおかげでもう勇者はいらんかもな」


 今までの厳かな雰囲気が、神様の言葉で少し緩和された。俺も、それに合わせて意識を少し緩めた。


「え?俺ってもしかして魔王より強い?」


「そうじゃな。今のお主が魔王と戦ったらそこそこ苦戦する程度じゃな。じゃから、お主が余程油断をしない限り負けることはないじゃろう」


 俺はその言葉を聞いて安堵した。どうやら俺はいつの間にか勇者よりも、魔王よりも強くなっていたようだ。


「わ、分かりました。で、でも俺は一か月ほどでここまで強くなりました。なので、勇者も俺と同じようにやれば、俺と同じくらいの強さになるのではないでしょうか?」


 俺は勇者の強さに疑問を抱いた。すると、予想外の答えが返ってきた。


「いや、実は勇者というのは初代勇者の時を考慮して、召喚時から魔王を倒せるようにその本人の魂が耐えられるギリギリまでステータスを上げられた状態で召喚されるのじゃ。じゃから、そのせいでそれ以上LVが上がらないのじゃ」


「あ、そうなんですか」


 てっきり勇者というのは仲間と共にダンジョンを攻略してLVを上げ、強くなってから討伐するものだと思っていたから完全に予想外だった。まあ、確かに魔王もわざわざ勇者が強くなるのを待ってくれるわけがないので、その方が結果的にはよかったのだろう。


「まあ、わしから話すことは終わりじゃな。あ、元の世界に帰るのは魔王を倒した後にしてほしいのじゃ。そして、滞在するのは長くても十日で頼む」


「え?帰るも何も俺はまだ転移の魔法を手に入れてませんよ」


 俺は、いきなり神様から言われた言葉に戸惑った。


「え?もう使えるようになっとるぞ。ほら、闇属性の魔法で使えるものを見てみるとよい」


 俺はその言葉に胸の高鳴りを感じた。そして、ドキドキしながら闇属性の魔法を見た。


「えーと……〈闇操作(ダークシャドー)〉、〈重力操作(グラビティ―)〉、〈空間操作(スペーショナル)〉……転移なんて何処にも……てもしかして!?」


 俺はようやく転移の魔法。いや、転移が出来る魔法を手にしていたことに気が付いた。


「お、気づいたかの?」


 神様はクリスマスプレゼントを見て喜ぶ孫を眺めるおじいちゃんのような笑みを浮かべていた。


「はい。〈空間操作(スペーショナル)〉ですよね? 空間を操作することで転移が出来るようになると……」


「うむ。そういうことじゃ。あ、でもその魔法はあまり人前では見せんようにな。それを使えるのは魔王以外にはお主しかおらぬ」


「わかりました」


「うむ。それにしてもわしが反対した魔法を授ける時が来るとはな……」


 神様はどこか懐かしむような視線を虚空に向けた。

 それにしても神様が反対したって――


「あ、もしかしてこの魔法って神様と魔王が言い争いをしたやつですか?」


「うむ。そうじゃ。それは神様お気に入り三点セットじゃからな。わしらが好きな魔法を上から順に三つ入れた属性。それが闇魔法なのじゃ。それにしてもノリで作った属性を本気でこの世界に取り入れようとしてたとは……あやつも頭が悪いのう……」


「か、神様お気に入り三点セット……」


 しかもこの属性はノリで作ったという……何だろうか、ノリで作った魔法で大問題が起こったことには呆れてものも言えない。


「ま、まあ、分かりました。ところで何故まだ戻ってはいけないのですか? 別にこっちの世界の方が好きなので用事を済ませたらすぐに戻ってきますよ?」


 俺は別に元の世界に行き、あいつを軽くボコった後に警察に突き出したらさっさと帰ってくるつもりだ。


「うむ。時の流れの違いもそうじゃが、そもそも行って帰ってくるだけの魔力をお主は持っとらんぞ。あっちの世界では魔力が回復しないからの。大体二十万を超えれば往復出来るようになると思うぞ」


「に、二十万!?」


 俺は必要な魔力量に驚愕した。

 今の魔力量は約十二万。少なくともあと八万は魔力量を増やさなくてはならない。


「そうじゃな。現状で一番効率の良いLV上げの方法は最深部――百階層のフロアボスを何度も討伐することじゃな。魔王の復活までは九か月あるから気長にやるとよい。あと、わしと話したいことがあればフロアボスを倒した後に部屋の中央で『神様と話したい~』と願えばよい。ここに来るのも転移すれば直ぐじゃろう?」


「わ、分かりました」


 確かにエンシェントドラゴンならLV上げの効率が一番よさそうだし、今なら大して苦戦もしなさそうなのでストレスフリーだ。


「あ、そういえば歴代勇者って何で七十階層までしか行けてないのですか?」


 俺はこのダンジョンの攻略中に疑問に思ったことを聞いてみた。


「ああ、別に勇者たちはちゃんとここまで来て、わしと話しておるぞ。ただ、ここのダンジョンの百階層はわしの住む神域とつながっておるから、わしが認めた者以外はあまり来てほしくないのじゃ。それで、ここがどういう場所なのかを隠す都合上、七十階層までしか行けなかったということにしてもらっておるのじゃ」


 俺はそれを聞いて納得できた。

 最深部まで行けたとなれば、その情報は絶対に求められるだろう。そこで、下手な嘘をついて、それが嘘だと見抜かれたらめんどくさいことになるのは確定だ。


「分かりました。ありがとうございます」


「うむ。そろそろ時間じゃの。では、またの」


 神様はそう言うと、ニコニコしながら手を振った。

 そして、それと共にまたこの場が白く光り輝いた。

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